スタンピード戦④
ハイセは最前線まで退避。
言葉がおかしいが、最前線部隊まで下がると、全員に叫ぶ。
「来るぞ!! 全員、構えろ!!」
ハイセはショットガンを腰に差し、グレネードランチャーを右手に、アサルトライフルを左手に持ち、ロケットランチャーを背負い、腰のベルトに大型拳銃を三丁差した。
すると、困惑の声。
「ハイセ!! 怪我はないのか!?」
サーシャだった。
レイノルドを振り切り、ハイセの傍に来て顔を覗き込む。
驚いたハイセは思わずのけぞり、すぐに顔を引き締める。
「だ、大丈夫だ!! いいから構えろ、来るぞ!!」
「あ、ああ。よし、行くぞレイノルド!!」
「……おう」
後方では、魔法と矢が飛んでいる。
魔獣たちが押されているのか、倒れた魔獣が邪魔になり転倒する魔獣や、避けながら動く魔獣と勢いが落ちているのがわかる。
一万ほどの数は魔法によって削られただろうか。
最前線部隊が武器を手に、雄叫びを上げた。
『最前線部隊!! そろそろ出番だ、頼むぞ!!』
上空を旋回する鷲が叫ぶ。
そして、最前線部隊に展開する冒険者たちが、一斉に地面に手を触れた。
「『防壁展開』!!」
大地を操作し、防壁を展開する能力だ。
『防壁』の能力者たちが展開した土壁に、魔獣たちが体当たりしていく。
「全員、踏ん張りな!! さぁ───戦うお母さんの力、息子に見せてやろうかねぇ!!」
最初に飛び出したのはハイセではない。
ハイセは二番目。飛び出したのは、『戦うお母さん』ママチャだ。
手に持つのは、直径五メートル以上、横幅三メートル以上ある《大戦斧》だ。ハイセと同じくらいの身長なのに、ママチャは片手で斧を持ち、誰よりも身軽に駆け抜ける。
「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅゥゥゥゥゥッぉォおおおおおおおおおっ!!」
ママチャが力むと……なんと、ママチャが《巨大化》した。
能力『巨大化』により、身長が十メートルを超えたママチャ。斧を片手で軽々振ると、魔獣が五十以上薙ぎ払われた。
「ハイハイハイハイハイ!! 今日の夕飯までには終わらせたいんでね、チャッチャとやるよアンタら!!」
「「「「「へい、ママ!!」」」」」
ママチャのクランに所属する冒険者たちが、一斉に戦闘を始めた。
防壁が砕け散り、魔獣がなだれ込む。
すると、S級冒険者のジョナサンが振るう『鞭』が数百メートル伸び、三十以上の魔獣に絡みつく。
「へいベイベェ……踊ろうぜ!!」
鞭が振動し、魔獣たちが弾けた。
能力『振動』と、ジョナサンにしか使えない長さ五百メートルまで伸びる『サウザンウィップ』による攻撃だ。S級冒険者『絡みつく愛』ジョナサンは、クランメンバーに言う。
「愛だぜ愛。さぁ、可愛い子ちゃんたちに教えてやりな!!」
「「「「「イエス、ラブ!!」」」」」
ジョナサンのクランメンバーたちが戦いを始める。
そして、今度はS級冒険者のケイオス率いるクランが動き出した。
「ふん、やるじゃねぇか。でも……一番稼ぐのは、オレのクランだ」
ケイオスは、戦闘を始めたサーシャを見る。
十六歳にしてはなかなかの身体つきだ。胸も大きく、腰のくびれもケイオス好み。ベッドに押し倒せば、あの凛々しい顔がどんなに乱れるのか。考えるとワクワクした。
ケイオスは、腰にある投げナイフを両手に持ち、魔獣に向かって投げる。
「稼いだ金貨で、いい女を食い漁ろうぜ。やっちまえ、野郎ども!!」
「「「「「おう、頭ァ!!」」」」」
投げたナイフが自在に動き、魔獣の急所を的確に貫通してはケイオスの元へ戻る。
能力『毒』をもち毒の体液を出す。それを付けたナイフの軌道を自在に操作し、ケイオスは魔獣を倒し始めた……そして腰にある、紫色のナイフに視線を落とす。
「チャンスはある。なぁ……? サーシャちゃんよぉ?」
◇◇◇◇◇◇
サーシャは、全身を《闘気》で包み込み、剣に纏わせ魔獣を刻む。
背後に接近した魔獣をレイノルドがガード。ガードした瞬間、どこからか飛んできた矢が魔獣の頭部を貫通……その矢がロビンのモノだと知り、親指を立てて感謝する。
「サーシャ!! 大丈夫かよ!?」
「ああ!! お前も無理するな!!」
「おう!! ちくしょう、わかっちゃいたがメチャクチャな数だ!! 防壁を抜けてくる魔獣がかなり多い!! S級冒険者がいても、守り切れるかわからねぇぞ!!」
レイノルドの言う通りだ。
魔獣を討伐した数は二万を超えない程度。半分にも達していない。
負傷者は増え、後方待機している回復専門の能力持ちが治している。治ってはまた前線に出て戦い、怪我をしたらまた戻り……それを、魔獣が全て掃討されるまで繰り返すのだ。
おそらく、一日かかり。
まだ、一時間も経過していない。S級冒険者だって人間だ。このままのペースで戦い続けられるわけがない。
だが、サーシャは剣を振るう。
「とにかく戦うんだ、戦って、魔獣を「サーシャ!!」───!!」
サーシャの背後にゴブリンが。
サーシャを押し倒し、鎧を剥ぎ取ろうとする。
「くっ、この、離せ!!」
「くそ、サーシャ!! っどわ!?」
レイノルドの前に、オーガが立ちはだかる。
攻撃を盾で受け、サーシャに構う余裕がない。
サーシャに、ゴブリンが殺到する。鎧をひっぺがされ、服を破かれ、今まさに凌辱されようとしていた。
「やめ、やめろ……やめろぉぉぉぉッッ!!」
『ギャギャギャ、ギャブガ!?』
すると、ゴブリンが吹き飛ばされた。
真っ黒な服をまとったハイセが、ゴブリンを蹴り飛ばしたのだ。
そして、大型拳銃を連射しゴブリンの頭を撃ち抜く。
狙いをハイセに変えたゴブリンだが、ショットガンを近距離で食らい、内臓をブチ撒けながら吹き飛んだ。残りのゴブリンはアサルトライフルでハチの巣にされ、ようやくサーシャを襲ったゴブリンが討伐される。
「サーシャ!! 怪我は」
「ハイセ……ッ、う、あぁぁっ!!」
サーシャは、ハイセに抱きついた。
ハイセは一瞬驚いたが、その身体を優しく抱きしめ、頭を撫でる。
優しい、不器用な手つきが、サーシャの心を癒す……が、すぐに手が離れた。
「サーシャ。まだまだ数は多い、お前は一度装備を整えてから戻って来い」
「な、何?」
「あー……その、これを」
ハイセはコートを脱ぎ、サーシャにかける。
サーシャは気付いた。ゴブリンに服を破かれ、上半身がほぼ裸だった。大きく豊満な胸がハイセの目の前で晒され、顔を赤くしてコートを受け取る。
ハイセは、サーシャをまっすぐ見た。
「この戦い、まだまだ激しくなる。お前の力が必要になる。いいか、しっかり態勢を立て直して戻って来い。それまで、ここは俺が戦う」
「ハイセ……」
「俺とお前の夢は、こんな所じゃ終わらない。こんな戦い、さっさと終わらせようぜ」
「……ああ!!」
「レイノルド、サーシャを!!」
「おう!! ちくしょう……勝ち目なんて、ほとんどねぇなこりゃ」
レイノルドが何かを言っていたが、ハイセには聞こえない。
ハイセは両手に大型拳銃を持ち、クルクル回転させて構え発砲した。
サーシャは、鎧を回収し、ピアソラのいる後方まで走り出した。





