平和
スタンピード戦から一か月……ハイベルグ王国は、、ようやく日常を取り戻した。
七万の魔獣。倒して終わりではない。
その死骸の処理が一番大変なのだが、ハイベルグ国王が『魔獣の素材は自由にしてかまわない』と言うと、他国からの冒険者が大勢押し寄せ、死骸の八割を回収して行った。
これにはハイベルグ王国側も唖然とした。
救援は渋っていたくせに、こういう時だけハゲタカのように死骸に群がる……だが、死骸の処理がすぐに終わったのはありがたい。
一番の活躍をしたサーシャには、大金が送られた。
一生遊んでも使いきれないほどの大金だ。これは全てクランの運営資金と、チームたちに支払う報酬となった。
同じく、ハイセにも大金が送られた。ハイセの場合、全て冒険者カードに貯金。
王都のど真ん中に拠点を構えることができたが、相変わらずボロ宿屋にいた。
今日も、ハイセはボロ宿で、朝食を食べて薄い紅茶を飲んでいる。いつもと違うのは、新聞が手元にあったことだ。
「…………」
新聞の見出しに、『クラン『セイクリッド』がついに四大クランに加入秒読み。五大クラン誕生なるか』とあった。
紅茶を啜り、ハイセはカップを置いて新聞を置く。
立ち上がり、受付カウンターに金貨を置く。
「延長一か月。朝食と紅茶、新聞付きで」
「はいよ」
金貨を足元のビンに入れる店主。
いつもと変わらない。スタンピード戦が終わった後でもぶっきらぼうなのは相変わらずだ。
だが、これがハイセの望んだ日常。
急に笑顔で接客されても違和感しかない。このままなのはありがたい。
宿を出て、大きく欠伸をして背伸びすると……ひょっこりと、プレセアが現れた。
「おはよ」
「…………」
無視して歩きだすと、付いてくる。
隣に並んで歩くのも、日常となりつつあった。
「新聞、見た?」
「…………」
「サーシャのクラン、四大クランに加入間近だって。本人も『神聖大樹のアイビス様が支援してくれるようになった』って喜んでた」
「……お前、サーシャと仲いいのか?」
「ええ。一緒に食事するくらいには」
スタンピード戦後、いきなりサーシャとプレセアが突入してきた時は驚いた。その時は追い返したが、いつから仲良しになったのだろうか。
「あなた、いいの?」
「何が」
「表彰、すっぽかしたんでしょ」
「…………」
ハイベルグ王国から、国を救った冒険者の一人として表彰式があった。
だが……もう、面倒事に関わるのが嫌なハイセは、負傷を理由にサボったのだ。
真面目なサーシャが心配して再び宿に来たが、面倒なので追い返した。
「私から『ハイセはサボっただけ』って伝えたわ」
「おま、余計なことすんな」
「聞かれたから答えただけよ。それに、ほんとのことだし」
「…………」
ハイセは冒険者ギルドへ到着し、中へ。
いい時間帯で、依頼掲示板の前には誰もいない。
「討伐系?」
「ああ。お前は」
「薬草採取。スタンピード戦で、たくさんの薬が使われて、王都全体に薬が足りていないらしいわ」
「…………」
ハイセは一枚の羊皮紙を掲示板から取り、受付へ。
プレセアも、薬草採取の依頼を手に受付へ。
「はい!! あれ? ハイセさん……二枚ありますよ? しかもこれ、討伐系じゃあなくて、薬草採取ですけど」
「いいから余計なこと言わずやれっての」
「あ、はい」
少しバツが悪そうなハイセ。
プレセアは、三つ隣のカウンターで依頼を受けていたが、しっかり聞いてしまった。
「…………くすっ」
ぶっきらぼうだけど優しいヒト。
プレセアは、ハイセのことが本気で好きになっていた。
◇◇◇◇◇
「うむうむ。いい顔になったの、サーシャ」
「あ、ありがとうございます」
サーシャは、『神聖大樹』のクランマスター、アイビスと向き合っていた。
今朝、護衛も付けずにいきなりやってきたのだ。
さすがに驚いたが、来客用の部屋に通して話を聞いていた。
「ハイセといい、お前といい、若いのは面白いの。顔を見ただけでわかった……甘さが薄れ、色づき始めた果実のようじゃ。まだまだ成長する……くくく、実に楽しみじゃ」
「え、えっと」
「もう十分。よし、今度の『四賢人会議』で、お前のことを出そう」
「え」
「我ら四賢人の末席に、お前を加える。我々老人の集まりにも、若い風を入れた方がよさそうじゃな」
「……あ、アイビス様?」
「場所は……そうさな、ここにしよう。サーシャ、四賢人はワシを除いて偏屈なジジババの集まりじゃ。美味い茶、菓子を用意して待っておれ」
「あ、アイビス様!? あの、まさか……えっと、いきなりすぎて話に付いていけないんですが、私を……?」
「何度も言っておるじゃろ。お前を、ワシらの末席に加える」
つまり、四大クランへの加入。
サーシャはゴクリと唾を飲み込む。
「お前ならいずれ、禁忌六迷宮もクリアできるかもの。若いころのワシらも、いいところまでは行ったんじゃが……」
「…………」
「ふふ、いい顔じゃ。お前やハイセを見ると、ノブナガを思い出す……」
「え?」
「いや、何でもない。さーて、久しぶりの王都じゃ。いっぱいお土産買って帰らんとなぁ。無断で出て来たから、本部は今頃大慌てじゃの。わっはっは」
「えぇぇ!? か、帰らなくていいんですか!?」
「問題ない。ささ、遊びに行くぞサーシャ!!」
「え、あの、え、わ、私も!?」
「うむ。たまにはその硬い鎧を脱いで、おなごらしいカッコしたらどうじゃ?」
ぐいぐいと背中を押され、サーシャはアイビスと町に出るのだった。





