パシフィスの魔王ヘスティア⑩/深度2、灼熱地帯
サバイバル生活二日目。
ハイセたちは、中央平原深度2、灼熱地帯にいた。
「あっづ……な、なにこれ」
「し、師匠……これ、砂漠、ですよね」
ヒジリ、クレアは頭からシーツを被っていた……大汗を流しながら。
ハイセ、エクリプス、シンシアは涼しい顔をしている。
ハイセは、自分の身体が冷気に包まれ、さらに頭上に氷の板が浮かんでいるのを見て、同じような状態のエクリプスを見て言う。
「……なんだ、これ?」
「暑いでしょ? 外気温を調整するための冷気と、日よけの氷板を魔法で作ったの。安心して、私の魔法で作った氷は、自然の熱では溶けないから」
「「ずるい~!!」」
と、ヒジリとクレアが抗議。
エクリプスはにこっと微笑むだけ。代わりにシンシアが言う。
「ね、ワタシが熱さの遮断しよっか? 氷魔法は大得意!!」
「お、おねがいしますー……この暑さ、人間が耐えられるものじゃないですー」
「同感。こんなクソ暑い中じゃまともに動けないわ……」
シンシアが魔法を使い、クレアとヒジリの周囲を冷気で包む。
二人は気持ちよさそうな顔をしていた。
そして、ハイセは砂漠を見て言う。
「……ディザーラ王国の砂より硬いな。色も黒っぽい」
見渡す限りの砂漠……中央平原深度2、灼熱地帯。
黒っぽい砂、所々に見える岩石や岩場地帯、灼熱の太陽、そして上空を飛ぶ巨大魔獣。
この地帯も一筋縄ではいかない。ハイセはアサルトライフルを具現化し、マガジンを取り外してチェック、はめ直し、コッキングレバーを引く。
「ヒジリ、クレア、前衛行けるか?」
「はい!! 涼しくなりましたり、やっちゃいます!!」
「アタシもいけるわ。ふふん、今日も大暴れ!!」
「よし。前衛は任せる。シンシアは中衛、俺はエクリプスを守りつつ援護する」
「よーし、ワタシだって活躍しちゃうよ!!」
「守る……ハイセが、私を……っひゃ!?」
妙にぽわぽわしたエクリプスの尻をヒジリがベシッと叩いた。
「呆けてんじゃないわよ。行くわよ」
「……口で言ってもらえるかしら」
「よーし!! 今日も全力全開ー!! 師匠、行きますよー!!」
「黙って行け」
「あっはっは。ワタシ、アンタらと一緒だと飽きなくていいや」
一行は、灼熱地帯へ踏み込んだ。
◇◇◇◇◇◇
砂漠地帯は、森や平原以上に過酷なところだった。
「ひゃあああああ!! しし、師匠おおおおおおお!!」
「チッ……油断しすぎだ!!」
ハイセはアサルトライフルを連射。
突如、砂地から現れた巨大なカエルの舌に絡まったクレアを救出する。
弾丸が舌に命中して千切れ飛び、クレアが落下してくるのをキャッチ。砂地にいたカエルにグレネード弾をブチ込むと爆発……肉が飛び散った。
「うううう師匠おおおお!! 気持ち悪かったですううう!!」
「くっつくな馬鹿早く戦え!!」
「あうう」
クレアを離し、ハイセは周囲を確認。
上空を飛ぶ巨大なハゲワシのような魔獣に魔法を放つエクリプス、あちこちで起きる流砂に飲み込まれそうになっているヒジリ、エクリプスを守るように矢を連射するシンシア。
「砂地……思った以上に厄介だ」
流砂。
歩いていると、いきなり砂が陥没……蟻地獄のように吸い込まれそうになった。
ギョッとする一行だったが、ヒジリが砂をミスリルの板に変えて足場にして脱出……それが引き金になったのか、砂漠の魔獣たちが大量に現れ、襲い掛かって来たのだ。
クレアは闘気を纏い、根っこを足のように動かして襲って来るサボテンを両断する。
「ううう、き、気持ち悪い魔獣ですっ!!」
シンシアも魔獣の名前がわからないのか、向かって来るサボテンに氷の矢を放ちまくる。
矢が命中すると、魔獣は体内から凍り付いた。かなりダメージがあるらしく、サボテンは凍り付くと動かなくなる。
「クレア、サボテンは任せて、大物お願い!!」
「はい!! 師匠、援護を!!」
「ああ。エクリプスはヒジリを!!」
「任せて」
ヒジリは、砂中から現れた巨大なワニと戦っていた。
ワニが現れるなり、カエルやサソリ、ハゲワシの魔獣が一斉に逃げ出した。サボテンだけが襲い掛かって来る。
「大物じゃん。どうやらコイツからすると、カエルとかはエサのようね」
『グロロロロロロロ!!』
聞いたことのない唸り声に、クレアは双剣を構えつつも青くなる。
「こ、怖いですね」
「下がってていいわよ。アタシが楽しむ」
ヒジリの両手、両足に巨大な金属が纏わりつく。
だが、クレアは闘気を漲らせた。
「私だってやりたいです!! それにヒジリさんとこうやって肩を並べて戦うのも、いい経験ですしね」
「言うじゃない。じゃあ、付いてきなさい!!」
「はい!!」
ヒジリ、クレアは、巨大ワニに向かって走り出した。
それを見て、ハイセとエクリプスは言う。
「ハイセ。ヒジリは意外と、面倒見がいいのかしら?」
「かもな。あいつ、イーサンに対して、いい師匠やってるようだし」
「ふふ……援護、する?」
「一応な。まあ……いらないかもしれん」
意外にも息の合うクレア、ヒジリは、やや苦戦しつつも巨大ワニを討伐するのだった。
◇◇◇◇◇◇
その日は、一日中戦い漬けだった。
砂漠の中央にある巨大な岩石地帯に入り、ヒジリが巨大な鉄鉱石を形成。中身がスカスカなので、外見だけは巨大な鉄鉱石に見えるだろう。
鉄鉱石内で、ハイセたちはようやく休憩することができた。
「さすがに、疲れたな」
ハイセは、疲れたように見えない顔で言う。
ヒジリも、汗を掻いて肩で息をしていたが、とても生き生きとしていた。
「あー楽しい!! 戦い漬けの一日……こんなのがずっと続けばいいのに!!」
「ううう……私は疲れましたよお」
クレアはぐったりしていた。
シンシアも、エクリプスも疲れていたのか元気がない。
ハイセはアイテムボックスから椅子やテーブル、テントを出し、距離を取って目隠しを作った。
そして、湯で満たされた樽を四つ出し、全員に言う。
「風呂で疲れを取って、今日はゆっくり休め」
「し、師匠……なんて優しい!!」
「……お言葉に甘えるわ。さすがに、疲れたわ」
「ワタシも~……外気温は冷気で調整してるけど、ずっと動いていたし汗だく~」
「アタシも疲れた!! 一番風呂~!!」
ヒジリはジャケットを脱ぎ、パンツを脱ぎ、サラシを外しながら移動……樽に飛び込んだ。
クレアも鎧を脱ぎながら、エクリプスとシンシアも目隠しの裏側へ。
その間、ハイセはベッドを四つ並べ、テーブルに軽食を用意し、自分も汗を拭いて着替えを済ませ、一人食事を開始……ポツリと言う。
「……あと一日。帰りを考えると、明日は平原に戻るルートだな……ようやく、ネクロファンタジア・マウンテンの最初のキーが見えてきた。あと二つ……」
「あ~気持ちいいですねえ」
「そうね~」
「うわあ……ヒジリ、エクリプス、胸おっきいねえ」
「シンシアさん、私は私は?」
「クレアは……ワタシと同じくらい?」
「こんなモン邪魔なだけなんだよねー、エクリプス、アンタはどう思ってる?」
「女性の胸は、子供が生まれた時にこそ必要よ。大きすぎるのは邪魔だけど、これくらいの大きさなら……赤ちゃんにお腹いっぱいお乳をあげられるわ」
どういう会話なのか、女子はキャッキャと楽しそうだ。
すると、目隠しからクレアがひょこっと顔を出す。
「あー!! 師匠、ご飯先に食べてますっ!!」
「別にいいだろ。それより、満足したらメシ食って寝ろよ。明日は早朝から移動だぞ」
「はーい……そういえば、お腹も空きましたあ」
この日はそのまま休み、翌日は灼熱地帯を逆戻りして平原へ……再び魔獣に襲われたが、五人は戦闘をしつつ、パシフィス王城へと戻った。
そして四日目の早朝……五人はサバイバル生活をクリアするのだった。





