S級冒険者の招集
サーシャがハイベルク王城前に到着すると、ハイセも同じタイミングで到着した。
互いに顔を見合わせ、ハイセは何も言わず王城の正門へ。
サーシャも、無言で隣に並んだが何も言われなかった。
「S級冒険者の招集で来た」
「かしこまりました。S級冒険者『闇の化身』ハイセ様、同じく『銀の戦乙女』サーシャ様ですね。ご案内します」
門兵に案内され城の中へ。
そのまま、王城内にある大会議室に到着し、室内へ。
城の中で、最も広い会議場内には、十五人ほどいた。
その中には、ハイベルク王国の王子であるクレス、ミュアネもいる。礼服やドレスではなく、冒険者の装いで椅子に座っていた。
ハイセとサーシャは、クレス達に一礼する。
「遅れて申し訳ございません。S級冒険者ハイセ、到着しました」
「同じくS級冒険者サーシャ、到着しました」
「ああ、構わない。オレが誰よりも早く来ただけさ。みんなと違って、オレはここに住んでるからね」
クレスがニコッと笑う。
ミュアネはサーシャを見て喜んでいたが、ハイセを見て舌をべーっと出した。
さっそく二人は並んで座る。ハイセの前にはガイストが座っており、ハイセとサーシャを見てほんの少しだけ微笑み、頷いてくれた。
すると、見計らっていたようなタイミングでドアが開き、国王バルバロスと宰相ボネットが入って来た。
全員立ち上がり、一礼する。
バルバロスが軽く手を上げて座ると、全員が着席した。
「前置きはナシだ。本題に入る」
重々しく、バルバロスが威圧する。
かつてのS級冒険者、『覇王』バルバロスと呼ばれた冒険者の圧力は、引退してなお健在。
この場にいるのは宰相ボネットを含め、全員がS級冒険者。修羅場をくぐった者たちではあるが、バルバロスの圧に全員が押される。
「王都からほど近いところに発見されたA級ダンジョンに、スタンピードの兆候がある」
「なっ……マジかい?」
思わず声に出てしまい、ボネットにジロっと睨まれたのは、S級冒険者『戦うお母さん』ママチャだ。年齢三十八歳。三人の息子を育てる現役のママであり冒険者だ。
国王の喋りを止めるという無礼に、思わず口を押さえる。
「ガイスト」
「はっ。この情報は、冒険者ギルドが調査して判明した事実だ。つい最近発見された新規ダンジョンで、現れる魔獣の討伐レートを計算し、A級ダンジョンと認定。その後、六十階層までハイセに調査を依頼し、その後一般開放……ここまでは普通のダンジョンの調査と変わりないが、その後だ」
ガイストは、ハイセを見ながら言う。
「六十階層に現れるボス、『タイラントボマー』が、十階層に現れた。それだけじゃない。四十~五十階層に現れるはずの魔獣が、底辺階層に出現……もともと底辺階層にいた魔獣が、ダンジョンから押し出されるように外へ出始めた」
「……スタンピードの兆候、まんまじゃねぇか」
S級冒険者にして、王都で五指に入るクラン『バーバリアン』のクランマスター、ジョナサンが舌打ちする。ガイストは頷いた。
「そうだ。ダンジョンの最深部……そこで、ダンジョンボスによる繁殖が行われている可能性が高い」
ダンジョンボスの繁殖。
ダンジョンボスにも寿命がある。
ダンジョンボスは、ダンジョンの『命』そのもので、ダンジョンボスを倒すとダンジョンは死ぬ。ダンジョンボスは、死ぬ前に後継作るため、自らの命を持って魔獣を生み出すのだ。
後継を生む過程で生まれるのが、ダンジョンボスの排泄物……つまり、魔獣。
その排泄物が生まれる数は、ダンジョンボスの強さによって変化する。
だが……かつて、C級ダンジョンでスタンピードが発生した時に生まれた魔獣の数は、二万。
今回はA級ダンジョン……はっきり言って、どうなるか予想できない。
「スタンピードを止める方法は一つしかない」
バルバロスが重々しく言う。
ガイストが頷き、この場にいる全員に言った。
「スタンピード時に発生する魔獣を全滅させる……これしかないのが現状だ」
「チッ……」
「やっぱりねぇ」
ジョナサン、ママチャが苦々しい顔をする。
この二人は、かつてのC級ダンジョンスタンピードを経験している。
「あ、あの!!」
サーシャが挙手。
ガイストが視線を向けた。
「どうした?」
「A級ダンジョンに入り、最下層のダンジョンボスを倒すのは? それと合わせ、後継を一緒に……」
「無謀だねぇ、お嬢ちゃんよぉ」
「……何?」
S級冒険者の一人、王都で五指に入るクラン『ジャッジメント』のクランマスター、ケイオスだ。
サーシャの身体を舐め回すように見て言う。
「周りからチヤホヤされて有頂天なんだろうけどよ、S級なりたてのお嬢ちゃんはスタンピードの恐ろしさをわかっていねぇ。スタンピード兆候のあるダンジョンなんか踏み込んでみろよ? 五階層に辿り着く前に仲間とお前は挽肉になり魔獣の餌だ。知らねぇのか? スタンピードダンジョンに現れる魔獣の討伐レートは、平均で二段階上がるんだよ」
「……え」
「お嬢ちゃんは黙ってな。戦いは任せて、疲れたオレらを慰める役目でもしてくれや。けけけ、いいモン持ってそうだしな」
と、サーシャの胸を見て下品に笑う。
サーシャはカァッと赤くなり、俯いてしまう……すると。
「くっだらないな」
「……あぁ?」
「逃げ腰野郎。ビビってるなら、いちばん後ろでふんぞり返ってろ。サーシャは攻めの解決策を出したにすぎないだろうが。最初から否定するような臆病者に、サーシャを侮辱する資格なんてない」
「何ぃ!?」
「スタンピードを止める方法、探せばあるかもしれないだろうが。そういう考えも出せないなら黙ってろ、このチキン野郎」
「……このガキ」
ケイオスが立ち上がる。
ハイセはジロっと睨むだけだった。
「やめろ。王の御前だぞ!!」
宰相ボネットが叫んだ。
王に匹敵する圧力に、ハイセもケイオスも黙り込む。
「サーシャの言いたいことはわかる……が、ケイオスの言うことも間違っていない。我々にできるのは、出現した魔獣を狩ることだけ……ガイストよ、周辺国の冒険者ギルドに応援を要請してくれ。ボネット、こちらは兵の準備を」
「かしこまりました」
「冒険者たち。クランを総動員し、魔獣の迎撃準備をするように。資金は全て国が持つ」
その言葉に、クランマスターたちは驚いた。
スタンピードは、それほどの脅威だと改めて認識もする。
「未曽有の危機だ。我々が一丸とならなければ、この国は終わる……頼むぞ、冒険者たち」
こうして会議は終わり、クランマスターたちは早々と退室した。
◇◇◇◇◇◇
最後に部屋を出たハイセは、のんびりと王城を出た。
すると、正門前でサーシャが待っていた。
「あ、ハイセ……」
「…………」
「その、礼を言いたくてな」
「ああ」
それだけ言い、ハイセはサーシャを素通り。
サーシャは、ハイセの隣に立ち、並んで歩き出した。
「会議場ではああ言われたが……私は、スタンピードを止める方法はあると思う」
「ダンジョンの最下層か?」
「……ああ」
「死ぬぞ」
「…………」
「気持ちはわかる。でも、やめておけ。俺たちに許されたのは、決壊したダンジョンからあふれ出る魔獣を殺すことだけだ」
「……ハイセ」
「お前が死んだら、みんな悲しむぞ。お前は、若い冒険者たちの憧れなんだからな」
「…………」
「サーシャ」
「……え?」
久しぶりに名前を呼ばれ、サーシャは思わず顔を上げた。
「早くクランに戻って、仲間たちに報告しろ。お前のいう最高のチームで、戦う準備をするんだ」
「……お前はどうするんだ」
「俺はいつもどおりさ、一人でいい。一人が楽だ……お前が、教えてくれたことだぞ」
「……っ」
そう言い、ハイセは城下町に消えた。