パーティー制度
一夜明け、ハイセたちは出発……したのだが。
「なあハイセ、無理かもしれんけど提案していいか?」
「……俺じゃなくて、リーダーはサーシャだろ。サーシャに相談しろよ」
「サーシャにはもう相談した。で、次はお前に相談だ」
レイノルドが隣に並ぶ。
ハイセは前を向いたまま、レイノルドの言葉を聞く。
「なあ、さすがに十一人で行動するの、目立ちすぎじゃねぇか?」
「……む」
改めて、確認する。
ハイセ、クレア、ヒジリ、プレセア、エクリプス、エアリア。
サーシャ、レイノルド、タイクーン、ロビン、ピアソラ。
合計十一人。冒険者チーム登録は五人と決められているので、こんなに大人数での行動は初めてだ。
ハイセは横目でレイノルドを見て言う。
「魔界だぞ? 未知の領域に踏み込んでるんだ。人数が多いに越したことはないだろうが」
「わかってるよ。でも、こんな大人数だと村や町で警戒されること間違いなしだ。それに、もし十一人が同時に罠にかかって行動不能になったらそこで終わりだ」
「……まさかお前、チーム分断とか言うんじゃないだろうな。それこそ最悪だぞ、もう二度と会えない可能性だって考えられる」
「わかってる。十一人の行動を分断すべきじゃない……だから、パーティー編成しようぜ」
「……???」
意味がわからず首をかしげる。
するとレイノルドが、ポケットから指輪のアイテムボックスを取り出した。
「生物収納型のアイテムボックスだ。普段は表に四人だけ出て、残りはこっちで待機。ああ安心しろ、犯罪者閉じ込めるタイプじゃなくて、要人がお忍びで町に出る時とかに使う特注品だ」
「……お前、そんなモンどこで」
「へへへ。王族ってこういう魔道具持ってるって聞いてな。なんかに使えるかなーとクレスにおねだりしたらもらえた」
「……つまり、四人だけで行動して、有事の際には全員で、ってことか」
「そういうこった。交代で行動すれば、十一人全員が常に行動できる」
朝、昼、夜とチーム分けをして、その間はずっと行動する。
悪くないアイデア……と、ハイセは思った。
「ハイセ。お前は魔界攻略の時間、どれくらい想定している?」
「……恐らく、一年はかかるとみてる」
「オレは半年だ。このアイテムボックスの話を聞いてからずっと考えていた……悪くないだろ?」
「…………」
「もちろん、牢獄じゃないから中からも自由に出入りできる。しかも王族専用だから空間内はメチャクチャ広いし、個室もある。クレスのヤツ、特別なヤツをくれたんだ。しかも二個も」
「…………今夜、全員で話を共有する」
「へへ、ありがとよ」
レイノルドはハイセと肩を組む。
「お前とこんな風に冒険するとはなあ……」
「……」
「魔界から戻ったら、全員で浴びるほど酒飲もうぜ。それと……お前もそろそろ『男』になれよ。オレの紹介でよかったら、いくらでも世話してやるぜ」
「……アホ」
ハイセはレイノルドの腕から逃げ、ブツブツ言いながら歩くタイクーンの隣へ。
「おおハイセ。少し話を聞いてくれ。この黒棘の森だが……魔獣どころか、動物も、昆虫もいない。もしかしたらこの樹木が、魔獣除けとなっているのかもしれん。くくく、これは研究のし甲斐があるぞ」
「……ヒジリにでも樹木を引っこ抜いてもらって、魔界から帰ったらクランの敷地にでも植えてみろよ」
「それはいい。ヒジリ、少しいいか?」
「なになにメガネ。アタシに用事?」
「ボクはタイクーンだ。眼鏡と言うな」
レイノルドは、ハイセの背中を見て小さく微笑むのだった。
◇◇◇◇◇◇
夕方前。ハイセとロビンはエアリアが持つ特注の鎖に掴まって上空へ。
縄梯子のような、足を掛けるフックが付いた特注品。
マッパーでもあるハイセ、ロビンが、だいたいの位置、地図を書くために空へ飛んだ。
ロビンは、マップを書きながら言う。
「エアリア、重くない?」
「楽勝だ。あたいだって強くなってるからな!!」
「さすが七大冒険者。そういえば、光の翼、デカくなってるね」
エアリアの翼は、以前見たサイズの二倍ほどになっていた。
さらに、翼だけでなく全身が光っている。
「ふふん。あたいの新技なのだ。ガイストのおっさんに言われた通り……うう、あのおっさんマジでオーガより怖いぞ……」
自分で言い、ぶるぶる震えるエアリア。ハイセは特に返事をしなかったが、エアリアがガイストにいろいろ聞いていたことを知っていた。その修行内容は聞いてはいないが……なんとなく想像できた。
今のエアリアは、自分を含めた四人までなら、翼を生やすことができるらしい。
「……ロビン。そっちはどうだ?」
「あ、できたよ。エアリア、そろそろ地上降ろして」
「おう。ふふん、空の散歩してもいいぞ?」
「え、ほんと? ね、ハイセ!!」
「ダメだっつの。みんな下で待ってるし、そもそも魔界の空なんて未知すぎて危険だ」
しかたなく下降。
地上に降り、ハイセはロビンと地図を共有。
周辺地図『黒棘の森』が完成した。
地上では、野営の準備も終わっている。ハイセたちは野営場所へ向かい、地図を共有。
夕食を取りながら、サーシャは全員に言う。
「地図を見るかぎり、黒棘の森を抜けるのはあと一日ほどかかるようだな」
「ああ。近くの村には日中行きたい。森の入口近くで野営して、翌日の早朝に行こう」
「よし。ではそうしよう……みんな、ここで提案がある」
と、サーシャは指輪型の生物収納アイテムボックスを出す。
そして、パーティー編成について説明した。
「……というわけで、移動や戦闘、情報収集など、臨機応変にパーティーを変更しながら進んでいく。さすがに十一人全員で行動するのは大変だ」
「えー? それって、戦闘の機会減るじゃん。アタシ、ずっと外でいいかも」
「わたくしは賛成……正直なところ、わたくし、回復以外ではあまり役に立てないし……もし怪我をしたらすぐ交換しますわ。あ、安全が確認された町では出たいですわ。魔族のお店とか行ってみたいですわね」
いろいろ意見が出たが、とりあえずは賛成ということになった。
そして、いくつかルールが追加された。
「まず、主なパーティーは四名。移動、情報収集、戦闘などだ。もちろん、状況に応じてパーティーはいつでも変更する。指輪は二つあるから……一つはハイセ、お前が持て」
「俺でいいのか?」
「ああ。私、お前のどちらかは固定になる。負担になると思うが……いいか?」
「問題ない」
「では、最初は私がリーダーを務める。お前は休め」
「……わかった」
チームは四名。指輪を持つリーダーはサーシャ、ハイセ。
普段は四名で行動し、有事の際は全員で戦う。
それ以外は指輪の中で待機。
ここまでルールを決め、クレアが言う。
「あの~……その指輪の中、大丈夫なんですか? その、生物収納のアイテムボックスって……師匠にイタズラで閉じ込められた時は、ほんとに真っ暗で最悪でした」
「おい、イタズラとか言うな」
「ははは。安心しな、オレが入ってみたけど、王都の高級宿ばりの設備だぜ。さっすが王族専用」
「それなら安心です!!」
こうして、パーティー制度が取り入れられた。
最初のメンバーは、サーシャ、ロビン、タイクーン、プレセア。
翌日になり、ハイセは生物収納ボックスをクレア、エクリプス、ヒジリに向ける。
「わわっ!!」「ふふっ」「いい、魔獣出たら呼びなさいよ!!」
三人が吸い込まれた。
そしてハイセはサーシャへ。
「頼む」
「ああ、任せておけ」
エアリア、レイノルド、ピアソラ、ハイセがサーシャの指輪へ。
サーシャは指輪をオリハルコン製のチェーンにかけ、鎧の胸元へ。
「よし。エアリア、プレセア、タイクーン、行くぞ」
「よーし!!」
「ええ、索敵は任せて」
「気付いたことがあったらボクへ。調べよう」
パーティー制度を取り入れた、新しいスタイルでの冒険が始まった。