再来のスタンピード⑤/初日の終わり
十三分ほど経過。
大ホールにいた魔獣の七割が倒され、ダンジョンに吸収……だが、二階層からすぐに魔獣が駆け上ってくるので、数こそ減ってはいるが魔獣がいなくなるということはない。
ハイセ、サーシャ、クレア、ヒジリ。そしてエクリプスの五人。
ハイセは、火炎放射器を投げ捨て、二階へ続く階段に手榴弾を投げ込む……すると、爆発し魔獣の肉片が飛び散った。
ハイセは、チラッとクレアを見た。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
息も絶え絶えだった。
闘気が弱弱しく、今にも消えそうだ。
先ほどまでは高密度、高性能な分身を操作しつつ、自分も戦っていたが、今は余力がないのか自分だけで戦っている。
疲労が濃い。サーシャを見ると、汗こそ流していたが、純白銀の闘気は衰えていない。
(……これまで、何度かクレアとサーシャの闘気を見た。クロスファルドさんの闘気も見たが……なるほどな、大まかな闘気の量はわかった)
クレアは12000、サーシャは34000、クロスファルドは300000といったところだ。ハイセの見た限り、数値で表した場合の闘気の数値だ。
クレアの場合、闘気の分身を作るのに1000ほどの闘気を仕様する。分身は破壊されない限り消費されることはないが、分身自体が闘気で技を使ったりすれば消費される。
サーシャの場合、必殺技の一撃で闘気を5000ほど消費している。
(ソードマスターの闘気、か……)
このスタンピード戦で、どこまで残存量を増やせるか。
そう思っていると、ロビンが近づいてきた。
「ハイセ、今のうちにいい? 一階層はもう終わりにして、二階層へ行こう。そこで、二階層の部屋の一つを掃除して、ヒジリの力で塞いで、今日はもう休もう」
「わかった。二階層……よし、俺が活路を開く。サーシャ、聞いてたな?」
「ああ。よし、全員集合!! ハイセが活路を開く、このまま二階層へ進むぞ!!」
レイノルドが、ピアソラやタイクーンを守りながら来た。
エアリアも、上空で待機している。
ハイセは、二階層から上がって来た魔獣たちをマシンガンで一掃し、階段にいくつもの手榴弾を投げ込む。
大爆発が起きた。全員が驚いていたが、サーシャが叫ぶ。
「今だ!! 二階層へ!! 私が斬り込む!!」
サーシャが闘気を全開にし、階段を一気に下る。
その後にヒジリ、エクリプスが続く。
クレアはへとへとになりつつ駆けだしたが、足がもつれ転びそうになる……が、ハイセが支えた。
「ったく、まだまだ闘気の量が足りないな」
「し、ししょぉ……」
「レイノルド、こいつ担げるか?」
「おう、いいぜ」
「えええ、師匠が担いでくださいよぉ」
「任せた」
レイノルドにクレアを押し付け、ハイセは二階層へ。
「と……やっぱ片手塞がると守れねぇな。おいタイクーン、任せた」
「な、なに? おい、ボクに担げって……お、重っ!?」
レイノルドにクレアを押し付けられたタイクーンは、クレアをなんとか担ぐ……だが、鎧が重く、タイクーンもフラフラしていた。
クレアは怒る。
「お、女の子に重いとか酷いです!! サイテーです!!」
「事実を言ったまで、と、いうか、ひぃ、ひぃ……」
早くもグロッキーのタイクーンは、なんとか遅れないようレイノルドに付いて行くのだった。
◇◇◇◇◇◇
二階層に飛び出したサーシャは、剣を構え周囲を確認する。と、声が聞こえた。
『右へ』
「この声、プレセア?」
『精霊を介して案内するわ。このダンジョンの安全地帯だけど、魔獣がいるから全部倒してね』
「わかった!!」
サーシャは、プレセアの案内で走りだす。
クリシュナ遺跡の二階層も迷路だった。階段付近はハイセの手榴弾で掃除され、魔獣の死骸が転がっているが、通路の奥からは巨大な一つ目の魔獣や、毛むくじゃらのブタ、ツルツルしたヒツジなど、もう思い出すのも面倒なほど魔獣で溢れていた。
どの魔獣も、サーシャを見ると襲い掛かってくる。
『後続は私が案内するから、あなたは安全地帯の確保を』
「ああ、任せろ!!」
闘気を全開にし、サーシャは走る。
向かって来る魔獣を全て一刀で斬り伏せる。
棍棒を振るオーガの攻撃を最低限の動きで躱し首を両断、魔法の詠唱を始めたゴブリンメイジに向かってナイフを投げると頭部に命中、真っすぐ突っ込んで来るツルツルしたヒツジに向かって攻撃。
「『白帝神話弩矢』!!」
ドン!! と、純白銀に輝く闘気の矢が飛び、並んで突っ込んで来るヒツジの群れを一気に吹き飛ばした。
『その通路の右側に、このダンジョンの安全地帯の一つがあるわ。今はゴブリンで賑わってるけどね』
「なら、一掃する!!」
通路の右側に、ドアのない部屋の入口があった。
飛び込むと、大量のゴブリンが同時にサーシャを見た。
全員、眼がギラギラしている。だがサーシャは言う。
「───斬る!!」
◇◇◇◇◇◇
通路の右側にある小部屋に、全員が到着。
ヒジリ、エクリプスが通路に向かってくる魔獣の相手をしている間にレイノルドたちが部屋へ入る。それを確認し、ハイセはエクリプス、ヒジリに合図を出す。
そして、ハイセがスモークグレネードを投げると、通路が煙に包まれた。
その隙に小部屋に入り、ヒジリが僅かな空気穴を開けた『蓋』で入口を隠す。もちろん、壁と同じような材質、壁の色で。
ハイセは銃を抜き、室内を見渡す。
「安心しろ。魔獣は全て倒したぞ」
サーシャは、すでに剣を鞘に納めていた。
安全地帯は、シムーンのカフェと同じくらいの広さで、天井も同じくらい。
大量のゴブリンはすでに、サーシャが倒し、ダンジョンに吸収された。
ハイセは銃をホルスターにしまい、息を吐く。
「……今日はここまでだな」
「ああ。よし、全員、今日はここまでだ。野営を支度を速やかに行い、交代で食事、休憩を取る。組み合わせは、前衛、中衛、後衛から一名ずつだ」
前衛はハイセ、サーシャ、クレア、ヒジリ。
中衛はエクリプス、レイノルド、エアリア。
後衛はピアソラ、ロビン、プレセア、タイクーンだ。
「…………」
「あれれ、師匠。いつもの言わないんですか?」
「んだよ、いつものって」
「『俺は一人でいい……勝手に決めろ』みたいな」
「ぷははっ!! クレア、アンタ似てるわねー」
ヒジリが笑い、ハイセはジト目でクレアの頭にチョップを入れた。
そして、やや言いにくそうに言う。
「……チーム戦なんだ。勝手な行動はとらねぇよ」
「おお、師匠がそんなこと言うなんて」
「お前、頭ブッ叩くぞ」
「あわわ、じょ、冗談ですー」
「そこ、野営の支度だ。それと、表では魔獣がうろついているから、火起こしは当然厳禁だ。食事は、調理済みの物を食べるように」
サーシャに言われ、ハイセたちもテントを用意。
テントや椅子、テーブルを用意し終えると、クレアがハイセに甘えるように言う。
「あのあの、師匠~」
「……お前、また忘れモンか?」
「ち、違いますよ。あのですね……ちょっと身体が重いので、お風呂入りたいですー」
「はあ?」
「師匠、お湯の入った樽とか、目隠し用の仕切りとかアイテムボックスに入れてますよね? それ、部屋の隅っこに出してくれたら嬉しいとか……だ、ダメですか?」
「……リーダーに許可取れ」
「やった!! サーシャさんサーシャさん、お願いあるんですけどー」
と、クレアがサーシャの元へ。
そして、サーシャが苦笑し、ハイセに向かって頷くと、クレアが嬉しそうに戻って来た。
「許可するそうです。師匠師匠、お風呂お風呂!!」
「…………はあ」
「ちょっと!! アタシも入りたい!!」
「あたいも!!」
話を聞いたヒジリ、エアリアもハイセに詰め寄って来た。
結局、ハイセは仕切りを出し、お湯の入った樽を八つ出し……チームの女性陣全員が風呂へ入るための準備をするのだった。
そして、男性三人が見張りしている間に、女性陣は風呂へ。
「へえ、ハイセが考えたのね」
「うん。サーシャは最初、嫌がってたけどねー」
「ろ、ロビン。その件はもう……」
「いいお湯ですわね~」
「ですねぇ~、師匠に感謝ですー」
「プレセア、アンタ精霊のチカラでお湯出せないの?」
「出せるけど、これで十分じゃない」
「あっはっは。みんなチチでっかいなー、なあロビン、プレセアー」
すぐそこで、女性陣たちが入浴している。
レイノルドはチラチラと仕切りを気にしていたが。
「タイクーン。気付いたか?」
「ああ。スタンピード時に現れる魔獣の等級は跳ねあがると言ったが、姿形が変わった魔獣も多くいた」
「恐らく、ダンジョン自体が、魔獣に影響を与えているのかもな……」
「興味深い。サンプルを確保したいが、戦闘でそれどころじゃないのと、死んだ魔獣はダンジョンに吸収されてしまうという問題もある」
「……仮説だが、ダンジョンに吸収された魔獣は、核魔獣の養分になるってこともあると思うか?」
「……いい視点だ。実はボクも考えていた」
「……お前ら真面目すぎだろ」
なんとなく、居場所がないレイノルドだった。
こうして、スタンピード戦一日目は、幕を下ろすのだった。





