出発前日②
食事会が始まった。
それぞれ会話をし、食事し、酒を飲み、楽しい時間が始まる。
ハイセは、レイノルドに誘われ酒の置いてあるサイドテーブルへ。
「おいおいハイセ、こんな高級酒どうやって手に入れたんだよ」
「酒屋で高いの注文しただけだ。金に糸目付けないって言ったら、倉庫から高いの全部出してきたから、全部買った」
「お前、酒好きだったっけ?」
「別に。こういうのは土産用だ。挨拶の時に渡したりすると喜ばれるからな」
「ほほ~……いやあ、でも嬉しいな。今日は飲もうぜ!!」
「ああ、好きに飲め。足りないなら出してやるし、余ったら持って帰っていいぞ」
「ははは!! そりゃ~いいな、ありがとよ!!」
「おい、肩組むな。ってか始まったばかりなのに酒臭いぞ……」
レイノルドはすでに顔を赤らめ、高級酒を楽しんでいた。
ハイセは肩を無理やり組まされ、外そうとするが怪力レイノルドの力で外せない。
「おーいクレス!! オマエもこっち来いよ!! 今日は本体か~?」
ハイベルク王国第一王子に対する口調ではないが、クレスは笑ながらやって来た。
「やあハイセ君、久しぶりだね」
「……どうも」
「おいクレス、今日は『本体』か?」
「当たり前だろ。お前たちを労いに来たんだ。本人が来るのは当然だろ……ちなみに、王城にはオレが作った『複製体』がいるから問題ない」
「ははは、便利な能力だぜ」
クレスは『倍化』という、一つの物を二つにする力がある。
能力が覚醒し、倍加したモノをさらに倍に、さらに人間を複製させコピーとして動かすことも可能になっている。
今、王城にはクレスだけでなく、バルバロスやミュアネの『複製体』が公務を行っていた。
レイノルドは、クレスに酒を注ぐ。
「今日は飲むぜ。おい、最後まで付き合えよ?」
「わかってるよ。同じ傷を持つ者同士、心行くまで……ね」
レイノルドはクレスとグラスを合わせ、なぜかサーシャを見た。
なんとなくハイセは察し、ようやくレイノルドの腕から離れる。
クレスは、レイノルドとハイセに言った。
「……実はさ、婚約者ができたんだ」
「お、マジか?」
「ああ。森国ユグドラの王族でね……エルフなんだ」
「……異種族結婚」
ハイセが言うと、クレスは頷いた。
「外交的な意味もあるけど、その……オレが一目惚れしちゃってね。彼女、ミスティアはその……可愛いんだ」
「惚気かよ……」
「…………」
すると、プレセアがハイセの背からヒョコッと現れた。
「ミスティア、前に会ったときあなたのことばかり話していたわよ。運命の王子様とか、出会うべくして出会ったとか……あんまり惚気が酷いから、デコピンしてやったわ」
「お前、知り合いなのか?」
「ええ。親戚」
「……そういや、お前も王族だったな」
すっかり忘れていたハイセ。
プレセアは、森国ユグドラの王妃アルセラの妹。クレスの婚約者であるミスティアは、ユグドラの王グレミオの実妹である。
プレセアとは歳も近く、二人でよく狩りに出かけたり、薬学に関して語り合った。
クレスは照れつつ言う。
「あはは……なんだか恥ずかしいな」
「ちなみに、ミスティアは綺麗なエメラルドグリーンのロングヘアで……そうね、少しサーシャに似ているかもね」
「……おい、マジかよ」
「……まさか...殿下」
「まま、待ってくれ!! オレはそんなつもりでミスティアを愛したわけじゃないぞ!! というかキミ、変なこと言わないでくれ!!」
焦るクレス。
どこ吹く風のプレセア。
なんとなくジト目のレイノルド、ハイセ。
楽しい時間は、まだ始まったばかりである。
◇◇◇◇◇◇
エクリプスは、一人でのんびり窓辺で酒を楽しんでいた。
ハイセの方をチラッと見ると、意外なことに楽しそうだ。
「第一王子、クレスだったかしら……ハイベルク王国の次期国王」
レイノルドと肩を組み、どこにでもいる平凡な青年のように笑っている。
魔法王国プルメリアにも王子はいる。だが、どこか偉そうで鼻の付く男で、何度か食事やダンスに誘われ、無難にこなしてきた……妙な勘違いをさせたのか、求婚に近いことも言われたが、とりあえず聞き流した。
今は、カーリープーランによる『洗脳』で、意思のない人形のようになっている。その点に関してはカーリープーランに感謝した。
すると、エクリプスに近づく少女が。
「あ、あの、お姉様!!」
「あら……ミュアネ王女殿下。こんにちは」
「こ、こんにちは!!」
第一王女ミュアネ。
以前、七大冒険者会議であいさつし、何度かお茶会に誘われた。
エクリプスの高貴な振る舞いが理想なのか、キラキラした目を向けている。
イメージは、懐いた家猫……不思議と悪い気はしないので、エクリプスは笑顔を向ける。
「あの、お姉様とお話してもいいですか?」
「もちろん。ふふ、せっかくですし、何か食べながらにしましょうか。ここのシェフの料理は、これまで食べた料理の中でもトップクラスですのよ」
「確かに……さっき食べたクッキーとか、とてもサクサクで甘くて、美味しかったです」
「じゃあ、デザートの方へ……あら、サーシャ」
と、グラスを手にしたサーシャが来た。
「邪魔だったかな。と……お久しぶりです、ミュアネ王女殿下」
「もう!! ミュアネでいいってば。一緒に冒険した仲じゃない」
「ふふ、ではミュアネ。エクリプスも、楽しんでいるか?」
「ええ、とても」
「…………」
ミュアネは、向かい合って話すエクリプスとサーシャを何度も見比べた。
二人の視線がミュアネに向くと、ミュアネは頬を染める。
「ミュアネ、どうしたんだ?」
「い、いえ……こうして二人が並ぶとその……女神様みたいだなって」
「ふふ、お上手ね」
「女神様って……私はそんなものと比べるような人間じゃないぞ?」
サーシャが苦笑するが、ミュアネはため息を吐いた。
「サーシャ。前から思ってたけど、あなたは外見に対する自己評価が低すぎます!! 抜群のプロポーションに、輝く銀髪、彫刻のような造形美……あなたみたいな美女、千年に一人生まれるかどうか!! お兄様なんか釣り合わなくて当然です!!」
「お、おい……な、何を言って。なあ、エクリプス」
「あら、私もそう思うわよ? そうね……胸の大きさでは勝てる気がしないわね」
「お、お前まで何を!?」
「むむむぅ……ちょっとくらい分けて欲しいかも」
ミュアネは、平べったい自分の胸とサーシャの胸を見比べ、恨めしそうに見ていた。
そして、デザートコーナーへ向かいながら言う。
「そうそう、お兄様に婚約者ができたの。しかもエルフなの!!」
「ほう、そうなのか。あとでお祝いの言葉を送らねばな」
「へえ、異種族婚……ハイベルク王国では珍しいのかしら?」
「そんなことないわ!! ああ、私もカッコいい獣人の男性と結婚したいです。ふさふさの毛、逞しい身体、肉を食い千切る牙、あらゆるものを引き裂く爪……うふふ、素敵ですわ」
「「…………」」
ミュアネは『獣人好き』という一面を知り、サーシャとエクリプスは互いに顔を見合わせ、なんと言えばいいのか迷うのだった。
楽しい時間はまだまだ続く。





