クリシュナ遺跡核魔獣ジャランダーラ①
八階層、最後の安全地帯にて。
十一人がそれぞれ、戦闘準備を整えていた。
ハイセは、両ホルスターにある自動拳銃を確認。マガジンの残弾数を確認しスライドを引いて装填。
他に、ショットガンにショットシェルを込めて肩に担ぎ、アサルトライフルのマガジンを確認。
本来なら能力で具現化するだけでベストな状態で現れるのだが、手動での確認、銃弾の装填がクセになっていた……というか、ハイセは銃弾を込める瞬間が、好きだった。
「……よし」
「師匠!! 戦闘準備完了です!!」
「声がデカい」
クレアは、鎧を装備し双剣を腰に下げ、なぜか胸を張ってハイセの前にいた。
「ふふん。今日はこのダンジョンを踏破する日です。S級冒険者になって初めての大仕事、頑張りますよ!!」
「気合入れるのはいいが、ヘバったら置いて行くからな」
「あう、師匠ってばつれないですねー」
「うるせ。ってかくっつくか」
腕を取り甘えてきたクレアを引き剥がす。
そんな二人を、サーシャがジッと見ていた。
「兄妹みたい。ふふ、私にはそう見えるけど……あなたは?」
「きょ、兄妹か。うん、私もそう見える」
エクリプスが、サーシャをからかうように傍へ来た。
魔法を込めた装備と聞いた、帽子やローブを身に纏い、手には白い本を持っている。
サーシャも、新調した鎧にマント、腰には剣を下げていた。
「あの二人、宿屋でもあんな感じなのよね。ハイセも不思議と嫌がっていないし……もし、クレアが恋に目覚めたら、ふふ……もしかしたら、誰より早くハイセを射止めちゃうかもしれないわね」
「い、いとめる……」
「まあ、私は正妻であれば、愛人は何人いてもいいけど」
そう言い、エクリプスは行ってしまった。
サーシャは、嫌そうにしながらもクレアを遠ざけないハイセを見て、思う。
「……恋、か」
「なーにぼんやりしてんのよ」
「サーシャ、大丈夫?」
と、ヒジリとプレセアだ。
ヒジリは変わらない格闘スタイル、プレセアは弓、矢筒を装備していた。
あとは一本道で最下層まで進むだけなので、案内役としてではなく援護役としての装備だ。
「……いや、問題はない。よし、全員聞いてくれ」
サーシャは切り替える。
すると、サーシャの周りに装備を整えた十人が揃った。
「今日、このクリシュナ遺跡のスタンピードを集結させる。道中までは一本道、魔獣を蹴散らしつつ最下層へ進み、核魔獣を討伐……このダンジョンを終わらせるぞ!!」
全員が頷き、サーシャを先頭に安全地帯から飛び出した。
◇◇◇◇◇◇
八階層から九階層へ続く道は、事前に調査してある。
「ヒジリ、行け!!」
「応!!」
ハイセが叫ぶと、ヒジリが全力で特攻。
通路に溢れかえるようにいる魔獣たちに向かっていく。
「金剛拳、『激震』!!」
地面全域を這うように金属が精製され、その金属が振動し魔獣たちの態勢が崩れた。
そして、サーシャとクレアが飛び出す。
「合わせる!!」
「はい!! 合体技ですね!!」
青銀、純白銀の闘気が膨れ上がり、二人の『ソードマスター』が剣を振った。
「白帝剣、『白帝神話弩矢』!!」
「青銀剣、『青の機関銃』!!」
純白銀の一撃、青銀の散弾が道を埋め尽くしていた魔獣を吹き飛ばした。
「走れ!! 最下層まで突っ切る!!」
ハイセが飛び出し、善人が続く。
殿はサーシャ。八階層から九階層を一気に駆け降りる。
そして、九階層へ。
「……一本道。プレセアの情報通りだな」
「気を付けて。あり得ないくらい魔獣がいる。最下層で大量に生み出されているわ」
横幅は二十メートル以上、高さも二十メートル以上ある通路だった。
大量の魔獣が徘徊していた。
ハイセは、人差し指と中指を合わせ、通路へ向ける……すると、ハイセの背後に十発以上の『ミサイル』が顕現。
「消えろ」
発射。
一瞬で消え、通路の奥で爆音。
それが連続で放たれ、通路が振動する。
レイノルドが盾を構え、エクリプスが魔法で防御。漆黒の黒煙が通路奥から見えるころ、魔獣たちの気配が一時的に消えた。
「行くぞ」
ハイセは走り出す。
だが、ミサイルの威力を目の当たりにした一同は、数秒間唖然としていた。
「全員、走れ!!」
サーシャが一喝すると、全員が走り出す。
「……とんでもない威力だな」
「ああ。だが、頼もしい」
レイノルド、タイクーンが話す。
「あのミサイル、だっけ? なんつう威力だよ」
「威力も恐ろしいが、本当に恐ろしいのは……あれだけの武器を、魔法でもなく、どういう理屈かも不明で、ノーリスクで連発できるということだ。魔法なら魔力を消費し技を使うが……ハイセにはそれがない。ただ能力を発現させるだけで、魔法を超える奇跡を自在に使用できる」
「おっそろしいな……『武器マスター』ってのはマジで何なんだ?」
「わからん。だが、これだけは言える……魔界でどのような脅威に遭遇しても、ハイセがいれば遅れを取ることはない」
そして、一行は最深部へ続く階段の前に到着した。
プレセアが言う。
「……最下層。かなり広いわ。小さな村だったらすっぽり収まるくらい。ハイセの攻撃で魔獣がほとんど消えたけど、少しずつ増えている気配がする」
「そこに、核魔獣がいるんだな?」
サーシャが言うと、プレセアが頷く。
そして、背後を見た。
「同時に、上層階にいる魔獣も、こっちに集まっているわ……恐らく、核魔獣に危機があると本能で理解したのかしら」
「その可能性は高いな。スタンピードはまだ不明な部分が多い……核魔獣の危機に対し、核魔獣から産まれた魔獣が守ろうとしているのか」
タイクーンがブツブツ言う。
サーシャは少し考え、ハイセを見る。
「ハイセ、どうする」
「そう聞くってことは、お前も同じこと考えてるんだろ」
「……ああ。地下へ進んで核魔獣を倒すチームと、ここで魔獣の侵攻を食い止めるチームに分かれるべきだ。このまま全員で地下に突入しても、背後から挟み撃ちにされる」
「それしかないな。時間がない、サーシャ、お前がチーム分けしろ」
「……よし」
サーシャは全員を見て、数秒考え……頷いた。
「私、ハイセ、ヒジリ、ピアソラ、ロビン、エアリアはこのまま地下へ進む!! 残りは全員この場で、地下へ魔獣が来ないよう食い止めてくれ!!」
「えーっ!? わ、私も師匠と一緒に」
「ダメだ。詳しく説明している暇はない。レイノルド、この場の指揮はお前に任せる」
「ああ。その分け方でなんとなくわかったぜ、任せておけ」
サーシャは頷き、ハイセたちを連れ下へ向かった。
残されたレイノルドは叫ぶ。
「よぉっし!! オレらはここの守護、地下へは誰も行かせねぇぞ!!」
「……師匠」
「クレア、前衛はお前しかいねぇ。頼むぞ」
「え?」
レイノルドは、この場の全員に聞こえるように言う。
「この人選は守り、殲滅の人選だ。まずオレがお前たちを守り、エクリプスとタイクーンが高火力魔法で向かって来る敵を殲滅、プレセアが補佐、そして地下へ向かった連中との連絡、そしてクレア……お前はオレらの中で唯一の前衛だ」
「わ、私だけ?」
「そうだ。サーシャは、お前なら一人でも前で戦えるって思って、こっちに残したんだ。いいか? 魔法だって万能じゃねぇし、詠唱が必要なモンもある。その間、お前がオレらを守るんだ」
「…………」
「さあ……来たぜ!!」
すると、通路の奥から魔獣たちが群れで向かって来る。
エクリプスは、白い本を手に言う。
「詠唱、必要ない魔法が多いけど……野暮なことは言わないわ」
「キミはそうだが、ボクは違う。前衛がいてくれるとありがたいね」
タイクーンが杖を構えると、プレセアがボソボソと精霊に指示を出し、弓を構える。
「私は援護。久しぶりに、全力で戦えそうね」
「守りは任せな。全員の装備を強化しておくぜ」
レイノルドが大盾を構える。
そしてクレアは双剣を抜き、闘気を全開にして構えを取った。
「よーし!! こうなったら、師匠が驚くくらい、本気の私でやってやる!!」
クレアはそう叫びながら、魔獣たちに向かって突っ込んでいく。
◇◇◇◇◇◇
最下層へ進んだハイセたちは、驚きしかなかった。
「おいおい、なんだこれ……」
「これが、スタンピードの、原因……核魔獣」
何もない空間だった。
元は迷宮だったのだろう。だが、スタンピードの影響でダンジョンの地形が変わり、空間の中央に何かが生えていた。
エアリアが「うげえ」と気持ち悪そうに言う。
「な、なんか肉っぽいの生えてるぞ……」
「うげ、アタシもああいうのはちょっと……」
ヒジリも顔を歪めた。
部屋の中央に、肉の柱が立っていた。
ぼこぼこと脈動し、まるで血管のような枝が無数に伸びている。
そして、柱の中心があり得ないくらい膨らんでいた。
「まるで、繭……」
「あの中央にいるのが、スタンピードの元凶。生まれ変わる直前のダンジョンの核か」
ハイセは自動拳銃を抜く。
「スタンピードに関しては不明なことが多いが……なかなか面白いな」
「ハイセ、あの繭が割れる時が、真のスタンピードということだな」
「ああ。かつてハイベルク王国を襲った規模の魔獣の群れが、一気に噴き出すんだろう。だったらその前に、あの繭を破壊すればいい」
と……ハイセたちが敵意を向けた時だった。
繭が脈動し、ボコボコと形を変える。
血管のような枝に大きな肉の塊が実り、ボトっと落ちてきた。
そして、実が割れ、中から何か……得体の知れない、大量の触手を持つ《タコのような何か》が現れたのだ。
「わお、なにあれ」
「……防衛本能か? 俺らの敵意に反応……チッ、喋ってる場合じゃないな。来るぞ!!」
すると、血管のような枝からいくつもの《実》が生り始めた。
サーシャは叫ぶ。
「全員、目標は繭の破壊だ!! 蹴散らすぞ!!」
クリシュナ遺跡、最後の戦いが始まった。





