再来のスタンピード③/強者の宴
クリシュナ遺跡に十一人は突撃。
決めた通り、前衛、中衛、後衛に分かれて進む。
ロビンはマップを見つつ、ハイセに言った。
「ここ、四階層しかないけど一階層が小さな町くらいあるから探索は困難だね。しかも今はスタンピード直前、魔獣──」
そこまで言うと、ハイセたちの進む通路の真正面に、オークが何体も向かって来た。
数は六。だが後ろに何体もいる。
横幅、天井が高いおかげで戦いやすいのがありがたい。
ヒジリは凶悪な笑みを浮かべ、サーシャは冷たく、クレアは闘志むきだしで剣を抜く。
だが、誰よりも早く動いたのはハイセ。
「「「「「ブモッァ!?」」」」」」
ドドドドドドン!! と、ハイセは背負っていたリボルバーを一瞬で六連射。
オークの脳天をほぼ同時に打ち抜き、シリンダーから薬莢を輩出。同時に投げた弾丸六発を回転しながら一瞬で装填し、銃口を向ける。
ダンジョンの魔獣は、ダンジョンに食われ消滅する。六体のオークが同時に消滅すると、後ろに続いていたオークが向かって来た。
ハイセはリボルバーを背中にしまい、アンチマテリアルライフルを具現化、構え、発射。
放たれたライフル弾がオークの頭部を貫通し、後ろにいるオークたちの頭部にも貫通。弾丸の斜線上にいたオークが十体以上消滅した。
あっけに取られているヒジリ、サーシャ、クレアにハイセは言う。
「見てるだけか?」
そう言って微笑み、三人の前に出て自動拳銃を構えた。
「むっかぁぁぁぁ!! アタシだって!!」
「ふん、面白い!!」
「あ、あたしだって!!」
負けじと三人も飛び出し、ハイセに続くのだった。
◇◇◇◇◇◇
現在、ハイセたちはクリシュナ遺跡地下一階、大ホール直通通路という、一階層で一番広いホールへ向かうための通路にいた。
横幅はオーク六体分、高さはオーク三体分という広い通路。
だが、今は道の奥から奥から、これでもかと魔獣が押し寄せて来る。
すでに、四十体以上のオークを、前衛の四人は倒していた。
「これがスタンピード直前のダンジョンか。まだ遺跡に踏み込んで二十分と経過していないのに、これほどの数が押し寄せてくるとは」
「落ち着いてる場合かよ。おいタイクーン、いくらあの四人が強くても、こうも物量で押されたら、いずれ押し負けるぞ!!」
盾を構えるレイノルドが言う。すると、通路の奥から投石……レイノルドは、右手に装備した丸盾で弾き飛ばした。
右手をハイセたち四人に向けたままのエクリプスが言う。
「そこの盾士さんの言う通りね。スタンピード直前のダンジョンは基本的に、魔獣が途切れることはないと考えた方がいいわ。何か策を講じないと」
「策はあるさ。ロビン」
「はーい!! プレセア、どう?」
「そうね……あそこ」
ロビン、プレセアの二人が見つけたのは、小さな細い脇道だった。
地図を見ながらロビンは、ハイセたちから五メートルほど進んだ先にある細道を見て、マップにマーク。天井付近を飛ぶエアリアに言う。
「エアリア、そこから十七メートル先、右の方に通路見える?」
「む、見えるぞ。ほっそい通路だ!! エクリプスやサーシャだとデカチチが挟まるんじゃないかー?」
「そこに行って、ハイセたち誘導できる? あたしらも援護するよ!!」
マップをしまい、ロビン、プレセアは弓を、レイノルドは大盾を構え、タイクーン、ピアソラはレイノルドの後ろへ。エクリプスは「あとでお仕置きね……」と呟き、レイノルドの後ろへ。
エアリアは、細道付近で待機、叫ぶ。
「ハイセ!! こっちの通路だって!!」
「了解した。ヒジリ、サーシャ」
「応!!」
「ああ!!」
通路に近いサーシャが飛び出すと、白銀の闘気が膨れ上がる。
「白帝剣、『白帝神話聖剣』!!」
闘気の波動が、オークを一斉に薙ぎ払った。
細道までのルートが切り開かれると、ヒジリが拳を地面に叩き付ける。
「金剛拳、『天之柱』!!」
すると、オリハルコン製の柱が何本もせり上がり、一時的な壁となる。
オークたちが一斉に体当たり。頑強なオリハルコンも、オークの重量、そして圧力に耐えるには限界がある。
現に、オリハルコン製の柱の隙間からオークの血が噴き出していた。激突したオークが背後から無数のオークに押され、潰れかけているのだ。
その間に、ハイセたちは細道へ。
殿のヒジリが滑り込み、細道を隠すように柱を立てると同時に、『天之柱』が崩壊。オークたちが一斉に飛び出していった。
「ふぃぃ、間に合ったわね」
「ああ」
ハイセは自動拳銃のマガジンを交換しつつ、細道を見る。
「狭いな。さっきのオークじゃ通れない」
「ですね。並んで二人歩くのが限界ですー」
クレアがハイセの隣に立つと、壁スレスレだった。
ロビンがマップを確認し、プレセアに言う。
「ここ進むと大ホールだね」
「ええ。どのみち、大ホールを経由しないと地下二階へ進めない。恐らく大ホールは、今以上の魔獣で溢れているわ」
「だねー……まあ覚悟してるけど、やっぱり大変。ね、サーシャ」
サーシャは、エクリプスと二人で「デカチチ」呼ばわりしたエアリアに詰め寄っていたが、ロビンに言われて圧を弱める。
「ああ。だが、今のはいい準備運動になった。エクリプス……お前はどうだ?」
「別に、普通だけど」
「先ほど、お前は私たち前衛の疲労をずっと癒していたな。魔力は平気なのか?」
「あれ? そういえば、全然疲れてないわね」
「あ、私もです」
今気づいたのか、ヒジリとクレアが顔を見合わせていた。
ハイセは気付いていたのか、エクリプスを見ている。
「別に、この程度なら問題ないわ。あなたたちを同じ、準備運動……大ホールではそちらの聖女さんに全てお任せすることになるわ」
「ふん、お任せくださいな」
ピアソラは胸を張る。
レイノルドは、周囲を見ながらロビンに聞く。
「にしても、こんなところに細道があったとはなあ」
「ここ、大中小の道が入り組んでる遺跡なの。もっと細い道もあるし、さっきよりも広い道もあるよ。ヒジリの力で道の入口を偽装すれば、休みつつ進める」
「ほー、そりゃいいな」
「うん。プレセア、いくつか地下に向かうルートを考えてたけど、もう一回見直しておこっか」
真面目な顔で、ロビンはプレセアとマップの確認をしていた。
その横顔をハイセが見ていると、サーシャが言う。
「偵察、斥候に関してはS級冒険者に匹敵する。少し前から、ダンジョンについてタイクーンと勉強したり、マッパーとしての技能も磨いている……最後の禁忌六迷宮を攻略したら、S級冒険者に認定されるかもしれんな」
「……へえ。ロビン、やるじゃないか」
「ああ。皆、成長している。ハイセ……お前だけじゃないぞ」
するとロビンが、ハイセの元へ。
「ハイセ、マップの確認して」
「ああ。サーシャ、お前も見ておけ」
「あ、いやその……」
「ハイセ、サーシャってば方向音痴だから無理むり」
「……ああそうか」
「お、おい!! くっ……わ、私だって成長してるんだ。見せろ!!」
負けず嫌いのサーシャは、ハイセとロビンの間に割りこみ、地図を見て唸るのだった。





