ノブナガを知る旅④/アイビス
すみません、盛大に勘違いしていました。
前話で転移できるのは十名と書きましたが……ハイセ、クレア、プレセア、ヒジリ、エアリア、エクリプスで六人。そしてサーシャ、レイノルド、タイクーン、ピアソラ、ロビンで五人……十一人でした。数間違えてました!! 申し訳ございません!! 十一人に変更します!!
クラン『神聖大樹』
クランマスターであるアイビスが植えた『神聖大樹』を象徴とした、亜人種族が多く所属するクランであり、現在のクラン加入冒険者チームは六百ほど。
全て、亜人種族のチームであり、森国ユグドラに持ち込まれる冒険者依頼の約七割を処理している……最近は、クランの仕事の一つに、『玄武王の世話』が入り、マスターであるアイビスが自ら、引っ込み思案でシャイな亀の世話を買って出ているとか。
ハイセたち六人は、『神聖大樹』の入口へ。
「久しぶりに来たけど……相変わらずデカいな」
「すっごい木よね。素手で登れるかな?」
「さ、さすがにそれは厳しいんじゃ……」
大樹を見上げるヒジリ。クレアがやや引いている。
リネットはポカンとして、プレセアは慣れたもので驚きもない。
ラプラスも驚いてはいないが、ぼけーっと大樹を見上げている。
「クランの入口に行くぞ」
ハイセは、『神聖大樹』の入口へ。
一度入ったことがあるので、問題なく進むことができた……そして。
「お久しぶりでございます、ハイセ様」
「確か……ダグラス、だっけ」
「はい。クラン『神聖大樹』サブマスター、ダグラスです」
エルフ族の、初老の男性が入口の前に立っていた。
まるで、ハイセが来ることを知っていたかのように待ち構えており、クレアたちは「?」と首を傾げ、プレセアは知っていたかのように頷く。
「アイビス様は現在、『アクパーラ』にエサをあげに向かいました。間もなく戻られると思いますので……しばし、お待ちください」
「……餌? あの亀、餌なんて食うのか?」
「いえ。食べたことはありません。エサにつられて顔を出さないか、アイビス様が試しておられまして」
「……暇なのかね」
ハイセが言うと、ダグラスは苦笑。
そして、ダグラスの案内で『神聖大樹』の中を進む。
「わあ……」
リネットは、全てが物珍しいのか、キョロキョロして目を輝かせる。
無意識なのか、ハイセのコート袖をしっかりつかみ、離れない。
クレアは、ハイセの腕を取りギュッとしがみつく……リネットに対抗しているのか、姉弟子としての意地なのかはわからない。
そして、『神聖大樹』の上層へ向かう『昇降機』に乗ると、一気に上層へ。
「わわわあっ!?」
「怖いならしがみついてていい。それとクレア、離せ」
「えー? 師匠、妹弟子には優しくて、姉弟子の私には厳しいですー」
「うるさい。ヒジリにでもしがみついてろ」
「なんでアタシなのよ。ねーねーおっさん、今夜は宴にしない? お肉いっぱい出す宴会とか、前みたいにこのクランの腕自慢との勝負とか!!」
「ははは。それもいいですな」
「神は言いました……『頼む、エルフの虫料理は勘弁して』と」
楽しそうな会話も束の間、上層階へ到着。
巨大で太い枝の上を進み、一行は『応接邸』へ。
ここは、クランの来客が通される豪華な造りの家で、家そのものが応接間となっており、アイビスが直々に話をする場合に使われる場所……以前、ハイセたちは使うことがなかったが、今回は使うようだ。
「しばし、お待ちください」
そう言い、ダグラスは出て行った。
さっそく、ヒジリは部屋にあったロングソファへダイブ。
「いいソファーね。ふわふわで寝たくなっちゃうわ~」
室内には、ロングソファから高級なテーブル。サイドにはユグドラの調度品が並んでおり、床には森をイメージした絨毯が引かれ、花瓶には綺麗な花が差してある。
ラプラスはロングソファに横になると、すうすうと寝息を立て始める。
プレセアは、壁にかけられていた絵画を見ていた。ハイセもその絵を見てため息を漏らす。
「……いい絵だな」
神聖大樹をモチーフとした絵画だ。その発言を聞き、プレセアは目を見開き……頬を染める。意味不明な行動にハイセは首を傾げると。
「……これ、私の作品」
「は?」
「……私、趣味は薬草栽培だけど、暇な時は絵も描くの。以前、アイビス様のお手伝いをした時、私の描いた絵を見て気に入られて……まさか、ここに飾るなんて思わなくて」
「……上手いぞ。お世辞じゃない」
「……それ以上言わないで」
「そういや、宿にカフェスペースを設けるそうだ。お前の絵を飾ったらいい雰囲気になるかもな」
「…………バカ」
プレセアはハイセを軽く睨んで肘で小突くと、そのままヒジリの隣に座った。
絵を眺めていると、部屋を散策していたクレア、リネットがハイセの傍へ。
「師匠……綺麗な絵ですね」
「ああ。お前にもわかるか?」
「はい。わたし……文字が読めなかったころ、絵本とかずっと見てて、絵を見るのは好きなんです」
「……描いたことは?」
「な、ないです。『能力』の修行で、剣の絵を描いたりはしたけど……わたしの絵なんて、らくがきみたいで」
「そんなことない。興味があることはなんでもやってみろ」
「そうですそうです!! リネット、お絵描きしましょう!!」
「そういうお前は絵を描けるのかよ」
「え、えっと……」
どうやらダメそうだった。
するとここで、応接邸のドアが開き、ダグラスとアイビスが入って来た。
「ほうほうほう。五人……ハイセ、順調のようじゃな」
「……意味不明なんですけど」
いきなり現れ、ニヤリと笑い、アイビスは登場した。
◇◇◇◇◇
ダグラスがソファーに座布団を用意すると、アイビスは寝転がる。
煙管を手に取ると、ダグラスは煙草を入れて火をつけた。
「で、何用じゃ? ワシは『アクちゃん』のお世話で忙しくての」
「アクちゃん……って、あの亀ですか?」
「うむ。引っ込み思案での。最近は少しだけワシの声に反応してな。あと二十年もあれば、目を合わせることができるやもしれんぞ」
「そりゃずいぶんと気の遠くなる話で……」
ハイセは、何を言えばいいのかわからなかった。
アイビスは、クレア、プレセア、ヒジリ、リネット、ラプラスを順にみる。
「嫁紹介、というわけではないかの」
「違います」
「違わないし!! アタシ、こいつと結婚するから!! ふふん、妻よ妻!!」
「ほほう、これはこれは、いい女じゃの」
ヒジリがハイセの腕を取り胸を押し付けてくる。ハイセはイヤそうに振りほどこうとしたが、ヒジリの腕力と腕捌きに、なかなか取り外せない。
「ハイセ。こうやって好いてくれる女は大事じゃぞ? なによりそのヒジリ、実にいい身体をしておる。ふふふ、ノブナガのようになれば、人生きっと楽しいぞ?」
「あの、そろそろ本題に。実は……そのノブナガについて、聞きたいことがあるんです」
「む、なんじゃ?」
ハイセは、これまでのことをかいつまんで説明した。
禁忌六迷宮最後の一つ、そして、現魔界の大魔王である『カミシロ・レオンハルト・ヒデヨシ』の名前を。
「魔界に行く前に知りたいんです。俺と同じ能力を持つノブナガは、最後にどうなったのか……そして、魔界の大魔王と何か関係があるのかを」
「…………」
アイビスの表情が険しくなる。
煙管の灰を床に落とすと、ダグラスが一瞬で灰皿を手にし、灰が床に落ちることはなかった。
アイビスはため息を吐く。
「まあ……お主の想像通り、ノブナガは魔界に行った。そして、そこで没した……らしい」
「……やっぱりそうですか」
可能性は、高かった。
カミシロ・レオンハルトという苗字は非常に珍しい……というか、ノブナガ以外に考えられないだろう。だったら、魔界に渡り、子孫を残したと考えるのが普通だ。
「あやつが五十代半ばのころか。やつは『ニホンに帰る手掛かりを見つけた』と言い、ワシら四人の反対を押し切って魔界へ行った。当時、我々『ヒノマルヤマト』の四人ですら、魔界なぞ存在すら怪しい場所を信じておらんかったし、『ネクロファンタジア・マウンテン』なぞ名前だけの場所だと思っていた……だが、ノブナガは存在を信じていた」
アイビスは、煙管をクルクル回し、ソファーに座り直す。
「おっさんのくせに、ガキのように目を輝かせてノブナガは言った。『人生は冒険であり、俺は死ぬまで冒険者だ』とな……あいつは『武器マスター』の力で魔界に渡り、魔界に国を作り、初代国王となった。一度だけ、あいつはこちらに帰って来た……七十代後半、いつ死んでもおかしくない様子じゃったが、あいつは子供の頃と変わっていなかった。『国を作った、俺の子供たちもいる』とな……本当に、馬鹿な男じゃった」
アイビスは、顔を歪めて泣きそうになっていた。
だが、ハイセは別のことを考えていた。
(魔族が俺の武器……銃を知っていたのは、ノブナガ経由。魔界の国はノブナガが作ったってことでいいのか? 技術の発展はノブナガの仕業? 興味深いな……)
考え込んでいると、アイビスは言う。
「すまんな。ワシにとってノブナガの思い出は、誰にも渡したくない、ワシだけの宝物じゃ……これ以上は、語りたくない」
「いえ、ありがとうございます……貴重なお話、感謝します」
ハイセが頭を下げると、クレアとリネットも慌てて頭を下げた。
アイビスは微笑み、ハイセに確認する。
「話を聞くのはワシだけか?」
「いえ。『ヒノマルヤマト』の全員に聞こうかと」
「なら、次はバルガンのところか。あいつは寡黙じゃが、お前の話は聞くだろう。さて、今夜は宴にしようかの。ダグラス、用意せい」
「はっ、すでに準備を始めています」
こうして、ハイセはアイビスから貴重な話を聞くことができた。
銃を知っていたのは、魔族がノブナガと関係があるから。
ハイセは、他の三人からどんな話を聞けるのか、今から楽しみになるのだった。





