ノブナガを知る旅⑥/プール遊び
シャンテから解放されたハイセとプレセアは、やや急ぎ足で宿に戻る。
宿に戻り、受付でクレアたちのことを聞くと、どうやら宿に併設されているプールで遊んでいるらしい。
ハイセはため息を吐きつつ、プールのある地下へ。
「ったく……遊びに来たわけじゃないんだがな」
「いいじゃない。みんな、大好きなあなたと旅に出れてはしゃいでるのよ」
「……大好き、ねえ」
「ふふ、人気者は辛いわね」
ハイセはめんどくさそうにため息を吐き、地下のプールへ。
「リネット、ぱーっす!!」
「わわわっ、あ、姉弟子っ!!」
「とりゃああ!! ラプラスさん!!」
「神は言いました……『どりゃあ!!』と」
何やら、プールでボール遊びをしているようだ。
水着姿のヒジリ、リネット、クレア、ラプラス。本当に、遊びに来ただけのような雰囲気に、ハイセは何とも言えない表情をする。
すると、ヒジリがハイセたちに気付いた。
「お? ハイセじゃん!! おーい、戻って来たんなら遊びましょ!!」
「あ、師匠―!!」
「し、師匠―」
「ほう。ダークストーカー様ですか……ふむ、水着姿を見られるのは少々恥ずかしいですね」
女性陣が、ハイセたちに手を振っている。
すると、ハイセの隣にいたプレセアが、来ていた服をバサッと脱いだ。
「さて、私も泳ごうかしら」
「……お前、水着」
「着ていたのよ。どう? 似合うかしら」
プレセアは、黄緑、深緑色のタンクトップビキニ姿だ。ハイセに見せつけるようにしていたが、いざ視線を受けると恥ずかしいのか胸を手で隠してしまう。
「……あまり見ないでくれるかしら」
「だったら俺の前で脱ぐな。ったく……今日はもう自由にしていい。あいつらにそう伝えておけ」
「あなた、遊ばないの?」
「俺の目的は知ってるだろ。遊んでる暇なんてない」
そう言い、ハイセは踵を返し、宿へ戻ろうとした……が。
「師匠!! 遊びましょうよー」
「あ、遊びたいです……」
「…………」
クレア、リネットがハイセの腕を掴んだ……クレアがニヤッと笑っていることから、どうやらクレアの指示でリネットもハイセの腕を取ったらしい。
ハイセは面倒になり、少し力を入れて腕を振りほどく。
「遊ぶなら好きに遊んでろ。腕を掴むな」
「わっ」
「きゃっ」
と、ハイセの腕がクレアとリネットの水着に引っかかり、ブラトップがズルっと取れてしまう。いきなりのことで驚く二人だが、リネットは恥ずかしそうに胸を押さえ、クレアは「わわわ」と少し慌てて直すだけ。
ハイセは、ややバツが悪そうに言う。
「……悪い」
「いえいえ。師匠には何度も見られてますし、師匠なら問題ないです!! その……み、見たいならいいですよ?」
「アホかお前」
「わ、私もべつに……ううう」
「リネット。お前は拒否することを覚えろ。ったく……」
やはり、この旅はいろいろと苦労する……と、ハイセは頭を抱えるのだった。
「ダークストーカー様は苦労人の素質あり……ふむ、神はこう言っています。『無自覚なハーレム野郎』と」
「…………」
反論する気力もなく、ハイセは部屋に戻るのだった。
◇◇◇◇◇
翌日。
遊びすぎたクレアとリネットは爆睡、プレセアは二人に付き添い、ヒジリとラプラスの三人で『鍛冶工房区』へやって来た。
ヒジリはひっきりなしに聞こえてくる槌の音に顔をしかめる。
「鍛冶場しかないの? 槌の音うるさっ」
「この区画全部が五大クランの一つ『巌窟王』だ。見ての通り、鍛冶を生業としている」
持ち込まれる依頼の九割が鍛冶、鍛造、精製に関する依頼だ。
至高の鍛冶職人が集まる場所であり、鍛冶職人を目指す者が加入を希望するところでもある。現に、鍛冶屋で頭を下げる少年と、それを厳しい目で見るドワーフが目に入った。
「お願いします!! おれ……鍛冶屋になりたいんです!!」
「ほう……理由は?」
「幼馴染が『騎士』の能力を授かって……でもおれは何の能力もなかった。でも、鍛冶なら、努力さえすれば至高の領域まで届くって聞いて……だったら、隣で戦えないぶん、俺が装備を作って支えたいって思って」
「……ついてこい」
少年とドワーフは鍛冶工房に消えた。
ラプラスは、その後ろ姿をジッと見て言う。
「感動の光景でした。神も『寝取られには気を付けな』と仰っています……どうか、見習い鍛冶少年に祝福を」
「お前は何言ってんだ」
「あう」
ハイセは、ラプラスのおでこを指で軽く突いた。
ヒジリは欠伸をしながら言う。
「鍛冶か……そういや、アタシの能力で鉱石作れるけど、こういうのって嬉しい?」
と、ヒジリは地面に手を突っ込むと、能力を発動させる。
『メタルマスター』の力で、砂や土を鉱石に変換。地面から手を引き抜くと、金銀銅に輝く鉱石が手に合った。
「混合鉱石。硬そうな鉱石を組み合わせて作った、アタシのオリジナルよ。どう、どう?」
「俺が知るか。適当な鍛冶場に持ち込んだらどうだ?」
「それも面白そうね。まあ、アタシは自前のあるから装備とかいらないけど」
「…………」
「ん、なに?」
「お前、攻撃力はあるけど防御が不安と思ってな。鎧でも着たらどうだ?」
胸にサラシを巻き、その上にジャケットを着ている。短パンにブーツと、露出は多い。
身を守る物があまりない。ヒジリは胸を張ると、大きな胸がぶるんと揺れた。
「別に、防御はおろそかにしてないし。おばあちゃんに言われて、ウィングー流『剛拳』だけじゃなく『柔拳』も併用するようになったから、防御に不安はないのよ。ふふん」
「……何笑ってんだ?」
「だって、ハイセがアタシのことで意見くれるなんて思わなかったから。へへ……やっぱりアタシ、ハイセのこと大好きかも!!」
「おお、愛の告白。神は叫んでいます。『今夜は一緒に寝な。耳は塞いでやる』と」
「アホ」
「ふあっ」
ハイセは、やや強めにラプラスのおでこを弾き、腕を取り胸を押し付けグリグリ頭を擦り付けてくるヒジリをなんとか引き剥がそうとするのだった。
◇◇◇◇◇
『バルガン工房』と書かれている、やや古ぼけた看板。
家は鍛冶場なのだろう、鉄を打つ音がひっきりなしに聞こえてくる。
鍛冶工房区の最奥にあるバルガン工房の前に、ハイセたちはいた。
「ボロっちいわね……ハイセ、ここなの?」
「ああ」
見てくれは非常にボロい。
だが、クラン『巌窟王』で最高の腕前を持つ鍛冶師であり、S級冒険者『巌窟王』バルガンの工房で間違いない。
シャンテの話では、別にクランを作る気はなく、まだディザーラ王国ができる前から砂漠のど真ん中に鍛冶場を作り、延々と鍛冶をしていたところ、ドワーフたちが集まってクランとなり、やがて町となり、その中の一人が国を作り、バルガンたちを王族に迎え入れようとしたが無視され、仕方なく町でありクランでもある場所を『鍛冶工房区』としたのだとか。
ディザーラ王国ができても、バルガンは変わることなく鍛冶をしている。
ハイセは、ドアをノックする……が、返事はない。
「バルガンさん!! お久しぶりです、俺です、ハイセです!!」
ドアをガンガン叩くと、鉄を打つ音が止まった。
そして、ゆっくりドアが開き、二メートルを超える巨人……ドワーフのバルガンが現れた。
「…………ハイセか」
「ど、どうも」
見下ろされていた。
ドワーフは本来、低身長なのだが、バルガンは突然変異で巨体となった。
バルガンは何も言わず、ドアを開けたまま工房の中へ。
「だ、ダークストーカー様……こ、これはどういう」
「入れってことだろ。ってかお前、なんで俺の背中に隠れてる」
「その、驚いて」
ラプラスは、ハイセの背に隠れ、コートをギュッと掴んでいた……どうやら、バルガンの風貌に驚いたようだ。
ヒジリは特に気にせず、欠伸をする。
「ふあ~……ね、さっさと聞くこと聞いて、アタシと遊びに行こっ」
「お前な……ったく」
ハイセ、ヒジリ、ラプラスの三人は『バルガン工房』に入るのだった。





