アズマの文化
東方の国アズマ。
鎖国こそしていないが閉鎖的な国で、厳しい入国審査があり観光で立ち寄るのも一苦労。
冒険者ギルド連盟に加入しているので、冒険者の出入りは問題ない。が……最低でもB級以上の冒険者でないと入国許可は下りない。
さらに、たとえB級以上の冒険者でも、入国の目的などを明確にしないと入国できない。
ハイセはS級、それ以外にも多くのS級や、禁忌六迷宮を踏破したチームなどが揃っているので入国には問題ない。
ちなみに、誰も気付いていなかったが……入国審査をしたアズマの門兵は、カーリープーランによって『洗脳』されており、ハイセたちの入国を手助けした形になっている。
そして現在、ハイセたちは物資の補給、そして観光をしていた。
まず、ヒジリ。
「ん~アズマの肉ってサッパリ系ね。脂少なくて食べやすい~」
焼き鳥屋に入り、片っ端から焼き鳥を注文していた。
タレ、塩、果実ソース。脂が少なく、下味を重点的に付けた肉は、食べていて飽きない。
すでに四十本以上の串が串入れに入っており、目の前で焼いている店主も嬉しそうだった。
「姉ちゃん、美味いか?」
「最高!!」
「へへ、嬉しいねえ。オレの焼き鳥を目の前で、こんなに美味い美味い言ってくれるなんて。焼き鳥屋冥利に尽きるってモンよ!!」
「うんうん。ね、お土産できる? い~~~~っぱい焼いてほしいんだけど」
「おう、いくらでも焼くぜ。いくつ欲しい?」
「じゃあ千本!!」
「おう!! って千、1000!? 正気か姉ちゃん!?」
「うん。時間停止のアイテムボックスに入れるからさ。ね、ね、早く早く!!」
ヒジリは白金貨をテーブルに置き、店主を急かすのだった。
◇◇◇◇◇◇
店主はヒイヒイ言いながら千本を焼き切った。
ヒジリは焼きたて熱々の串焼きを全てアイテムボックスに入れ、店主にお礼を言って店を出た。
「あ~美味しかった。ハイセも連れてくればよかったなー……あれ」
「ん? おうヒジリ」
レイノルドだった。
ややほろ酔い気味。近づくと酒の匂いがし、手には妙な形の入れ物を持っている。
「なにそれ」
「これ、アズマ名産の陶器の酒瓶だとよ。いや~、アズマってすげえ酒美味いな。水みたいに透き通ってんだけど、飲むと火ぃ噴くような辛みがあってよ」
「アンタ、アズマを満喫してるわねー」
「そういうお前だって、どうせ肉でも食ってたんだろ」
「まあね。焼き鳥屋最高だったわ」
「いいね。串焼きで一杯やりたいぜ。なあ、どこの店行ったんだ?」
「すぐ近く。行くならアタシも行くわ。なんか話していたらまた食べたくなっちゃった」
ヒジリの案内で焼き鳥屋に向かったが、『焼き鳥がなくなったので本日終了』の看板が掛かっていた。どうやらヒジリがお土産で頼んだ量で在庫がなくなったらしい。
仕方なく、二人で町を歩くと。
「ね、レイノルド。アンタさ……なんかすごいよね」
「あ? なんだよいきなり」
「アタシ、頭よくないし上手く言えないけど……アンタの声ってなんか、サーシャよりも『いうこと聞かなきゃ』って感じになるのよねー。アンタ、クランやったらかなりすごいクラン作れるんじゃない?」
「…………」
リーダー性。カリスマ性というモノを、レイノルドは生まれつき持っていた。
それを発揮するようになったのは、サーシャが不在時など。
それまでは、自覚をしても出さないようにしていた……が、最近、よく言われる。
『サーシャより、レイノルドがリーダーの方がふさわしい』と。
クラン『セイクリッド』のクランマスターは間違いなくサーシャだ。その存在感、美貌、功績でクラン加入を希望するチームはかなり多い。
現在は加入希望を受けていないが、それでも毎日数十以上のチーム加入希望がクラン『セイクリッド』には来ていた。
現在、チームの加入数は三百。これが、チーム『セイクリッド』がクランを運営しつつ、チームとして動ける限界の数だ。
だが思う。もし自分がリーダーだったら、四百まで増やせるかもしれない、と。
「……オレは、決めたんだよ。クランは作らねぇ。チーム『セイクリッド』の盾として、仲間を守るってな」
「……ふーん。サーシャはいいの? アンタ、好きだったんじゃないの?」
「まあな。でもオレは『頼れるお兄さん』らしい。恋愛対象としては見られていないようだ」
「あ~……確かに、そんな気ぃするわ」
ヒジリは笑った。
レイノルドも笑う。
不思議と、サーシャのことはすっぱりと諦めることができた。
そもそも、サーシャが見ていたのはずっと、ハイセの方だった。
「ってか、お前はどうなんだよ。S級冒険者序列三位、クラン作らねぇの?」
「アタシにそんな器用な真似できるワケないじゃん」
「あ~……確かに」
「弟子になりたいって格闘系能力者は何人か来たけど、組み手で叩きのめすとみんな逃げちゃうのよ。逃げなかったのは今のところ、イーサンだけね」
「へえ、イーサン……最後に会ったのは決起会の時か」
奴隷オークションで双子を救ったのはハイセだが、イーサン、シムーンにとってはレイノルドも恩人であり、そのことを忘れていない。たびたびハイセに「レイノルドさんに会えますか?」と言っていた。
「イーサン、アタシに何度投げられても、泥まみれになりながら突っ込んでくる度胸があるのよ。一度負けて、絶望して、それでも立ち上がる……伸びしろデカいわ。将来が楽しみね」
「ほー、お前がそこまで褒めるとはな」
「ふふん!! 将来、アタシとハイセの子供の、いい兄弟子となりそうね。ハイセにとってのガイストのおっさんみたいな!! あ~楽しみ」
「……お前、マジでハイセと結婚するのか?」
「当り前。ハイセがイヤって言っても押しかける」
「……ハイセの同情するぜ」
「そういうアンタは?」
「ま、自由にやらせてもらうさ」
と、道の真ん中で二人は止まった。
何故なら、ガラの悪そうな男たち十名以上に囲まれたのである。
話に夢中で、着けられ、徐々に囲まれていることに気付かなかった。
意外にも、チンピラみたいなのに統率が取れ、気配の絶ち方も悪くない。
「おう姉ちゃん……さっきの店で白金貨出してたよな? へへ、もっとあるならくれよ」
「……え、これってカツアゲってやつ?」
「おい、なんで嬉しそうなんだよ」
眼をキラキラさせるヒジリ。こういうことは久しぶりであった。
呆れるレイノルドは言う。
「なあ、悪いこと言わねぇ。この女に関わらない方がいいぜ。マジで」
「ああ? と……兄ちゃん、いいガタイしてんじゃねぇか。そっち系の店に行くなら案内してもいいぜ?」
「……全力で拒否するわ」
蒼ざめるレイノルド。そっち系が何なのか知りたくもない。
すると、ヒジリの眼の前にいた男が、ヒジリの胸を見る。
「へへ、いい身体してんじゃねぇか。タッパは足りねぇけどよ。なあ、金もだけど、相手してくれねぇか?」
と、ヒジリの胸に手が伸びた時、レイノルドがその腕を掴んだ。
「ったく、オレの目の前で仲間に手ぇ出すとはな」
「あれ、守ってくれんの?」
「必要ないだろうが守るさ。だってオレ、盾士……仲間を守るのが仕事だしな」
「おお、カッコイイじゃん。じゃあアタシは前衛だし戦うわ。アンタは守り?」
「守るのが本職だけど、喧嘩したいときもある」
「いいわね。ってわけで」
ヒジリのショートアッパーが、目の前にいた男の顎に入り、吹っ飛んだ。
「さあて、食後の運動ね!!」
「ったく……ハイセ、将来は苦労しそうだぜ」
異国の地アズマでも、ヒジリは相変わらずヒジリ。
レイノルドはなんだかんだ言いつつも、久しぶりの『喧嘩』に胸を躍らせるのだった。





