街を経由して
産業国レムリアへは、いくつかの町を経由して行く。
町から少し離れた場所で馬車を停めて収納し、五人は歩き出す。
一つ目の町であるギリューの町で、サーシャたちは驚いた。
「わ、なにあれ」
「ロビン。ジロジロ見るのはダメだぞ」
サーシャに言われ、ロビンは前を向いて歩きだす。
シンシアは、特に驚きもせずに言った。
「みんな、蜥蜴人見るの初めて? 人間界には獣人っていないんだ」
「……獣人。聞いたことはあるけどよ、ハイベルク王国には殆どいないし、砂漠の方に獣人の国があるって聞いたことはあるけどな」
レイノルドが、獣耳や尻尾が生えた獣人をチラチラ見ながら言う。
サーシャも、リザードマンとすれ違い、その体格の大きさに驚いていた。
「魔界では、普通のことなのだな……驚いた」
「あはは。パシフィスの王都にはそんなにいないけど、少し離れた農村なんて獣人しかいないよ。獣人って力も体力もあるから、農作業とかやるのにうってつけなんだ。リザードマンは獣人の一種って思われてるけど、それを認めない人たちもいるから、口に出しちゃダメね」
最後はボソボソと、なぜかレイノルドの耳元で言うシンシア。
サーシャたちも聞こえていたので頷く。
タイクーンは、目を輝かせながら言った。
「おおお、ここが魔界の町!! パシフィスでは待機組だったから見れなかったが……ふむふむ、あの住居の建築方式は見たことがないな。ん? この香りは何だ? あの屋台からか? おお、あそこは何だ? くうう思考を共有できる自分があと十人は欲しい!!」
興奮していた。
レイノルドがサーシャに言う。
「おい、首輪に鎖付けて首に巻いておくか? あいつ、好奇心で走り出すかもしれねえぞ。ある意味、オレら『セイクリッド』の中で一番ヤベー奴だしな……」
「さ、さすがにそれはな。とにかく……意外だな」
現在、サーシャたちは五人で普通に町を歩いている。
右を向けば魔族、左を向けば獣人、そしてリザードマン。
誰もかれも、サーシャたちは『人間』が往来を堂々と歩いていることに対し、気にも留めない。
「以前、魔族と戦ったこともあり、魔族全員が人間に対しどのような感情を持っているか考えたこともあった。シムーン、イーサンの両親のような件もあったしな……だが、こうして見ると私たちと何ら変わりない」
「オレらの出会った魔族が、極端すぎるだけだったのかもな。もしかしたらだけどよ……魔界、人間界を行き来する方法が確立すれば、友好的な関係を築けるんじゃねえか?」
「確かにな。少なくとも、ヘスティア様は問題ないだろう」
「ああ。ハイベルク国王とも、仲良く酒飲みできるかもな」
そう話していると、ロビンがタイクーンの腕を掴んで言う。
「ねえサーシャたち!! タイクーンが勝手に行っちゃいそうなの止めてよ~!!」
「離せロビン!! あそこは本屋……ぜひ寄らねば!! シンシア、魔界の文字を教えてくれ!!」
「い、いいけど掴まないで~!! ワタシにはレイノルドがいるの~!!」
サーシャ、レイノルドは顔を合わせ苦笑し、タイクーンを止めるべく向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇
この日は、ギリューの町で宿を取ることにした。
ヘスティアに頼み、人間界の酒と魔界の通貨を両替してもらったので金の心配はない。むしろ、心配事は別にあった。
「タイクーン……興奮するのはわかるが、少し自重してくれ」
「す、すまない」
珍しく、タイクーンがサーシャに叱られていた。
理由は、見るもの全てに興奮し、行く先々で目立ってしまったこと。
宿の一室に全員が集まり、今日の反省をする。
「なあサーシャ、タイクーンには悪いが、メンバー変えた方がいいか? こいつだと目立ちまくるぞ」
「む、ぐぐぐ……」
「あはは。タイクーン、何も言い返せないなんて珍しいかも」
「ふうう、ワタシまで目立っちゃったよ。タイクーンのバカ」
「ぐうう……すまない」
がっくり肩を落とすタイクーン。そして顔を上げて言う。
「よし決めた。サーシャ、ボクはピアソラと交代する。この町は広いし、情報収集だけならそう危険もないだろう。次の町へ向かう時に、再びピアソラと変わろう」
「確かにそれもいいが……いいのか?」
「ああ、興奮しすぎたことに間違いはない」
「とか言って。町で買った本をじっくり読みたいだけなんじゃない~? アイテムボックス内にはハイセもいるしさ」
「…………」
黙り込むタイクーン。どうやら図星のようだ。
シンシアは言う。
「まあ、この町の本屋も大きかったけど、レムリア本国にある大図書館なんてこれの比じゃないよ」
「……あまり好奇心を刺激しないでくれ!! とにかく、変わる!!」
タイクーンはサーシャが首から下げているアイテムボックスに入ってしまった。
そして代わりに、どこかホカホカした至福のピアソラが出てくる。
「ふうう、いいお湯でしたわ~。アイテムボックス内のお風呂、毎日入れるし、いろんな入浴剤もあるし、お掃除も魔力でできるし、最高ですわね~」
「ピアソラ、タイクーンから話は聞いたか?」
「はい。サーシャと魔界の町でデートできる!!」
「……違う」
「ふふふ。冗談ですわ。情報収集と女子のショッピングですわね!!」
「少し違う……まあいい。とにかく、明日から情報収集をする。魔王インダストリーと、レムリアについての情報を集めよう」
「サーシャ、オレら五人全員で動くか? 町ならそう危険はないと思うけどよ」
「……そうだな。二手に分かれ」
「はいはーい!! ワタシとレイノルド、サーシャとロビンとピアソラがいいでーす!!」
「わたくしも大賛成!! ロビンはそっちでもいいですけど」
「いやいや、そっちでいいよ」
「あのさ……そういう扱い傷つくんだけどさ!! あたし邪魔者にしないでよー!! うううサーシャああああ」
「わわわっ、と、飛びつくなロビン。とにかく……レイノルド、いいか?」
「ああ、いいぜ。へへへ、魔界の酒場でいろいろ情報収集するかね。シンシア、案内頼むぜ」
「うん!!」
「ふふふん、サーシャとデート~♪」
「……なんか不安になってきた。ねえサーシャ、あたしらはしっかりしようね!!」
「あ、ああ」
こうして、ギリューの町での情報収集が始まるのだった。
◇◇◇◇◇◇
サーシャ、ロビン、ピアソラの三人は、魔界の洋装店にいた。
店員は当然魔族。だが、「実は人間なんだ」と言っても「へえ、初めて見たわ」と言われただけ……やはり、敵意はない。
むしろ、肌の白さやスタイルなどに興味を持たれ、店員が進める下着や服など試着の連続だった。
そして今、試着室のカーテンが開き、妙に布地の少ない下着を付けたピアソラがポーズを取って言う。
「うふふ、どうですか、サーシャ」
「どうと言われても……なんだその下着は、としか」
「変態臭いね、ピアソラ」
「もっとましな感想をくださいまし!! もう……」
カーテンが再びしまる。
すると店員がロビンに何着か服を渡す。
「ねえねえ、これ試着してくれない? 私の最新デザインなのよ」
「へえ……うん、なんかいいかも!!」
ロビンはピアソラの隣にある試着室へ。
その間、サーシャは店員に聞く。
「質問をしていいか? レムリア本国に向かっているのだが……どんなところだ?」
「へえ、本国に行くんだ。そうねえ……あそこで手に入らない物はないわね。商業の町って言うのに相応しいところよ。これも全て、魔王インダストリー様のおかげね」
「……魔王インダストリー、どのようなお方だ?」
「あの方は天才ね。魔界をここまで発展させたのもあの方。ノブナガ様の子孫ってすごいわねえ」
「……ノブナガか。やはり、その名前が出てくるか」
ノブナガ。人間であり、イセカイの住人……正直、サーシャには『イセカイ』が何かわからない。
サーシャはさらに質問をする。
「魔王インダストリーに会うには、どうすればいい?」
「そうねえ……パシフィスみたいに王城に行って謁見申請ってやり方はできないわね。そもそもレムリア王国の魔王城はずっと昔に取り壊して、『インダストリー・マーケット・アイランド』になってるから」
「……なんだ、それは?」
魔王城がない。その話だけでも強烈だったが、さらにわからない単語が出た。
店員は楽しそうに言う。
「ふふ。魔界最高の娯楽施設……って言えばいいかしら。魔界に存在する全ての商品はそこで手に入るわ。それと、最大の目玉は『遊園地』ね」
「ゆうえんち……」
「ええ。テーマパークっていう、いろんなアトラクションがある遊び場なの。かつてノブナガ様の故郷にあった『楽園』らしいけど、入場料が高いし、『インダストリークラブ』の会員のプラチナランクじゃないと入場できないのよ」
「……えっと」
「あはは。難しいわね。まあ、この町でもクラブ入会はできるから、入会してみるといいわ。ふふ、プラチナランクになると、インダストリー様との謁見もできるわよ」
「!!」
その言葉を聞き、サーシャは頷くのだった。





