再来のスタンピード④/大暴れ
大ホール。
細い通路の先にある広い空間。
ハイベルク王国の中央広場より広く、あまりにも『無法地帯』だった。
大小さまざまな魔獣がひしめき合い、互いに殺し合い、広い通路に向かっていく魔獣、入れ替わりで入ってくる魔獣と、もうメチャクチャだった。
ハイセですら、これほどさまざまな魔獣が集まっている光景を見たことがない。
細道の隙間、ヒジリの立てた柱の傍で言う。
「ここを突破か。どうだ?」
「興奮する!!」
ヒジリは目を輝かせ、鼻息を荒くしている。
今回はハイセも止めない。
「まずは、俺たちで一掃する。前衛以外はここでサポートしろ」
「ハイセ、私も出るわ」
と、中衛のエクリプスも前に出た。
ハイセは数秒ほどエクリプスを見つめ、頷く。
「わかった。俺、サーシャ、ヒジリ、クレア、エクリプスの五人で突撃する。レイノルド、この細道に陣取って全員を守れるか?」
「へ、愚問だぜ。オレの後ろだけじゃねぇ、お前ら前衛も守ってやるよ」
「頼もしい。タイクーンは俺たちの強化、ロビンとプレセアは安全地帯の捜索、エアリアは室内の限界高度での援護を。ピアソラは、俺たちの疲労を回復だが……遠距離でも問題ないか?」
「ええ。目視できる距離なら、癒すことはできますわ」
「よし。タイクーン、何か言うことあるか?」
「いや。ボクの考えと同じだ。さすがハイセだね」
「よし……サーシャ、ヒジリ、クレア、エクリプス。今日はこの階層を徹底的に掃除する。とにかく、全力で暴れ回れ」
スタンピードの発生は一週間後、今日は初日だ。
この『クリシュナ遺跡』は全四階層。一日に一階層ずつ攻略しても問題ない。
ハイセはショットガンを手にし、ロケットランチャーを肩に担ぐ。
「喜べヒジリ、暴れ放題だ」
「……~~~っ!! もう我慢できないから!!」
ヒジリが細道の柱を消すと同時に、ハイセはロケットランチャーをブッ放した。
弾頭が巨大なイモムシに命中し爆発を起こすと、細道から出てきたハイセたちに魔獣が注目する。
「さあ、大暴れだ」
「金剛拳、『赤紅連拳』!!」
赤いルビー鉱石で型取られた無数の拳が大量に飛び、魔獣たちに激突した。
「アタシの全力!! 受け止めてみなさい!!」
ヒジリが飛び出す。
遅れてサーシャ、エクリプス、そしてクレア。
最後に、ロケットランチャーを投げ捨てたハイセが、ショットガンを手にゆっくり歩き出した。
◇◇◇◇◇◇
レイノルドは、背中に背負っていた大盾を手にし、床に叩き付けるよう前に構えた。
「さあ安心しな!! オレの後ろはもう安全地帯。この『絶対防御』レイノルドの守り、見せてやるぜ!!」
細道に向かって殺到する小型魔獣たち。
すると、レイノルドの盾とその周辺に力場が発生。盾の手前で魔獣たちがぶつかり、押しつぶされそうになっていた。
タイクーンが言う。
「ほう、これがレイノルドの『覚醒』か」
「おうよ。オレの『シールドマスター』の覚醒は、オレが装備した盾に力場を発生させて、あらゆる攻撃を弾き、無効化する!!」
「だが、時間制限はあるんだろう?」
「いやまあ、そうだけどよ……んな淡々と言うことじゃなくないか?」
やや呆れるレイノルド。だが、こうして喋っている間も、魔獣たちは盾を超えようと群がってくる。だが、その手前に発生した力場に遮られ、近づくことができない。
「へへ、今のオレならサーシャとハイセの同時攻撃だろうと凌ぐ自信はあるぜ」
「確かに、究極の守りだな……」
「それだけじゃねぇぜ」
レイノルドがクレアを見た。
クレアは、三メートルはある三つ首の蛇と戦っている。負けはしないだろうが無傷ではいかない。
だが、レイノルドがクレアを見た瞬間、クレアの鎧が薄く輝いた。
「えっ……きゃ!? って、あれ?」
クレアは、三つ首の蛇に腕を噛まれた……が、全くの無傷。
鎧のガントレット部分に牙が食い込むことはない。
ポカンとするクレアだが、すぐにハッとなり蛇の首を切断する。
タイクーンは「ほう」と驚く。
「なるほど。他者の装備の防御力を強化できるのか」
「ああ。視認した装備だけだから、まだ一人しか強化できねぇがな」
「ならば問題ない。チーム『セイクリッド』の主な前衛はサーシャだ。ボクとピアソラはお前の後ろで、ロビンは援護だが彼女の隠形ならまず問題ない。くくく……これはいい能力だ。さすがレイノルド」
「どーも。まあ、いずれはサーシャだけでいいけど、今は全員を守りたいぜ。それとタイクーン……この力場、もって三十分くらいだけど、その間に終わると思うか?」
「問題ない。あの五人は全員、S級冒険者だ」
視線の先にいたのは、魔獣相手に暴れまくる五人の冒険者たちだった。
◇◇◇◇◇◇
プレセアは、眼を閉じて両手を祈りを捧げるような構えを取っていた。
手は合わせない。合わせるだけのポーズだ。
そして、傍ではロビンが、マップ片手にプレセアを見ている。
「……二階層までチェックが終わったわ。どこもダメね。やはり安全地帯も全て魔獣で覆い尽くされているわ」
「やっぱりそうかー……スタンピードの魔獣も階段移動してるし、あたしがチェックした安全地帯は全滅だね」
ロビンは、地図の『安全地帯』と書かれた空白の個所にバツを付ける。
現在二人は、今日休めそうな場所を探していた。
ロビンが予めチェックしておいた『クリシュナ遺跡』の安全地帯を、プレセアが精霊を使ってチェックする。
レイノルドが魔獣を寄せ付けない力場を発生させているので、安心してチェックできる。
「うーん、階段で休むってことも考えたけど、モロに移動手段として使われてるからねえ」
普段のクリシュナ遺跡なら、魔獣が階段を経由して二階に上がることはないし、下がることもない。
「……横穴を開けるのも無理ね。そもそも、ダンジョンは破壊できない」
核が存在する限り、ダンジョンは破壊できない。魔獣が死んだら吸収されるように、ダンジョンは生きているのだ。
「……安全地帯がなければ作るしかないわね」
「どうするの?」
「二階層に移動して、安全地帯の一つにいる敵を殲滅……入口に蓋をするっていうのは?」
「あ、いいねそれ。じゃあ……そこそこ広くて、入口が一つの安全地帯は……」
武器を振るうだけが戦いではない。
プレセア、ヒジリの二人は、戦いが終わり休むための場所を探すのだった。
◇◇◇◇◇◇
ピアソラは、動き回るサーシャたちに、ひたすら回復魔法をかけていた。
「『疲労回復』、『疲労回復』、『疲労回復』……ふう。こうして回復を続けるとわかりますわね」
ハイセは尋常じゃない体力、サーシャとヒジリはその次で同じくらいの体力、やや劣ってクレア、魔法で身体補助をしてクレアよりやや上のエクリプスといった感じだ。
疲労回復では、クレアとエクリプスを中心に回復していた。
「それにしてもハイセ、なんて体力……」
戦闘が始まり、まだハイセは一度も回復していない。
回復すれば、残り体力などがなんとなくわかる。一度ハイセを回復したが、まだ全然疲労していない。
「本当に、変わりましたわね……」
荷物を背負って歩くだけで体力切れするようなモヤシっ子が、今では誰よりも強い。
もう、バカにできない。
「……ふん。でもでも、サーシャとの仲は認めませんわ!! それに……」
ほんの少し……ほんの少しだけ、ピアソラは異性としてハイセが気になりだしていた。





