アズマの食事
クレアは、プレセアとエクリプスの三人で、城下町の食事を楽しんでいた。
三人が食べていたのは、真っ白でツルツルした『麺』という料理。
クレアは、箸を器用に使って麺を啜っていた。
「ん~おいしい!! この『うどん』って料理、もっちモチですねえ」
「こっちの『素麵』も美味しいわね。プレセアは?」
「私のは『拉麺』ね。二人に比べると、少し縮れた麺ね……スープが独特の味」
三人は、様々な麺料理を楽しんでいた。
支払いをして店を出て、クレアはお腹を押さえる。
「うっぷ。意外とお腹に溜まりますね……もう一軒、と思いましたけど、厳しいですー」
「ふふ、そうね……散歩でもしながら、アズマのお洋服でも観に行かない?」
「いいわね。アズマの文化に触れるのも悪くないわ」
三人は、アズマのメインストリートを歩いていた。
周りを見ると、木造の建物が多く並び、アズマの住人で賑わっている。
観光客もいなくはないが、かなり少ない。異国の住人であるクレアたちが珍しいのか、チラチラと見られているのも間違いない。
だが、三人は気にせず歩き……プレセアが気付いた。
「見て、あそこ……焼き物の店」
「焼き物。食べ物ですか!!」
「違うわ。あれは陶器ね」
「闘気!! ソードマスターである私ですね!!」
「クレア……あなた、少し黙りなさい」
エクリプスに肩をポンと叩かれ、クレアはしずしずと下がる。
プレセア、エクリプスがお店に近づき、展示されている焼き物を眺めた。
「カップ、かしら……取っ手がないわ」
エクリプスが首を傾げると、プレセアが言う。
「これは湯呑ね。ギルドマスターのガイストが使っていたわ」
「へえ……お茶を飲むの?」
「ええ。こっちの急須に茶葉を入れて、湯呑に注いで飲むの。私も飲んだことはないわ」
店頭に展示してある焼き物を見て、興味を持つ二人。
するとクレアが、二人の背を押した。
「店頭で見てないで、中で見ましょうよ!! お茶、魔界で飲めるなら買うのもありですっ!!」
クレアに背を押され、三人は店に入るのだった。
◇◇◇◇◇◇
三人は焼き物をたくさん買った。
急須に湯呑、花瓶や壺など、冒険とは関係ない物まで買う。
クレアは、自分のとは別に、もう一つ湯呑を買っていた。
エクリプスが、木箱入りの湯呑を大事そうに抱えるクレアに聞く。
「クレア、二つも買ったの?」
「はい!! これ、黒い湯呑……師匠にピッタリだと思いまして!!」
「……ハイセに?」
「はい。私、けっこう迷惑かけてるんで、お詫びというか、プレゼントですね」
クレアは、木箱を大事そうにアイテムボックスに入れた。
その様子を見て、プレセアが聞く。
「クレア。あなた、本当にハイセが好きなのね」
「はい、大好きです!! えへへ、師匠、喜んでくれるかな~」
「……本当に純粋なのね。ハイセが気を許したくなるのもわかるわ」
ふと、エクリプスが『茶屋』と書かれたのぼり旗を見つける。
「お腹もこなれてきたし、お茶にしない?」
「します!! お茶、飲みたいです!!」
「そうね。あら?」
と、前から見覚えのある姿……ハイセとタイクーンが歩いてきた。
ハイセたちも、エクリプスたちに気付き、立ち止まる。
「師匠!!」
「っと……お前な、いちいち腕に抱きつくな」
「えへへ。あのあの、お茶しませんか? 私たち、これからお茶なんです」
「……」
「……やれやれ。ボクたちもさっき書店を出て、喉を潤そうと考えていたところだ」
「やったあ。あ、そうだ師匠、あとでプレゼントあるので!!」
「は? まあ……このまま往来で騒ぐのは避けたい。茶、飲むか」
クレアは、ハイセの腕にくっついたまま、茶屋の中へ。
タイクーンが続き、プレセアとエクリプスが顔を見合わせる。
「プレセア。あなた……あんな風にハイセの腕にしがみつける?」
「無理。あの子だからできるのよ」
「……ちょっとうらやましいわね」
「ええ。私やあなたが同じことしたら、怪しまれるだけだと思うわ」
二人も茶屋へ。
六人掛けの席に座り、クレアはハイセの隣、エクリプスとプレセアが並び、タイクーンが一人席に座り、メニューを眺めた。
タイクーンがメニューを見て言う。
「ボクはこの『ぜんざい』という物にしよう」
「食事か? 茶じゃないのか? というか……なんだ、それ?」
「不明だ。だからこそ面白い……アズマの文化に触れることができる」
「……俺はいいや。そうだな、この『ずんだもち』ってやつと、『ホウジ茶』でいい。というか……クレア、いい加減離れろ」
「え~? 師匠に甘えたい時間なんですよー、うりうり」
「うっとおしい。離れろ」
「あうー」
クレアの腕締めを外し、メニューを押し付けた。
「……私、『ゲンマイ茶』と『あんみつもち』にするわ」
「もち。この名前が付いたメニューが多いわね……私はあえて『だんご』にするわ。お茶は、『くろまめ茶』で」
「じゃあ私は……『いちごだいふく』と、『りょく茶』で!!」
「声がデカい。もう少し静かにしろ」
店員を呼び、メニューを注文。
十分ほど経過すると、それぞれの食べ物が運ばれて来た。
「な、なんだこれは……真っ黒だぞ」
「それが『ぜんざい』か? 見たところ、豆……か? 中に白いのがあるな」
タイクーンの『ぜんざい』を見て、ハイセはやや顔をしかめる。
甘い匂いがプンプンした。タイクーンはスプーンで黒い豆を食べ、「意外と悪くない」と言いモグモグ食べ始めた。
ハイセも、自分の『ずんだもち』を、竹のナイフで切って食べ始める。
「……美味いな。この緑のが、ずんだってやつか。茶も美味い……これ、ガイストさんがよく飲んでいたお茶と同じかも」
「師匠、私にも食べさせてくださいー」
「お前は自分のある……おい、もう食ったのか」
「いちごだいふく、すっごく美味しかったです!! 甘酸っぱくて、もちもちで」
「……ったく、ほれ」
ハイセは、二つあるずんだ餅の一つをクレアへ。
クレアは遠慮なく食べ始め、顔をほころばせていた。
その様子を、エクリプスとクレアが見ている。
「……本当にすごいわね」
「ええ。でもエクリプス……感じない? あれは恋というか、兄が妹に接するような感じ」
「……確かに」
甘える妹、世話を焼く兄。
そんな風に見ようとすると、ハイセの腕にベタベタ甘えるクレアも見えなくない。
「うーん。恋……じゃないのかしら?」
「私は、クレアが自覚した瞬間、一気に落ちると予想しているわ。あの子、まだ子供だからね……それこそ、ヒジリ以上の」
「……そうねえ」
エクリプスは、ハイセのお茶を飲もうとし、湯呑を遠ざけられるクレアを見て思う。
もし恋を自覚したら、クレアは一番、ハイセに近くなる存在なのかもしれない……と。
「うっぷ……さ、さすがに、気持ち悪くなるな」
「おいタイクーン、無理すんな。無理ならクレアに食わせる」
「えー? でもでも、男の人の食べかけはちょっと……あ、師匠は別ですけど」
「た、食べるさ。これもアズマの文化……だ」
クレアにとっても、ハイセは特別。
エクリプスとプレセアは改めてそれを認識するのだった。





