ノブナガを知る旅⑪/十一人の冒険者
「───……というわけで、十一人のメンバーは揃ったな」
クラン『セイクリッド』の会議室にて、タイクーンは眼鏡をクイッと上げる。最近新調したのか、眼鏡のデザインが少し変わっていた。
だが、誰も気付いていないのかそのことには触れない。
レイノルドは、なぜか縮こまっているエアリアを見る。
「オレ、サーシャ、タイクーンにピアソラ、ロビンで五人。ハイセにエクリプス、プレセア、ヒジリ、クレアちゃんで五人。んでそこの序列七位、エアロ・スミスちゃん……なあ、なんで怯えてんだ?」
「お、怯えてないし!! うー……ちょっとサーシャとエクリプスのこと『スイカ四つ』って言っただけなのに、めちゃくちゃキレられたのだ」
「す、スイカ? ああ……」
レイノルドは察したが、口には出さない。
どうやら、サーシャとエクリプスにお説教されたのか、二人が怖いようだ。
だが、こうして会議に出る以上は、魔界行きに賛同したということ。
エアリアは、平べったい胸を張る。
「フン。魔界だろーと、あたいに飛べない空はない!!」
「ふ……上空から地上を見下ろすだけで、かなりの情報が得られる。序列七位エアロ・スミスの加入で、ボクたち十一人の冒険者も安定したチームになるだろう」
「ふふん。そこのおしゃれメガネ、わかってるじゃん!!」
エアリアは、タイクーンにビシッと指を差してニカっと笑う。
おしゃれ眼鏡に気分をよくしたのか、タイクーンは「ふっ」とほほ笑んだ。
タイクーンは咳払いし、会議場にあるホワイドボードの前へ。
「では、現時点での情報を整理……魔界についておさらいしておこう」
「ねーねーピアソラ、タイクーン楽しそうだね」
「まあ、こういう男ですからね」
ロビンとピアソラがヒソヒソ話していたが、タイクーンは聞いていないフリをした。
◇◇◇◇◇◇
魔界。
人間界から遥か遠く、海を隔てた先にある大陸。
主に生活しているのは魔族。人間とは違う『スキル』を持ち、スキルの規模は人間の『能力』を遥かに上回る。
主要国は三つ。
工業国メガラニカ、農業国パシフィス、産業国レムリア。
魔界三大国家と呼ばれ、それぞれの国を『魔王』が統治している。
そして、それら三つの国、三つの魔王を束ねる魔界の最高権力者、大魔王。
その名は『カミシロ・レオンハルト・ヒデヨシ』。
そこまで話し、タイクーンは言う。
「我々冒険者の歴史は長い。だが、一つだけ変わらず、忘れられる事のない存在がある……それは、伝説の冒険者チーム『ヒノマルヤマト』だ。人間、エルフ、ドワーフ、サキュバス、竜人で構成された、それぞれの種族で最強の五人のチーム。そして、今はそれぞれがクランを率いている。五大クランと言われているが……こんな言い方はしたくないが、我々『セイクリッド』とは歴史の重みも経験も桁違い。四大クラン、プラスワンとの言い方のが正しい気もする」
タイクーンは苦笑する。だが、誰も笑わない。
クラン『セイクリッド』の面々は、五大クランと言われてはいるが、同格など思ったことがない。
「そして、『ヒノマルヤマト』を率いた人間……『カミシロ・レオンハルト・ノブナガ』だったか。不思議なことに、彼に関する記述が全くない。一つだけわかっているのは、ハイセと同じ『能力』を持ち、仲間の中でも最強だったということか」
「そうだ。そして今、ハイセはノブナガのことを知るために、四大クランを回っている」
サーシャが付け足すと、タイクーンは頷いた。
「カミシロ・レオンハルトという苗字……魔界という地にいる『大魔王』と同じ名だ。ノブナガのことを知ることで、ヒデヨシのことを理解する材料にはなるかもしれないな」
「はは。ユグドラで大自然の恵みを、ディザーラでオアシスの恵み、『夢と希望と愛の楽園』で快楽を満喫し、聖十字アドラメルク神国で歴史文学探求……行く先々で遊びまくれるな。しかもあいつ、女の子いっぱい連れてったんだろ? いいねえ」
と、レイノルドが茶化した瞬間、サーシャがニコニコしながら言う。
「レイノルド。ハイセはそんな不埒な男ではないぞ?」
「お、おう……すみませんでした」
「ふふ、あなたって面白いのね。正妻を前にそんなことを言うなんて……凍ってみる?」
「す、すみませんでした」
レイノルドはサーシャとエクリプスに頭を下げた……かなり怖いと感じていた。
「正妻って、エクリプスはハイセとケッコンするんだっけ」
「おー、ケッコンか!! おい、ケッコン式するなら呼べよ、あたい、美味いもんいっぱい食べるぞ!!」
ロビンが言い、エアリアはウキウキしながらエクリプスへ。
エクリプスは機嫌をよくしたのか「もちろん」と笑顔で答えた。
結婚……そう聞き、サーシャは少しだけ考え込む。だが、タイクーンが話を変えた。
「そんなことはどうでもいい。次に、現在の準備について確認だ。それぞれ個人の準備はもちろんだが、共有のアイテムボックス……ああ、時間停止型だな。これをいくつか用意したい。食材を数年分、全てに置いて不測の事態を想定した物資の選定をボクがした。リストを見て確認し、足りない物があれば……」
会議は二時間ほど続き、エアリアが「メシ食いたい」と言うので休憩となった。
◇◇◇◇◇◇
クラン『セイクリッド』内にある食堂で、サーシャはエクリプスと食事をしていた。
互いに物凄い美少女なので、周囲の目を引く。だが、二人とも気にしていない。
エクリプスは、紅茶を飲みながら聞いてみた。
「サーシャ。私はもう自分の人生をどう歩むか決めたわ。S級冒険者として、一人の女として歩む道……あなたは決めた?」
「な、なんだいきなり」
「別に……ただの独り言、かな」
「私に聞く時点で、独り言ではないだろう……」
サーシャは、大盛ステーキを食べ終え、口元を拭う。
ちなみにエクリプスも同じ大盛ステーキだった。
「ここ、いいお肉を使っているわね。うちの『銀の明星』よりもいい味……料理人の腕もいいわ」
「ふ、肉にはこだわっている。クランの食堂は一般開放もしているし、外から食事だけの客も多い」
「それ、お肉もだけど、あなたに会えるかもって希望もあるんじゃない?」
「私? 私に会いたいのなら、普通に言えばいい。最近は所属チームも減り、自由な時間も増えたしな。前みたいに、書類仕事でてんやわんやということはない。訓練にも多く時間が割ける……しっかり鍛えないと、抜かれてしまうからな」
誰に抜かれるか、それはもちろん三人目のソードマスターのことだ。
それに、サーシャにも追いつきたい人がいる。
「エクリプス。時間があるなら、頼みがある」
「何?」
「……S級冒険者序列二位『聖典魔卿』としてのお前に頼みだ」
スッとサーシャの気配が変わる。だが、エクリプスは変わらない。
「……一度、全力で挑んでみたい。エクリプス……お前の強さを、まだ知らない」
それは、挑戦状だった。
エクリプスは序列二位。明晰な頭脳、全ての魔法を使いこなす事はもう知っているが、戦いでの強さは知らない。
間違いなく、強いはずなのだ。もしかしたらヒジリ、そして自分よりも。
一人での訓練ではできないことを、エクリプスとならできるかもしれない。
エクリプスはカップを置いた。
「……いいわ。ふふ、私自身で戦うなんて何年ぶりかしら」
「……よし。では、見届け人はガイストさんにお願いするか。明日、冒険者ギルドへ行こう」
「ええ、いいわ」
互いに見つめ合う二人。
S級冒険者序列二位『聖典魔卿』と序列四位『銀の戦乙女』の決闘が、始まろうとしていた。
「んー? あはは!! サーシャにエクリプス、でっかい肉食ったのか!! オマエらそんなのばかり食ってるから、チチがでっかくなるんだなー!!」
だが、突如として現れたエアリアによって、その空気はブチ壊されるのだった。
決闘の前にやることができた……と、二人はエアリアに向かって微笑むのだった。





