ノブナガを知る旅⑤/ディザーラ王国へ
ハイセたちはユグドラ王国を後にして、そのまま南下して『ディザーラ王国』に向かった。砂漠を経由して行くのだが、砂漠用の乗り物である『ラキューダ』馬車を買い、専用の荷車に乗って砂漠を進む。
クレア、リネットは、砂漠を眺めて感嘆する。
「わあ~、砂漠ですね!! 師匠、暑いです!!」
「たしかにあついです……うう」
クレア、リネットは汗をダラダラ流していた。胸元を大きく開け、パタパタを空気を入れるが、あまり効果がないようだ。
それに対して、ハイセは汗もかかず、馬車の窓から外を見ていた。
「砂漠だから暑いのは当然だ。我慢しろ」
「うう~……やっぱりそう言うと思いましたあ」
「うう、お水……」
リネットは水のボトルを空け、ゴクゴク飲む。
ハイセは、暑いのなんのそのでグースカ寝ているヒジリ、なぜか少しひんやりしているプレセアをチラっと見て、御者席へ通じる窓を開ける。
「おい、暑かったら言えよ」
「神は言いました。『問題なし』と……実は私、暑いのと寒いのは大得意なのです」
「そりゃ初耳だ。まあ、いいならそのまま御者頼む」
「はい。臨時収入、期待しています」
御者はラプラス。意外にもラキューダの扱いが上手い。
順調に行けば、数日でディザーラ王国まで行ける。
「うう……」
「おっと」
すると、暑いのか隣に座っていたリネットが、ハイセにもたれかかってきた。
ハイセはリネットの額に手を当て、アイテムボックスから凍らせた手ぬぐいを出し首にそっと当て、リネットの手に塩を少し載せ、常温の水を出した。
「塩、なめておけ。それと常温の水だ……冷たい水ばかりだと体力を消費するし、腹も壊す。俺にもたれかかっていいから、何かあるなら言え」
「あ、ありがとうございます……」
リネットは塩をペロッと舐め、水を少しずつ飲む。
ハイセが首筋に当てている凍った手ぬぐいが気持ちいいのか、猫のようにハイセに甘え、顔をほころばせた。
「む、いいですね。師匠、私も冷たいのくださいー」
「お前は元気そのものだ。それに、自分のアイテムボックスから出せ」
「でもでも、凍った手ぬぐいなんてありませんよー」
「ったく、何が起きるかわからないんだ。こういう事態も想定しておけ」
ハイセは、アイテムボックスから凍った手ぬぐいを出し、クレアに放る。
涼し気なプレセアがその様子を見て言った。
「あなたのアイテムボックス、本当に何でもあるのね」
「不測の事態を想定しているだけだ……お前、涼しそうだけど」
「氷の精霊」
「ああ、そういうことか」
よく見ると、ヒジリの周囲も涼しくなっていた。
「冷やすの、別料金でやるけど?」
「リネットの周囲を頼む。ほれ」
ハイセは金貨を数枚、プレセアに渡す……するとプレセアは指を鳴らした。
「あれ?」
「どう、涼しい?」
「は、はい。熱気がなくなって、すごく涼しいです!!」
「いいなー!! 師匠、私も涼しくなりたいです!!」
「自分で金出して払え」
「えええ~? 妹弟子にはお金出したのにぃ。可愛い姉弟子にはお金出さないんですかあ?」
「ギャーギャー泣きわめくみっともない姉弟子にはな。妹弟子の手本として相応しい姿を見せてやってくれ」
「うう、その言い方ずるいですー」
「んん~……ちょっと、うるさいわよ……静かにして」
ヒジリが起き、結局クレアは、お金を払うことなく耐えるのだった。
◇◇◇◇◇
数日後。
砂漠を越え、ディザーラ王国が見えて来た。
砂地の先、陽炎が見える先にある大都市……鍛冶、そしてドワーフの国。
かなり距離があるはずなのに、カンカンと鉄を打つ音がした。
「わあ……!!」
リネットが、窓から身を乗り出すようにディザーラ王国を見ている。
ヒジリは欠伸をし、プレセアは首だけ傾け外を見て、クレアは窓を見たいが姉弟子としての威厳を保つためにウズウズし、ハイセは目を閉じている。
御者席の窓が開き、ラプラスが言う。
「間もなく到着です。皆さん、お疲れ様でした……と、神が言っています」
「それくらい、お前の言葉で言え。まずは、西門に行け。そこは冒険者専用の入口がある。俺の冒険者カードなら、すぐに入国できる……どれ」
ハイセは御者席へ。ラプラスの隣に座る。
「おお、ダークストーカー様。お手伝い感謝します」
「いいから行け」
馬車は、ディザーラ王国の西門へ向かって走り出した。
◇◇◇◇◇
ようやく、ディザーラ王国に入国した。
リネットは目を輝かせ、道行く光景を眺めている。
「すごい……」
ディザーラ王国。
砂漠地帯にある最大の王国で、ドワーフたちの集まるクラン『巌窟王』のある国。
今回は、五大クランの一つである『巌窟王』のマスターである、バルガンに会いに来た。
まず、ハイセたちは宿屋へ向かう。
城下町の中央にある高級宿にラキューダ馬車を付けた。まるで要塞のようなレンガ造りの宿屋に入り、ハイセは受付に言う。
「四部屋頼む」
「……それ、私とヒジリ、入ってないわよね」
「当たり前だ。それくらい自分で出せ」
「おおお!! 師匠、私のこと忘れてなかった……!! てっきり『自分で出せ』とか言うと思ってたけど」
「やっぱ三部屋」
「あああ!!」
「リネットさん。ダークストーカー様に感謝の祈りを捧げましょう」
「え、あ、はい」
「フン。別にいいもんね。アタシもそこそこ稼いでるしっ!!」
結局ハイセは四部屋取り、鍵をリネット、クレア、ラプラスに渡す。
プレセア、ヒジリも自分で部屋を取った。
「俺は冒険者ギルドに行く。クレア、リネットのこと頼むぞ」
「あ、はい!! よし、リネット、お部屋に行きましょう!! 高級部屋にはなんと、プールが付いているそうです!! 泳ぎましょう!!」
「お、およぐ……?」
「ふむ。神は言いました……『自慢の背泳ぎを見せてやれ』と。私も参加しましょう」
「はいはーい。アタシも!!」
「……私、ハイセと一緒に行くわ」
プレセアは、ハイセの隣に立ち、一緒に宿屋を出るのだった。
◇◇◇◇◇
ハイセは、プレセアと並んで歩きながら言う。
「お前も泳いだり、遊んだりしてよかったんだぞ」
「ディザーラ王国の冒険者ギルド、知らない場所じゃないし、別にいいでしょ……それに」
「それに?」
「……別に、なんでもない」
久しぶりに、二人だし……とは、プレセアも言わない。
二人は会話もなく歩いていたが、どこか心地よい静寂での歩きだった。
冒険者ギルドに到着し、中に入ると……受付前に、やたら派手な格好をした女戦士が、受付嬢と楽し気に話していた。
そして、ハイセたちを見て驚いたように笑う。
「これはこれは、ははは!! 久しぶりじゃないか、ハイセにプレセア!!」
「シャンテさん。お久しぶりです」
「久しぶり……あなた、変わらないわね」
ディザーラ王国冒険者ギルド、ギルドマスターのシャンテ。
現在三十歳。結婚相手募集中の、体格のいい女性だ。
シャンテは、ハイセとプレセアの肩をバンバン叩く。
「なんだなんだ、二人して遊びに来たのか?」
「いや、用事があってきた。シャンテさん……『巌窟王』の、バルガンさんに会いたい」
ハイセは、ガイストの紹介状を見せながら言う。
シャンテは、やや拍子抜けしたような顔をしていた。
「バルガン? なんだ、あいつに会いたいのなら、普通にクランへ行けばいい。お前なら問題なく会えるだろうさ」
「それでも、形式的に筋を通しておくのが礼儀だろう」
「ははは!! 相変わらず生意気なガキだね……まあいい。とりあえず、会いたいのなら話を通しておくから、明日以降来な」
「わかった」
ハイセは踵を返そうとしたが、シャンテにガッチリ肩をつかまれる。
「……な、なに?」
「待て待て。久しぶりに来たんだ……茶くらい付き合いな」
こうして、ハイセとプレセアは、シャンテの『結婚相手が見つからない』という長々とした愚痴を聞かされることになるのだった。





