次の町へ
ヘルーダに三日ほど滞在した。
シンシアから魔界の町にある物、道具、魔族などについてハイセたちは学んだ。
食材……意外なことに、人間が食べている野菜とよく似た物が流通。見た目は同じでも味にやや差があったり、調理法も独自のものがあった。
現在、ハイセはドロドロした刺激物のようなものを、パンに乗せて食べている。
「……ん」
「ねね、気に入ったんでしょ?」
「……まあ、悪くない。というか、美味い」
シンシアおすすめの『カリィ』という料理は絶品だった。
薄っぺらいパンのようなものに、茶色いドロドロした料理を付けて食べるのだが……これがなんともクセになる味。
辛く、塩気があり、一緒に煮込んだ野菜にも味が染みている。
数種類のスパイスを混ぜて作るらしく、シムーンのいい土産になるとレシピ本まで買ってしまった。魔界の文字はまだ未収得だが、シンシアから基礎的な読み方を習えばハイセなら習得できる。
現在、ヘルーダの食堂にて、一行は食事を楽しんでいた。
「おかわりー!!」
ヒジリ、カリィが気に入ったのかバクバク食べている……そして、大きな骨付き肉を注文し、その上にカリィをぶっかけて食べていた。
レイノルドは上品にパンをちぎり、カリィに付けて食べ……魔界の酒である真っ白な『ドブロク』をグビッと飲む。
「っぷはあ……魔界の酒、悪くないな。人間界の酒を欲しがる理由もなんとなくわかるけどよ、これはこれでオレも好きだぜ」
ロビンはすでに完食し、魔界の果実を絞ったジュースを飲んでいる。
「だねえ。ね、ね、魔界の食事ってけっこう大味だけど、ハマると美味しいかもっ」
「そう? えへへ、みんなに気に入ってもらえてうれしいな」
シンシアはニコニコしていた。
そして、カリィを完食したハイセは言う。
「さて、この数日で魔界の町について、そして文化にも触れた」
水を飲んで口の中を綺麗にし、ナプキンで口を拭って続ける。
「今のところ、興味本位の視線は感じるが、明確な悪意は感じない……思った以上に、魔族は人間に対して興味がないのかもな」
「だから言ったじゃん、ワタシだって初めてダークエルフとかリザード族見た時は驚いたけど、今じゃもう普通だし」
レイノルドはナプキンで手を拭いて言う。
「次の町に行っても大丈夫そうだ。むしろ、下手に警戒や敵意を見せる方があぶねぇな。普通に行って、聞かれたら『人間です』って言って、問題なければそのまま……ヤバイ場合だけ実力行使、ってところか?」
「あたしも、町の調査したけど……魔族も人間と同じだね。大人たちが仕事して、商売して、子供は遊んで、お母さんたちは洗濯物を干したり料理したり……簡単な魔法を使うの見たけど、水やお湯を出したり、風を吹かせて洗濯物を乾かしたりするくらいだった。やっぱり、魔界に……魔族に対して先入観っていうの、あったかも」
「……なら、もうこの町に用はないな。そろそろメンバーチェンジして、次の町に向かうか」
そう言うと、少し考えていたレイノルドが言う。
「次のメンバーは……順当で言えば残りのメンバーとサーシャか。サーシャ、クレア、ピアソラ、エクリプス。んでシンシア……女パーティーだな」
「問題あるのか? 戦力としては問題ないだろ」
「ああ。でもよ……女だけってのはナメられるんじゃないか? なあ、シンシア」
「どうかなあ。ワタシも女だけど、強ければ問題ないよ? 魔界は実力主義なところあるし、魔王様だって女性だしね」
「……次の町はどんなところだ?」
「ミディアの町だね。ん~、王都手前の町だし、ここよりは栄えてるよ。治安はまあ……ヘンなところ行かなきゃ大丈夫じゃない? ここから五日くらいかかる」
「じゃあ問題ないな。明日出発だ。魔界について、交代メンバーに説明するから、俺はアイテムボックスに入る。レイノルド、後は任せるぞ」
「おう。任せておけ」
こうして、ヘルーダの町で最後の日は過ぎて行くのだった。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
「よーっし!! やっと私の出番ですね!!」
クレアが町の外で双剣を掲げ、気合いを入れた。
そしてピアソラ。サーシャの腕にしがみ付き、キョロキョロと周りを見る。
「魔界、町の外……だ、大丈夫ですの?」
「昨日、ハイセから聞いただろう。魔界の町も魔族も、特に危険はない。森国ユグドラに初めて踏み入れた時も、周りにはエルフしかいなかっただろう? あの感じと同じだ」
「ううう……まだ少し怖いですわ」
これでもかとサーシャに甘え、腕にギューッと胸を押し付ける……男なら効果抜群だろうが、サーシャは女で、ただ柔らかいとしか感じていない。
だが、不安が収まるならと甘えさせている。その間、エクリプスはシンシアに聞く。
「ここから次の町まで五日あるのよね。道中、危険はある?」
「…………」
「聞いてる?」
「え、あ!! き、危険はないよ。魔界って中央平原はメチャクチャ危険だけど、それ以外のところでは魔獣なんてほとんどいないよ。むしろ、動物ばかりで、畑とか荒らされる方が怖いね」
「そう……ねえ、私の顔に何か付いてる?」
エクリプスが言うと、シンシアは首を振る。
そして、まだ双剣を掲げるクレア、ピアソラ、サーシャを見て、再びエクリプスを見た。
「いや~……みんなすっごい美人だから。ワタシ、浮いちゃうねえ」
「ふふ、ありがとう。でも、あなたもすごく可愛いわよ? そうだ、魔獣の危険がないなら、野営の間にいろいろお化粧のこと教えてあげる。人間界の化粧品とか、いっぱい持って来たの」
「えええ!? い、いや、ワタシにそんなの似合わないわ。無理無理!!」
「ダメ。ロビンから聞いたわ……あなた、恋してるんでしょう? お化粧は、恋する女の子が纏う、どんな武器や鎧よりも頼りになる武器なんだから」
「あ、あう……」
シンシアは照れていた。
新鮮な反応に、エクリプスもつい楽しくなってしまう。
そして、サーシャが割り込んだ。
「二人とも、行くぞ。それとクレア、道中に危険はほぼない、武器はしまっておけ」
「はーい!! はあ、師匠がいればなー」
「ふふ、私では不満か? 道中、稽古なら付けてやる。怪我をしてもピアソラがいるしな」
「あ!! いいですね、お願いします!! でもでも、私にとってサーシャさんは負けられない相手なので、そこのところよろしくです!!」
「わかったわかった。ふふ」
「サーシャ、嬉しそうですわ」
「ああ……なんというか、妹がいればこんな感じなのかもしれないな」
奇しくも、ハイセと同じことを思うサーシャ。
こうして、次の町に向けて、サーシャたちは出発するのだった。





