スタンピード戦②
ハイセは、冒険者ギルドへ。
ギルド内はほとんど誰もいない。受付カウンターに新人受付嬢がいるだけだ。
ハイセに気付くと、カウンターに突っ伏していた新人受付嬢がガバッと起き上がる。
「わわわっ!? はは、ハイセさん? えっと、何か用事ですか?」
「人、全然いないな」
「そりゃまぁ。依頼は受け付けていませんし、今ある依頼も緊急以外は停止中ですし。それに、冒険者さんたちはみんな、クランから支払われる報酬のために、臨時でクラン入りしてますし」
冒険者は、ハイセのようなソロ、クランに所属しているチーム、所属していないチームの三つに分けられる。現在、各クランは、戦力増強のために無所属のチームを金で雇い、チームを強化していた。
スタンピード後、戦闘に貢献したクランに、ハイベルク王国から莫大な報奨が支払われるから無理もない。少しでも報酬のためにチームを強化するのは当然の策だ。
「ぶっちゃけ、今の冒険者でソロやってるのハイセさんだけですよ? ハイセさん以外のソロも、王都のクランに雇われてるみたいですし」
「だよなぁ」
ハイセは、カウンターで新人受付嬢と話をする。
この、他人の顔色を窺わず、ストレートな物言いをする新人受付嬢が、ハイセは嫌いじゃなかった。
「スタンピードかぁ……王都、どうなっちゃうんですかねぇ」
「ま、大丈夫だろ。冒険者は大勢いるし、俺も戦うからな」
「おお、頼りになりますねぇ。えーと……援軍を混ぜて、王都にいる冒険者は五千人くらいですね。そして、ギルマスが出したスタンピードから現れる魔獣の数は……うっげぇ、七万ですって」
「一人頭、魔獣十四匹か。けっこう楽勝だな」
「えええ~……絶対厳しいですって」
「まぁ、俺一人で千はやるけどな」
「かっこいい!! なーんて、無理しないでくださいね」
「無理しないと王都は崩壊するぞ。たぶんだけど、王都が突破されたら、あっという間に魔獣に荒らされて、みんな死ぬ」
「げぇぇ……」
新人受付嬢は「うげぇ」と舌を出す。
ハイセと同い年くらいの少女なのに、なかなか顔芸が達者だった。
「ね、ね、ハイセさん。スタンピードで生き残ったら、どうします?」
「どうもなにも……いつもの日常が戻ってくるだけだろ」
「クラン、作りませんか?」
「作らない。俺はソロでいいし、そろそろ『禁忌六迷宮』の情報を集めて、対策練る」
「……本気で挑むんですねぇ」
「ああ」
禁忌六迷宮。
まず、現時点で挑戦可能なのは 砂漠の国ディザーラが厳重に入口を管理している『デルマドロームの無限迷宮』と、西方にある極寒の国フリズドの管理する凍らない湖『ディロロマンズ大塩湖』だ。
「まず、南方にある砂漠の国へ行って、デルマドロームの無限迷宮について調べる予定だ。しばらく、王都を留守にする」
「えー……」
「いや、なんだよ『えー』って」
新人受付嬢と二人で話していると、二階の階段からガイストが降りて来た。
「ハイセ、ギルドに何か用か?」
「はい。ガイストさんにお願いがあって」
「え? あたしとお話しに来たんじゃないんですかー?」
「んなわけあるか。ガイストさん、いいですか?」
「とりあえず、ワシの部屋に来い。ミイナ、茶を頼む」
「はーい」
「…………」
「ん? どうしたんですか、ハイセさん」
「お前、ミーナって名前だったんだな」
「えぇぇぇぇ!? 今知ったんですかぁ!?」
ハイセはガイストの部屋へ。
ミーナが運んできたお茶は、酷い味だった。
二人きりになり、ハイセはさっそく切り出す。
「ガイストさん。スタンピード戦……俺に、先陣を切らせてください」
「何?」
「スタンピード。魔獣はかなりの数が王都に向かってくるんですよね? 後衛部隊が『能力』で遠距離攻撃をして数を減らし、前衛部隊が少なくなった魔獣を直接戦闘で片付ける……一番最初、後衛部隊が攻撃を仕掛ける前に、俺にやらせてください」
「……策があるのか?」
「あります。俺の『武器』で、数を減らします」
「……わかった」
「え……」
「ただし、後衛部隊が攻撃を仕掛けるタイミングになったら、攻撃を開始する。お前は最前線のさらに前に移動し、そこで攻撃を仕掛けろ」
「い、いいんですか?」
「なんだ、自分から言い出したことだろう?」
「そうですけど……まさか、あっさり許可をくれるなんて」
ガイストは、スタンピード戦の総指揮官に任命されていた。
ハイセの最前線での攻撃はガイストの説得が全てだったが、あっさりと許可をもらえたことに、ハイセは驚いていた。
「お前が何をするのか知らんが、お前が言うことは信頼しているよ」
「ガイストさん……」
「……実はな、サーシャもワシのところへ来た。『A級ダンジョンに入る許可が欲しい』とな……当然、却下した」
「…………」
「サーシャは、最前線のど真ん中にチームを置く。ここで活躍できれば、あいつを舐める者もいないだろう」
「ガイストさん……」
「あの子は、まっすぐだ。まっすぐすぎて、お前の苦しみを理解できなかった。ハイセ……何度でも言うが、サーシャと仲良くやってくれ」
「…………」
「ふ、まぁいい。とにかく、無茶はするなよ」
「はい」
こうして、ハイセの『戦い』が始まろうとしていた。





