ハイセVSクロスファルド
クラン『セイファート騎士団』の『決闘場』に、ハイセとクロスファルドは向かい合っていた。
ハイセは無手。クロスファルドは左手に銀の拵えをした専用刀『翠竜』を手にしている。
観客は、サタヒコにディシア、アヤメ。そしてハイセの知らない『強者』たち。
ヒジリも、どこかワクワクした感じだった。怪我はすでに治療したのか無傷。
「すまんな、うちの部隊長たちがぜひ、ワシとお前の試合を見たいと言うのでな」
「構いませんよ。それで……ルールは?」
「全力だ。ただし、この決闘場外を破壊するような攻撃は不許可……あくまで、この決闘場内で出せる全力で頼むぞ。お前の本気は、無差別かつ大規模破壊に特化していると聞いたしな」
「…………」
なんとなく、クラン『銀の明星』を崩壊させたことを言っているような気がした……エクリプスの魔法実験で倒壊したと情報操作したのに、クロスファルドは真実を知っているような口ぶりだ。
すると、十代後半ほどの少女が近づいてきた。
「それではこれより、試合を始めさせていただきます。ハイセさん、マスター……怪我をしたら治療はお任せを」
「ああ、頼むぞヤクモ」
「…………」
ハイセは両手を閉じ、開くを繰り返す。
不調はない。呼吸を整えて小さく息を吐き、ヤクモに頷く。
ヤクモは、もう一度ハイセ、クロスファルドを見て、静かに腕を上げた。
「それでは──……試合開始!!」
手が振り下ろされ、試合が始まった。
◇◇◇◇◇◇
ハイセはホルスターから二丁の自動拳銃を抜き、クルクル回転させてクロスファルドに突きつける。
クロスファルドは構え、抜刀……翠銀色の闘気が爆発的に燃え上がった。
「翠銀色……」
「うむ。聞いたぞ、サーシャも自分の闘気の色を見つけたそうだな。それと……クレアだったか。彼女もまた、自分の色を」
サーシャは純白銀、クレアは青銀、クロスファルドは翠銀……闘気に固有の色が出るとは思っていたが、クロスファルドの闘気の輝きは、サーシャやクレア以上だった。
クレアを連れ、この闘気を見せてやればよかったと、師匠らしく考えるハイセ。
軽く息を吐き、銃を両手に走り出す。
クロスファルドが一歩踏み出した瞬間、地面が爆発した。
同時に、ハイセは自動拳銃を連射。土煙で見えないが、クロスファルドの腕と腹を狙った銃撃……だが、煙が晴れると、クロスファルドは刀をクルクル回転させていた。
弾丸は地面に転がっているし、爆発も無傷。
全て、恐ろしい密度の闘気が爆発を無効化していた。
「恐ろしいな……そういえば、ノブナガも使っていた。一歩踏み出した瞬間に爆発する。奴は『対人地雷』と呼んでいた……懐かしいな」
ハイセは自動拳銃をホルスターにしまい、カービン銃を具現化、クロスファルドに向けて引金を引くと、クロスファルドは刀で銃弾を弾きながら接近してきた。
そして、ハイセに接近し横一線、ハイセは紙一重で避け、カービン銃を捨てて背中に隠してあるリボルバーでファニングショット。
クロスファルドは銃弾を躱し、数発を刀で斬る。
ハイセはマグナムを具現化し発砲……クロスファルドは目を見開き、刀の切っ先で銃弾を弾いた。
「これは受けたら大穴が空く……マグナム弾、だったか」
「……詳しいですね」
「ノブナガから、飽きるほど聞いた。あいつは自分のことを《マニア》と呼んでいたぞ」
「マニア、ね……」
すると、ハイセの背後に、数発の《ミサイル》が浮かぶ。
右手にショットガンを持ち、左手にはアサルトライフルを持つ。
そして、それらをクロスファルドに向け、ハイセは言った。
「久しぶりに、俺も本気の『運動』ができそうだ」
◇◇◇◇◇◇
二人の戦いの様子を、ヒジリがウズウズしながら見ていた。
いつの間にか、隣にサタヒコとディシアが立つ。
「な、なにあいつ……」
ディシアは驚愕していた。
ヒジリに負けたが、負けを認めたわけではないし、サタヒコがヒジリに負けたことも認めていないし、再戦するならいつでも受けて立つという気持ちだった。
序列一位ハイセ。見た感じ、殴ればすぐ倒れそうな華奢なガキ……と思っていたが、その『能力』から繰り出される凶悪な攻撃に、ディシアは戦慄する。
サタヒコも同じだった。
「これはこれは……まさか、クロスファルドさんがああも避けるなんて、見たことないですね」
「なになに、あれすごいの?」
ヒジリが言うと、サタヒコは頷く。
「クロスファルドさんの『闘気』は完成されてます。私ら部隊長が全員で同時に全力の攻撃を繰り出しても、クロスファルドさんの闘気なら受けとめられるし、完全に防御できるんです。ですが……あのクロスファルドさんが、攻撃を避け、弾いている……闘気で受けることができないということなんでしょうなあ」
「ふーん」
ハイセの銃は、オリハルコンの塊ですら貫通し砕く威力がある。
そして、エクリプスのクランを崩壊させた『凶悪な火を放つ筒』も浮かんでいる。
ヒジリは、ディシアに言った。
「ディシアだっけ」
「……あ?」
「認めるのシャクだけど……ハイセ、アタシより強いわよ。アンタけっこう見所あるし教えてあげる。もっと外に出て、冒険者の経験積んだ方がいいわよ。初見でハイセの強さ感じれないようじゃ、アンタはクレアにも勝てないわ」
「……クレア?」
「ま、アタシも人のこと言えないけどね」
そう言い、サタヒコを見る。サタヒコに喧嘩を売った昔のことを受け入れていた。
サタヒコは笑う。
「ははは。やはりヒジリさんは強い……私も、もう一度鍛えなおさないとね」
「やるならいつでも相手するわ。ふふん、アタシが勝つけどね」
次の瞬間、クロスファルドがミサイルを両断し、ハイセのショットガンがクロスファルドの左腕に命中……散弾が突き刺さり、血が飛び散った。
◇◇◇◇◇◇
クロスファルドは、血が流れる左腕を見た。
「あいたた……ははは、ワシも老いた。若いころだったら、この程度の痛み」
「人は誰でも老います。クロスファルドさん……まだ、やりますか?」
「……いや、もうやめておこう。ワシもお前も、ここでは本気が出せん」
「さすがに、クランを崩壊させてまでやることじゃないですから。やるなら、破滅のグレイブヤードの中央平原とか、何もない場所がいい。そうすれば、俺もあなたも、もっと全力が出せる」
「ははは……この場でやろうと言ったのは、そうしなければ歯止めが利かなくなりそうだから、というわけだ」
クロスファルドの腕から、ポロポロと散弾が落ちる……ほんの十秒もしないうちに、傷が完全修復されたようだ。
クロスファルドは刀を鞘に納める。
「ワシはどうだった?」
「闘気の密度がサーシャの数十倍、クレアの数百倍はありますね。しかも全力じゃない」
「……うむ。年々、老いてはいるがな」
「それでも、あなたはサーシャとは次元が違う強さだ。正直……俺の全力でも、相打ちに持ち込めるかどうか」
「ふっ……」
クロスファルドは微笑んだ。そして、ハイセに近づき、肩をポンと叩く。
「行け、ハイセ。お前の強さなら、魔界でも問題ないだろう」
「……はい。クロスファルドさん、ありがとうございました」
こうして、ハイセはノブナガのことを知ることができた。
魔界にいる『ヒデヨシ』のこと、そして最後の禁忌六迷宮である『ネクロファンタジア・マウンテン』のこと。
魔界行きは、もう間もなくである。





