ノブナガを知る旅⑯/クロスファルド
ハイセ、サタヒコ、ディシア、ヒジリの四人は訓練場へ。
ヒジリ、ディシアが睨み合い、ハイセは無視、サタヒコは「やれやれ」と苦笑しながらの移動だ。今にもヒジリとディシアが喧嘩しそうだが、ハイセは気にしていない。
そして、訓練場に到着……広い訓練場の中央に、クロスファルドがいた。
手には木剣、そして若い剣士数名に何かを話しているが、ハイセたちに気付くと、若い剣士たちに打ち込み稽古をするように言い、ハイセたちの元へ。
「来たか。久しいな、ハイセ」
「お久しぶりです、クロスファルドさん」
「ああ。アイビスから手紙をもらった……ノブナガのことを知りたいようだな」
すでに、アイビスが連絡していたようだ。
ハイセは頷き、クロスファルドはニコッと微笑む。
「魔界。そして、ノブナガの血縁者と思われるヒデヨシの存在か……興味深い」
「魔界に行く前に、ノブナガのことをもっと知っておこうと思いまして」
「うむ。バルガン、メリーアベルとはもう話したようだな……と、立ち話でする話ではないな」
と、クロスファルドが別室へ案内しようとした時だった。
「待った!! かたっ苦しい話すんの? アタシ、興味ないしー……サタヒコ、アンタにリベンジしたい!!」
「おやおや、これは困りましたなあ」
サタヒコは苦笑、クロスファルドは「ははは」と笑う。
ハイセはむしろ、「こいつうるさいしいないほうがいいかも」と思い、サタヒコにヒジリをお願いできないか聞いてみようとした、が。
「……おいオマエ、マジで殺すよ? あんま『セイファート騎士団』ナメたことばっか言ってんじゃねぇよ」
「あ?」
ディシアがキレた。アイテムボックスから一瞬で大剣を抜いてヒジリの首に突きつけようとしたが、剣が接近した瞬間にヒジリの拳でカチ上げられた。
「ねえサタヒコ、アタシと戦る前に準備運動するから、アンタも適当に身体動かしておいて」
「……殺してやる、クソガキ」
完全に火が付いていた。
サタヒコはクロスファルドを見て「どうしましょ?」みたいな表情をする。
クロスファルドはハイセを見る。ハイセは肩を竦めるだけだったので、サタヒコに言った。
「サタヒコ、ヤクモを呼んでおけ。ヒジリが勝てば相手を、ディシアが勝てばご褒美をやるといい」
「「!!」」
「はいはい。ふふ、治療部隊の隊長さんを呼んでおくとは、クロスファルドさんもわかってらっしゃる」
「勝てばアタシとやってくれんのね?」
「勝てば……ご褒美!! むふふん、サタヒコ様ぁ、一緒にお風呂入ってくれますかぁ?」
こうして、ヒジリとディシアの戦いは始まろうとするのだった……が、ハイセは言う。
「じゃ、こいつらは好きにやらせて……クロスファルドさん、話を」
「ああ、わかった。それと……ノブナガの話が終わったあと、頼みがある」
「……? わかりました」
睨み合うヒジリ、ディシア。
ハイセは二人を一度だけ見て、クロスファルドと歩き出した。
◇◇◇◇◇◇
クロスファルドに案内されたのは、木造の簡素な小屋だった。
靴を脱いで入ると、タタミという床の上に座布団を敷いて座る。
イグサの香りが落ち着き……ハイセは、不思議とリラックスできた。
座り、一分もしないうちに、女性がお茶を運んできた。
「失礼します。お茶をお持ちしました」
「……あれ」
「ふふ、お久しぶり」
入ってきたのは、サタヒコの妻であるアヤメだった。
特に会話なく、お茶を出すと下がってしまう。
クロスファルドは茶を啜り……ハイセに言う。
「ハイセ、どちらが勝つと思う?」
それは、ヒジリとディシアのことだろう。
ハイセは確認することなく、茶を啜ってから答えた。
「ヒジリですね」
「……ほう」
「あのディシアとかいう奴も間違いなく強い。でも、ヒジリのがやや上ってところか」
「……ふむ。理由を聞いてもいいか?」
「簡単です。ヒジリは冒険者だから。あのディシアは、冒険者の資格を持ってても、冒険者としての経験はヒジリに遥かに劣る。恐らく、自己鍛錬や対人戦で腕を磨いた技自慢でしょうね……それじゃ、外の世界で腕を磨き、禁忌六迷宮を生き抜いたヒジリの相手じゃない」
「……ふっ」
クロスファルドは再び茶を啜り、湯呑を置く。
「お前の言う通り、ディシアは冒険者の資格を持ってはいるが、クランの依頼を受けたことはない。ひたすら自己鍛錬、対人戦の経験を積んだ大剣士だ。今クラン内の『大剣士』の中でも一人しかいない『大剣聖』の能力を持つ……間違いなく、セイファート騎士団の中でも上位の強さだ」
「なるほど……」
すると、地面が揺れた。
かなり離れた離れの小屋にいるのだが、戦いの余波が伝わってきた。
「冒険者の戦闘は、訓練じゃ味わえないほど濃密な『経験』の積み重ねです。ディシア……あいつ、一人で外に出たことは?」
「……ないな。八歳でクランに加入して十年、ひたすら対人戦で腕を磨いた。魔獣と戦うためにダンジョンなどにも入ったが……」
「……どうせ、部下に見張りとかさせて、安全なテントでグースカ寝てたとかですね。不意打ち、奇襲の恐ろしさを知らない。夜、ソロの冒険者が一人で過ごす恐怖を知らない。そういう経験がない」
ハイセは残った茶を飲み干す。
すると、アヤメが入り、お茶のおかわりを注ぎつつ言う。
「ヒジリさんが勝ったようです」
「ほう、思ったより早いな」
「ええ。ディシアの攻撃もいつも以上にキレていましたが……ヒジリさんの『柔』で受け流され、キツいのを顔面にもらっておしまい、ですわ」
「……やはり、か」
「……クロスファルドさん。こうなるってわかってたんですか? もしかして……俺がヒジリと来ることを知ってて? サタヒコさんじゃなくてディシアを案内させたのも、ヒジリと会わせることで触発させるためとか……?」
「ははは。さすがにそこまではな……偶然…さ」
ハイセもそれ以上は言わず、お茶を飲んだ。
「……ディシアは、冒険者を軽視している。セイファート騎士団の剣士こそ『七大冒険者』に相応しいと常々言っていた」
「…………」
「ワシが、セイファート騎士団の剣士たちを七大冒険者に推薦しなかったのは……クランの若手剣士では、絶対に手練れのS級冒険者に勝てないからだ。お前の言う『経験』が足りない剣士を、冒険者の代表に据えるわけにはいかんからな」
「……なるほど。でも、これで少しは、ディシアも冒険者を見直しますかね。まあ……俺じゃなくて、ヒジリに任せたのは正解ですね」
「ああ。サーシャがいれば、そちらに任せたかもしれんがな」
クロスファルド。
クランのためを思う人格者で、誰よりも仲間想い。
ノブナガの親友……ハイセは、そう思っていた。
「さて、そろそろノブナガのことを話そうか。何を知りたい?」
ハイセは、クロスファルドの優しい笑みを見ながら、何を聞くべきか考えた。





