ノブナガを知る旅⑮/大剣
ハイセ、ヒジリの二人は、クラン『セイファート騎士団』にやってきた。
まるで神殿のような建物。剣を交差させたマークがあり、クランの前には門兵がいる。
門兵の腰には剣。剣はクラン『セイファート騎士団』を象徴する物であり、刀剣系能力者が目指すクランとして最高の憧れの場。
隣には、クランに依頼を出すための受付用建物もあり、かなりにぎわっていた。
「さすが五大クラン……といったところか」
「相変わらず、ビンビンと強者の気配感じるわね。ま、アタシの敵じゃないけど!!」
ヒジリは「がはは」と笑う。相変わらず豪快なヤツだとハイセは適当に思い、クラン受付ではなく門兵のいるクラン正面入口へ。
当然警戒されると思ったが、門兵は丁寧に一礼した。
「これはこれは。ハイセ様、ヒジリ様」
「……俺のこと知ってるのか?」
「はい。一度来られた方は忘れません。それに、セイファート騎士団は、ハイセ様たちが来たらもてなすように言われています」
「……そこまで歓迎されるとは、意外だった」
「アタシのことも?」
「はい。サタヒコ様曰く『次に会うのが楽しみなお方』だそうで」
「ほほー……ね、サタヒコいる? リベンジしたいんだけど」
「おい、あとにしろ。あー……いきなりで悪いんだが、クロスファルドさんに会えるか?」
「申し訳ございません。クランマスターは現在、新人の訓練中でして……ご用件をお伝えしますか?」
「いや、直接会いたい。アポイントの予約を頼む」
「かしこまりました」
かなり話のわかる門兵……というか、すんなりとした対応だった。
門兵はクラン内に入り、数分で戻ってくる。
「クランマスターからのお言葉をそのままお伝えします。『ハイセ、よければ道場に来てくれ』だそうです」
「道場……」
「クランが所有する、訓練場です。ご案内しますか?」
「……ああ、頼む。おいヒジリ、暴れてモノ壊すようなことするなよ。弁償とかするならお前の財布から出せよ」
「アンタ、アタシのこと何だと思ってんのよ!!」
キーキー騒ぐヒジリを無視し、ハイセとヒジリはクラン内へ。
すると、三メートルはある大剣を担いだ少女が待ち構えていた。
「なんや、コレが序列一位? ガキやないか」
「……門兵さん、コレは?」
ハイセは指差しをしながら門兵に聞く。
門兵は汗をダラダラ流し、「え、ええと」と何を言えばいいのか迷う。
すると、少女はシッシと門兵を追い払う。
「こっからはウチが案内する。アンタは仕事に戻りぃ」
「は、はい!!」
門兵はダッシュで戻る。
残されたのは、ハイセとヒジリ、そして大剣の少女。
ハイセは少女を観察する……かなり巨大な剣だ。
少女の体躯の二倍ほどの大きさ。横幅も一メートル以上あり、柄の長さも一メートルはある。光の加減で虹色に刀身が輝いて見えたので、オリハルコンと何かを配合した金属で作られた大剣のようだ。
そして、少女。
ハイセ、ヒジリと同い年くらいだろうか。クセの付いたロングヘアで、所々に白い毛が混じっている……白髪ではなく、ファッションとして染めているようだ。
ファッションもかなり過激だ。腕や足にベルトのようなモノをいくつも巻き、水着のようなブラで胸を固定しつつ、ベルトで押さえるというハイセの理解できないファッション。スパッツの上にミニスカートを履き、膝まであるブーツを履いてベルトで固定。
「なにこのベルト女」
ヒジリが言う……ハイセは思っていた『ベルト女』という言葉を、ヒジリが代弁してくれた。
ベルト女はニッと笑って言う。
「ウチはセイファート騎士団第二部隊、通称『大剣部隊』の部隊長、ディシア。アンタらの案内しろってクロスファルド様に言われてきたんよ。あーめんどくさ」
「初対面の人間相手にその態度、クロスファルドさんは尊敬してるけど、オマエみたいなヤツに案内させるようじゃ、評価を改めないとな」
「あ? オマエ……クロスファルド様のこと、ナメてんの?」
「ナメてんのはお前だろ。喧嘩売るヒマあるならさっさと案内しろ」
すると、ディシアは一瞬で大剣を構え、振り、ハイセの首に突きつけた。
速い……ハイセは思った。一連の動作が一瞬で、三メートルある大剣を振ったとは思えない動き。
「一つ教えてやる。七大冒険者を決める時、セイファート騎士団に所属する冒険者は選定から除外したんだ。最強とか、時代の代表とか言う七人に選ばれて、木っ端冒険者にチヤホヤされるなんてゴメンだしね……最強とかチョーシ乗ってるみたいだけど、セイファート騎士団の『十三剣士』を相手にしたら、アンタなんて一分持たないよ」
「あっそ」
ハイセは即答した。そもそも、七大冒険者は勝手に選ばれたものだし、執着もない。
そして、ニヤリと笑って言う。
「引きこもりで世界を知らないお前に教えてやる。お前みたいな『チョーシ乗ってる』ヤツが禁忌六迷宮に挑んだら、速攻で死ぬぞ。冒険者ってのは強けりゃいいだけじゃない。それに……お前程度が十三人なら、俺一人でも相手できる」
「……ぁ?」
ディシアの額に青筋が入り、柄を握る手に力が入る……が、ハイセの前にヒジリが立った。
ああ、やはり我慢の限界だった……とハイセは思う。
「アタシを無視して話進めないでよ。なになに、コイツ喧嘩売ってんの? やっていいの?」
「笑顔で俺に言うな。はあ……こうなるか」
すると、いつの間にか周囲が騒ぎになっていた。
そして、奥から苦笑を貼りつけ、一人の青年が歩いて来る。
「ディシア。あれほど、揉め事を起こさないように言ったじゃありませんか」
「サタヒコ様っ!!」
と、ディシアの青筋が消え、笑顔になった。
大剣をアイテムボックスに入れると、素早くサタヒコの元へ。
「ごめんなさい……わたし、迷惑かけるつもりなんてなくて」
「わかりました。では、しっかり案内できますね?」
「はい♪ あの~……ご褒美、お願いしてもいいですか?」
「はいはい。よしよし」
サタヒコはディシアの頭を撫でると、ディシアは猫のように顔を綻ばせて喜ぶ……どう見ても、懐いた家ネコのようだった。
ポカンとしていると、サタヒコが言う。
「お久しぶりです、ハイセくん、ヒジリさん」
「あ、ああ……どうも」
「うにゃ~」
「そいつ、猫かなんか?」
すっかり毒気を抜かれたヒジリが、気持ち悪いモノを見るようにディシアを指差す。
サタヒコは言う。
「いえ。まあ……私の妹みたいなもんですねえ。このとおり、懐かれてまして」
「アンタ、既婚者じゃなかったっけ?」
「あ? おいオマエ、既婚とかカンケーねえし。好きなモンは好きなんだ。ブチ殺すぞ」
「ああん? なになに、喧嘩する? アタシはいいけど?」
再び睨み合うヒジリ、ディシア。
サタヒコは、ディシアを撫でながら顎も撫でてやる。
ハイセはヒジリの首根っこを引っ張った。
「おい、やめろっての」
「ぐぇっ!? ちょ、引っ張んないでよ!!」
「ふぁぁ、サタヒコ様ぁ、もっと撫でてえ」
「はいはい。喧嘩はダメ、ダメですよ」
話進まねえ……と思いつつ、ハイセたちはようやく、訓練場に向かうのだった。





