パシフィスの魔王ヘスティア⑪/第一の鍵
三日間のサバイバルをクリアしたハイセたちは、パシフィス王城の謁見の間にいた。
ハイセ、クレア、ヒジリ、エクリプス。そしてシンシアの五人。
玉座にはヘスティア、そして両サイドにプロクネー、ガシュトン。
ヘスティアは手をパンパン叩き、ハイセたちをねぎらう。
「驚いた。まさか、誰も欠けることなく、中央平原で生き残るとはの」
「約束だ。ゲートキーを寄越せ」
ハイセが言うと、プロクネーが六角形の石板を台座に乗せてハイセの前へ。
ヘスティアが言う。
「それが『厄災封印ゲート・イゾルデシステム』第一の鍵、『サンクレスト』だ」
「……なんだこれ。石板……?」
石のような材質で、六角形で、太陽が刻印された石板だった。
その気になれば、職人に依頼して同じものを作ることもできるだろう。
ハイセは受け取り、まじまじと見る。
「よくわからんが、ノブナガ様が残した物で間違いない」
「へえ……ん?」
と、久しぶりにノブナガの日記が熱くなったような感覚。
ハイセが日記を出し、ページをめくるとそこには。
◇◇◇◇◇◇
鍵……いろいろ悩んだが、思い切って『あるゲーム』を参考にすることにした。古ぼけた洋館、鍵穴じゃなくて石板をはめてドアを開錠……当時は面白いシステムだと思ったぜ。サン、ムーン、スターと三つのクレストを鍵とする。くくく、これを理解できる地球人がいればなあと何度思ったことか。
ま、とりあえず、オレの子孫よ、大事にしてくれよな。
◇◇◇◇◇◇
「…………???」
意味が不明だった。
とにかく、『サンクレスト』をアイテムボックスに入れ、ハイセは言う。
「じゃあ、これは預かる。全部終わったら返しに来るからよ」
「うむ。さて……お前たち、次はどの国へ行く? 工業国メガラニカか、産業国レムリアか」
「距離的にはどっちが近い?」
「同じだの。まあ……安全を取りたいなら、レムリアか」
産業国レムリア。
シンシアが言う。
「産業国レムリアは、技術者の国だよ。魔族の使う魔道具の研究所とか、日々の生活に役立つ道具とかを作ってる国なんだ。商売したけりゃレムリアへ、なんて言葉もあるんだー」
「ふむ……工業国は?」
「えーと、工業国は……その、魔導武器とか、魔導兵器を開発してる国、だっけ」
シンシアが言うと、ヘスティアが補足する。
「さらに加えて言えば、人間界へ渡る魔導船の開発なども行っておる。そして一番力を入れているのは魔導武器……魔族の『スキル』だけじゃない、戦うための武器だ」
「…………」
「『銃』……その武器の研究をしているところでもある。まあ、何の成果も出ていないそうだがの」
「……ふむ」
「さてどうする? 魔族の商人が集まるレムリアへ行くか、軍事国であるメガラニカへ行くか。どちらの魔王も一筋縄ではいかぬ『クズ』だぞ?」
「く、クズは確定なんですねー……」
クレアがドン引きすると、ヒジリは楽しそうに言う。
「まあ、ブチのめして鍵を手に入れるってのも面白そうだけどね」
「それはおススメしないな。特に、メガラニカの『魔導武器』や『魔導兵器』は、『オーバースキル』に匹敵する規模、威力を持つ物がある。それらを、ただの兵士が持っているんだ。いかにお前らが強くとも、数で押されればあっという間に敗北だな」
「それはどうかしら。ね、ハイセ」
エクリプスが言う。
ヘスティアは知らない……ハイセの持つ、本物の『兵器』の存在を。
真正面から戦うのも、最悪の場合ではアリだった。
だが、ハイセは言う。
「何度も言ったが……俺たちは冒険者であって、殺戮者じゃない。魔界の秩序を乱してまで、暴れるつもりはない。まあ……例外はあるけどな」
例えば、殺しにかかった場合とか。
そこまでは言わなかったが、この場にいる誰もが理解できた。
ヘスティアは、プロクネーに指示を出し、ハイセたちの前に黄金の装飾が施された『紋章』を見せ、ハイセに渡す。
「これは?」
「魔王ヘスティアが認めた者に渡す『魔王印』だ。それを見せれば、余が後ろ盾にいるという証でもある。よほどのことでない限り、魔族が手を出すことはないだろう」
「ままま、魔王印って、ままま、マジ!?」
仰天するシンシア。
ハイセの手にある黄金の紋章を、まじまじと見つめて震えていた。
「はは、ハイセ、これ、とんでもない物だよ。魔族なら誰でも知ってる魔王様の証……こ、こんなの見せられたら、もうひれ伏すしかないって!! ワタシ、まさか自分の人生で、これを直接見ることになるなんて……」
「……そこまで感動するモンなのか?」
「するの!! いい、とにかく絶対なくさないように……ってか、無くしたらワタシ本気で怒るからね」
「お、おお」
シンシアが本気で言うので、ハイセはアイテムボックスへ収納した。
ハイセはヘスティアに言う。
「感謝する」
「気にするな。ふふ……人間か。もし、人間界と魔界を行き来することができるのなら、余なら積極的に交流してみたいな」
「ふ……魔界から人間界に戻ったら、魔王ヘスティアはいい魔族でした、って人間界の王様に報告しておいてやるよ」
「それは嬉しいな。ふふふ、いつか行ってみたいものだ……ノブナガ様の過ごした世界。そして、会ってみたいの……ノブナガ様のかつての仲間に」
ヘスティアは、嬉しそうに微笑み、ハイセたちもまた微笑むのだった。
◇◇◇◇◇◇
その日は宴会となった。
ヘスティアが用意させたごちそうをみんなで食べ、女性陣は風呂へ。
ハイセは、ガシュトンに誘われ、城内にあるバーで飲んでいた。
「まさか、あんたに誘われるとはな」
「ふ……悪くないだろう?」
「ああ。そうだな」
魔界の酒はピリピリと辛口が多い。
だが、ハイセは嫌いではなかった。
「ハイセよ。産業国レムリア、工業国メガラニカ……どちらへ向かうのだ?」
「産業国レムリアだな。工業国メガラニカ……どうも、そっちでは危険なことになりそうな気がする。まだ産業国レムリアのがわかりやすい」
「……そうか。気を付けて行けよ」
「ああ、わかっている……が、明日はメンバーチェンジだ。頭脳派がいるから、難しいことはそいつらに任せることにする」
こうして、農業国パシフィスでの最後の夜が過ぎていった。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
ヘスティアたちに別れを告げ、一行は『産業国レムリア』に向かって進む。
馬車を出し、ウノー、サノーを呼び出して馬車とつなぐ。
産業国レムリアへ続く街道に入り、メンバーチェンジする。
「よし。今回は私たちだな」
「ふ……産業国レムリアか。実に興味深い」
「へへへ。魔界の酒、買えるなら買おうぜ」
「あたしも楽しみ~」
サーシャ、タイクーン、レイノルド、ロビン。そしてシンシアだ。
シンシアは、久しぶりのレイノルドに喜び、腕を取って抱き着く。
「レイノルド~!! ね、ね、しばらくはこのパーティーで固定だよね? ね、ね?」
「お、おお……そうだぜ」
「やったあ!! ね、ね、産業国レムリアでデートしたいな。ワタシのこと、もっと知ってほしいかも~!!」
シンシアはグイグイと迫る。
あまりないタイプに、さすがのレイノルドも押され気味だった。
そんな二人を見てサーシャはウンウン頷く。
「うむ。レイノルドも二十歳……そろそろ身を固める時かもしれんな」
「やれやれ。既婚者でも冒険者活動に支障はないと思うけどね」
「じゃあじゃあ、その場合ってシンシアも人間界に来るってこと? なんか嬉しいかもっ!!」
「……おいお前ら、助けてくれよ」
「レイノルド~!! えへへ~」
こうして、産業国レムリアでの冒険が始まるのだった。





