ノブナガを知る旅⑭/セイファート騎士団
聖十字アドラメルク神国に到着した。
正門前でハイセたちは馬車から降り、支援者二人と握手をする。
「世話になった。メリーアベルさんによろしく伝えてくれ」
「はい。こちらこそ、楽しい時間でした。先の道中、お気を付けて」
「ああ、あんたらも……まあ、必要ないか」
兄妹の支援者は一礼し、そのまま引き返して行った。
去り行く馬車を見ながらヒジリは言う。
「あーあ、快適だったのに。待ってもらってハイベルグ王国まで送ってくれたらなー」
「我儘言うな。そんなに快適な旅がしたいなら、支援者雇って帰ればいいだろ」
「まあそれもありかな。ふふん、帰りはそうしよっかなー」
ヒジリはウキウキしていた。
ハイセはどうでもいいのか、聖十字アドラメルク神国の象徴である『大十字架』を見上げ、ポカンとしているクレア、リネットに言う。
「まず、宿を確保する。その後は自由にしていいぞ」
「「…………」」
「おい。聞いてるか?」
「あ、す、すみません師匠……あれ、すごいです」
リネットは大十字架を指差していた。
クレアもボーゼンと眺めており、ラプラスは両手を合わせ、さらに膝を付いて祈っている。
「……近くで見学もできる。プレセア、こいつらの案内してやってくれ」
「いいけど。今夜お酒に付き合ってくれる? そのくらいの報酬はもらうわよ」
「……まあ、いいか」
「じゃあじゃあ!! アタシはハイセと一緒に行くわ!! サタヒコにリベンジしたいし!!」
「お前な、今日は申請だけだ。会えるまで何日か必要になるかもしれないぞ」
「えー? じゃあ、権力使おう!! アタシとアンタ、S級冒険者序列一位と三位が来たって言えばいいじゃん!!」
「……名乗りはする。でも、それで順番をどうこうするつもりはない」
ハイセは歩き出すと、プレセアが並び、ヒジリがブーブー言いながら後に続く。
「姉弟子、姉弟子、行かないと!!」
「え!? あ……み、見惚れてました。師匠、あの十字架すっごい……って、師匠は?」
「もう行っちゃいました!! ラプラスさんも早く!!」
「お待ちを、祈りを捧げている最中ですので……」
ハイセたちは『聖十字アドラメルク神国』へ到着。
ノブナガの仲間最後の一人、クロスファルドへ会いに行くのだった。
◇◇◇◇◇◇
宿を確保すると、ハイセは出て行った。
ヒジリも一緒に出て行き、残されたのはプレセア、クレア、リネット、ラプラスの四人。
宿の外に出て、プレセアは言う。
「聖十字アドラメルク神国の象徴、『大十字架』の近くまで行けるわ。私が案内する」
「わあ、プレセアさん、詳しいんですか?」
「まあ、そこそこね」
プレセアが歩き出すと、他の三人も付いて来る。
リネットは周囲をキョロキョロ眺めながら言う。
「ここ、まっしろな建物が多いです」
「神が降臨した国、なんて言われているからね。神様は白を好むそうよ」
「へえ、白……」
建物は白く、石畳も白い。街灯も白く塗られており、不思議な街並みだった。
登り道が意外と多く、リネットは汗をぬぐう。
「けっこう、きつい坂です」
「そうですか? 私は普通ですけど」
「姉弟子は鍛えてますから……ほら、ラプラスさんも」
「ぜえ、ぜえ、ぜえ……か、神よ」
ラプラスは、上り坂で苦戦していた。
プレセア、クレアは冒険者なので、この程度の坂道で苦戦することはない。
クレアは、ラプラスの背後に移動し、その背中を押す。
「はいはい、ガンバです!!」
「おおう、これは楽ちん」
一気に速度が上がり、四人は『大十字架』が見える広場に到着する。
聖十字アドラメルク神国のシンボルである大十字架。その奥は平原となっている。
クレアは、平原を眺めつつ言う。
「平原の手前は……墓地、ですか?」
「ええ。その奥が『破滅のグレイブヤード』……人間界屈指の危険地帯ね。一年少し前、私とハイセとヒジリ、『セイクリッド』の五人でここを攻略したわ」
「いいなあ。私もその時から一緒に行きたかったです」
「あの、プレセアさん……あの十字架って、大きいだけなんですか?」
「違うわ。あれはいろいろな『能力』の力で作られた、町を守るバリアみたいなものね。あの十字架の向こう側から見ればわかるけど……町の姿を隠す効果があり、さらに魔獣除けの効果もあるの」
「へえ~、すごいですね」
しばし、三人で十字架を眺めていると、いつの間にかいなくなっていたラプラスが戻ってきた。
「ふふふ、いいお土産がたくさん買えました。見てください、この大十字架を模したミニ十字架を……これは私の新たな装備として、胸に下げておきましょう」
ラプラスの胸には『ミニ十字架』が下がっていた。それを手に取り、静かに祈り始める。
周りを見ると、広場には様々な露店があり、リネットのお腹が鳴る。
「あぅ……」
「ふふ。お昼にしましょうか」
「私、甘いの食べたいです!! ラプラスさんは?」
「神は言いました……『糖分大好き』と」
四人は露店巡りをし、お腹を満たす。
食べ歩きをしながら、リネットは言う。
「本当に、楽しいことばかりです。わたし……こんな幸せでいいのかな」
「いいに決まってるわ。リネット、人生は一度きり、楽しまないと損よ」
「そうですそうです!! 私だって、師匠や皆さんのおかげで楽しいです!! こんな楽しい旅行にまで行けて、嬉しいですっ!!」
正確には旅行ではないが、ハイセ以外は遊びまくってる。
リネットも、楽しい時間だと思っていた。
「……わたし、師匠に感謝しなきゃ。本当に、師匠のおかげ」
「なら、帰ってきたら食事にでも誘いましょうか。ふふ、食事の後は、私とお酒を飲む時間だけどね」
「あー!! いいなあ、プレセアさん、私も」
「ダメ」
四人は楽しそうに会話しながら、聖十字アドラメルク神国を満喫していた。





