インダストリー・クラブ
情報収集を終え、サーシャたちは宿へ集まった。
そして、これまで集めた情報のすり合わせをした。最初に、レイノルドとシンシアが言う。
「魔王への謁見は厳しそうだぜ。そもそも、魔王城はとっくに解体されちまってるらしい」
「インダストリー様、魔王城跡地に新しく建設した『インダストリー・マーケット・アイランド』の最上層に住んでるっぽいよ。酒場のおじさんが教えてくれたの」
レイノルド、シンシアから酒の匂いがする。どうやら魔界の酒場を満喫したようだ。
インダストリー・マーケット・アイランドの情報はサーシャたちも得ている。
「魔王インダストリーに会うためには、『インダストリー・クラブ』のプラチナランクにならないといけないようだな……」
「はいはーい!! ねえねえサーシャ、『魔王印』だっけ。ヘスティア様からもらったヤツあれば、そのプラチナランクとかいうのになれるんじゃない?」
ロビンが言うと、サーシャは頷いた。
「私も同じことを考えていた。明日、みんなでクラブ入会とやらをしてみるか。場所は……」
「あ、それならワタシわかるよ。たぶん、町の中央にあると思う」
「なら、シンシアに案内をしてもらおう」
「ではサーシャ、わたくしはタイクーンと代わりますので。ふふふ、今日はいっぱいお買い物できて楽しかったですわ。あ、サーシャ用に買った下着、ちゃんと付けてくださいね!!」
「……嫌だからな。あんな、下着とは思えない……」
「おいおい、何買ったんだよ」
「聞きたい? すっごくスケスケの」
「ロビン!! こほん……とにかく、タイクーンと交換だ。明日はクラブ入会して、魔王印を使って一気にプラチナランクまで上がるぞ」
こうして、魔王インダストリーへの道を一歩進んだサーシャたちだった。
◇◇◇◇◇◇
…………が。
「な、何? プラチナランクに、上がれない?」
サーシャは、黄金の装飾がされた『魔王印』を手に、信じられない態度で言った。
現在、サーシャたちはシンシアの案内で見つけた『クラブ入会所』にいた。町の中央にある大きな建物で、クラブ入会だけではなく、会員しか利用できないショップや、様々な娯楽サービスを受けることができる施設となっている。
そこの『クラブ入会』と書かれた部屋に入り、シンシアに手続きをしてもらい、最後に魔王印を見せて一気にプラチナランクへ……と、思ったのだが。
「申し訳ございません。たとえ魔王様本人であろうとも、例外は認めません。まずはブロンズランクからのスタートとなっております」
受付の魔族女性は、魔王印を見ても一切動じることなく言う。
シンシアは魔王印を見せて言う。
「これ、魔王ヘスティア様からもらった本物だよ? ヘスティア様のこと知らないの?」
「もちろん、三大魔王のことは存じております。ですが……ここは魔王インダストリー様の国。インダストリー様が決めたルールは『たとえ魔王であろうとも、始まりは平等に』です。よって、皆様はブロンズランクからのスタートとなります」
事務的な言葉だった。
タイクーンはサーシャに耳打ちする。
「この態度、恐らく変わらない。魔王インダストリーへの忠誠心だろうか……魔王印に驚き、魔王インダストリー本人に確認くらいはすると思ったが、それもなさそうだね」
「ああ。想定内……か?」
「まあ、想定内だね。三大魔王が仲良しこよし、というのは考えていなかった。仕方ない、地道にランクを上げるしかなさそうだね」
ギリギリ、想定内だった。
サーシャは、受付魔族女性に食ってかかるシンシアを止めて聞く。
「わかった。ブロンズランクから始めよう。では、ランクについて説明してくれないか」
「かしこまりました」
◇◇◇◇◇◇
インダストリー・マーケット・アイランド。
そして、その施設を利用するためのクラブ会員制度。
まず、施設を利用するためには会員登録が必要になる。月謝制度があり、毎月決められた金額を支払い続けることで会員を維持できる。
ちなみに、商業国レムリアの住人の七割がこのインダストリー・クラブに入会している。
始まりはブロンズランクから。
ブロンズランクでは、インダストリー・マーケット・アイランドのショップで買い物をしたり、娯楽施設などを利用できる。もちろん月謝とは別に費用はかかる。
そして、ランクを上げることで、利用できる施設やショップのレベルも上がっていく。
ブロンズランクから始まり、アイアン、シルバー、ゴールド、そして最上級であるプラチナランク。
プラチナランクになると、レムリア王国にある元魔王城、インダストリー・マーケット・アイランドの『楽園』に敷地を与えられ生活もできる。
さらに、魔王インダストリーとの面会も可能……まさに、選ばれた者である。
ランクを上げるにはいくつか方法がある。
まず、一定金額を使い、インダストリー・マーケット・アイランドに認められること。
インダストリー・マーケット・アイランドでは、専用の魔道カードを使い買い物をすることで、ポイントが加算されていく。
ポイントが一定数に溜まると、カードの色が変化する。カードの色が変化した時に、受付で申請をすることでアイアンランクへと変わる。
現在、インダストリー・クラブの四割の会員がアイアンランクである。大抵はアイアンランクで終わるが、それだけでも十分なサービスが受けられるだろう。
もう一つの方法は、『価値のある物』をインダストリー・マーケット・アイランドに売り込むこと。
専門の素材買い取り屋に、中央平原などで得た素材を卸すことでポイントが入る。
賞金、ポイントが多く懸けられた魔獣なども存在し、それを討伐し素材を卸すことで、大量のポイントを手に入れることもできる……が、これは危険もあり、スキルを持った魔族でも実行に移す者は少ないとされている。
そして最後の方法。それは、『インダストリー・コロシアム』に参加すること。
レムリア王国の区画にある『闘技場』で戦士として戦うこと、そこで優秀な成績を収めることで、多くのポイントを手に入れることができる。
腕に自信のある魔族などが参加する。現在の戦士は皆、インダストリー・クラブのゴールドランクがほとんどであり、現王者は『オーバースキル』の持ち主であり、もう何年も王者として君臨している。
◇◇◇◇◇◇
「……以上です」
説明が終わり、受付嬢は一礼。
タイクーンはフムフムと聞いていたが、シンシア、ロビンは話の長さに疲れ切っていた。
サーシャ、レイノルドも最後まで聞き、仲間で話し合うために、登録後にもらえた魔道カードを手に登録所を出た。
そして、近くのカフェの個室に入り、今後の話をする。
「闘技場、そして素材卸し、このどちらかだな」
サーシャが言い、テーブルの中央に置いた魔道カードを見た。
シンシアは、財布から硬貨を出してカードに近づけると、なんとそのまま硬貨が吸い込まれた。驚くロビンに言う。
「そんなに驚かなくても、みんなだって同じようなの使ってるじゃん」
「あ、アイテムボックスのことか。確かにそうだよね」
タイクーンは言う。
「とにかく、ランクを上げるしかないな。中央平原に行って素材を狩るのも手だ」
「そういやハイセたち、中央平原に行ってきたんだよな。素材とかどうしたんだ?」
「少しはあるかもしれん。私も聞いてみよう」
「ね、ね、サーシャ!! サーシャなら闘技場で戦えるんじゃない?」
「ワタシ、買い物したいな。ポイントそれでも溜まるでしょ?」
五人はワイワイ話し、方針が決まった。
「よし。レムリア王国に行き、インダストリー・クラブのポイントを手に入れランクをプラチナまで上げる。そして、魔王インダストリーに会ってゲートキーを手に入れよう」
一行は、レムリア王国に向けて旅立つのだった。





