十一人の野営
十一人。それも全員が高位冒険者となると、やはりクセがある。
初日は野営。今日は川べりで野営をすることになり、それぞれ準備を始めた。
十一人、それぞれの役割で……ではなく、それぞれ自由に、責任を持っての野営準備。
大まかに、ハイセとクレア、プレセア、ヒジリ、エアリア、エクリプス。そして『セイクリッド』の五人で分かれて準備を始めた。
まず、ハイセとクレア。
「あれ? 師匠、寝台馬車あるのにテントですか?」
「俺はこっちのが落ち着くんだよ」
「おお、しかもこのテント、最近発売した高級ワンタッチテントじゃないですか。紐を引っ張るだけでテントが開くやつ」
「おい、触るなよ。ったく……お前も野営の準備しろ」
「でもでも、寝台馬車あるし、居住馬車の方にキッチンとかあるし、出す物あんまりないというか」
と、サーシャとエクリプスが近づいてきた。
「ハイセ。やはりというか、予想通りというか……やはり寝台馬車は使わないのか?」
「ああ。俺はこっちのがいい」
「食事の用意などもあるが……」
「自分でやる。見張りの順番も適当に決めて、あとで教えてくれ」
「むう……ハイセ、これからしばらくは共同生活になるんだ。その、一緒に食事とか」
「……悪いな。こうして一緒に旅をするだけでも、成長したと思ってくれ」
確かに、ハイセは変わった。昔のハイセだったら『一人でいい』と言い、スタンピード戦すら一人で挑んでいたかもしれない。
だが、基本的に孤独を好むところは、変わっていない。
悪い意味ではない。仲間意識はあるが、一人の時間を好むだけ。
すると、エクリプスが一本のワインボトルをハイセへ。
「はい、これ」
「……ワイン?」
「今日の見張りは私が。というか、見張りは全て私がするから、飲んでちょうだい」
「待てエクリプス。見張りは交代でと決めたはずだが」
「別に問題ないわ」
すると、エクリプスはアイテムボックスから『黒い本』を取り出し、ページを一枚千切って投げた。
「『闇紛れの蝙蝠』」
ページが燃え上がると、炎から大量のコウモリが飛び出し、半径数キロに渡って飛び散って行く。
近くの木、藪、上空を旋回、そして木々の影に飛び込むと、完全に気配が消えた。
エクリプスの手に、一匹の黒い蝙蝠が乗り、甘えるように頭を揺らす。
「この子たちが約七千匹、半径三キロ圏内に潜んでいるわ。何か異常があれば知らせるし、Aレートくらいの魔獣ならこの子たちが食べちゃうから。あからさまな危険地帯じゃない限り、安心していいと思うわ」
「なんと……」
「わあ、かわいいですね~」
「へえ、やるな」
ハイセが手を差し出すと、近くにいたコウモリが手に乗った。
「師匠、なんかコウモリが似合う男、って感じですね……」
「んだよそれ。まあ、感謝するぞ、エクリプス」
「え、ええ……あの、よかったらそのワイン、一緒に飲まない? 私、おつまみも作って来たの」
するとエクリプス、アイテムボックスからチーズやサラダなどのおつまみセットを出し、テーブルや椅子を出した。
驚くサーシャ、クレア。だがハイセは意外にも、エクリプスの用意した椅子に座り、自分もアイテムボックスから酒を出し、さらに食事も用意した。
「……俺も出す。飲むなら付き合ってもいい」
「あ、ありがとう!! というわけで……サーシャ、クレア、見張りは任せて、ご自由にどうぞ」
「「…………」」
サーシャ、クレアは「こ、こいつ……」みたいな表情になる。
するとロビン、レイノルドが来た。
「おーい、メシの支度できたぜ。って……おいおいハイセ、いいモン飲んでるな。よし!! おいロビン、みんな呼んで来ようぜ。メシ持ってくるぞ」
「うん!! えへへ、初日はみんなでご飯だね!!」
何か言う間もなく、レイノルドとロビンが全員を連れて戻って来た。
ハイセのテント周りが一気に騒がしくなり、いつの間にか宴会となるのだった。
◇◇◇◇◇◇
夜、ハイセは馬車から離れた川べりの岩に座り、一人で眺めていた。
「眠れないのか?」
すると、寝間着姿にカーディガンを羽織ったサーシャが来た。
ハイセの隣に座り、空を見上げる。
空は星が瞬き、川の流れる音、そして星と月の輝きが水を照らしている。
「……いろいろ、考えることがあってな」
「考えること?」
「……スタンピード戦。そして禁忌六迷宮。これらが終われば……俺の冒険者としての人生、一つの到達点ともいえることが終わることになる。そこに辿り着いた時、俺は冒険者を続ける意味があるのかと思ってな」
「……そんなことを考えていたのか」
「まあな。正直、何を目的に戦い続ければいいのか、わからない」
「……まさか、冒険者を辞める、とか」
「わからん。今更俺に、別の道があるなんて思わないしな……かといってお前みたいに、誰かを育てるなんてこともできると思えない」
そう言い、ハイセは空を見上げた。
「たまに思う。俺は……どうすべきなのかと」
「簡単だ。ハイセ……お前は『導』となるべきだ」
「……え?」
思わずサーシャを見ると、サーシャも空を見上げていた。
「私やエクリプス、他のS級冒険者とは違う。お前は知っているか? 確かにお前は『闇の化身』と呼ばれ恐れられているが、同時に……同じくらい、冒険者の憧れでもあるんだ」
「……俺が?」
「ああ。お前は、未来を担う冒険者たちの『導』となればいい。今のお前は、誰も追いつけないほどの高みにいる。だったら……少し足を止めて、振り返るのもいいんじゃないか? それに……私もお前も、まだ二十年も生きていない。この世界も広い、もしかしたら……まだ見つかっていない禁忌六迷宮以上のダンジョンや、SSSレートを超える魔獣がいるかもしれないぞ」
「……っぷ、ははは。確かにな」
ハイセは笑った。
久しぶりに見た、素の笑顔だった。
その笑顔を見てサーシャの胸が高鳴る。
二人きり……そのことを意識し、サーシャは顔が赤くなる。
「サーシャ、ありがとな。お前の提案、今後の冒険者活動に活かしてみる」
「あ、ああ……」
「……なんだよお前、顔赤くして。熱でもあんのか?」
「べ、別にそんなんじゃない!! み、見るな!!」
サーシャは立ち上がり、逃げるように去った。
「……なんだあいつ」
サーシャの背を見送りながら、ハイセは息を吐く。
「……少しは軽くなった、かな」
空を見上げると、綺麗な流れ星が見えた瞬間だった。





