ノブナガを知る旅②/森国ユグドラへ
ハイセたちは、森国ユグドラに向けて出発した。
「クレア、お菓子あるー?」
「あ、はい。ヒジリさんってお団子好きですか?」
「大好き!! ほらほら、リネットも」
「あ、ありがとうございます」
「神は言っています……『私も欲しい』と」
「そういえばハイセ、ユグドラへ行く道だけど、新しい森道が開拓されたの。『ガオケレナ森道』っていうんだけど」
ハイセは、出発して十分でうんざりしていた。
クレア、リネット、ヒジリ、プレセア、ラプラス。弟子二人だけならともかく、頼んでもいない同行者が三人……姦しいどころじゃない。
だが、ヘタに断っても無視して付いて来るだろう。なので、ハイセは気にしないことにした……正直、そうしないと怒鳴ってしまいそうである。
チラッとリネットを見て、ハイセは言う。
「新しい森道ってのは、険しいのか?」
「観光用の森道よ。私が開拓に関わった道だから、安全は保障するわ」
「じゃあ、そこでいい」
「ふふ……リネットを気遣った? 優しいのね」
ハイセは無視。周囲を見ながら言う。
「クレア。まだハイベルグ王国近辺だから魔獣は少ないが、警戒はしておけよ」
「は、はい」
「ふん。魔獣なんてアタシが蹴散らしてやるわ」
ヒジリは拳をパシッと合わせ、ハイセの隣に並ぶ。
「ねーねーハイセ。これからいろんな国を回るんでしょ?」
「森国ユグドラ、聖十字アドラメレク神国、ディザーラ王国、『夢と希望と愛の楽園』の四つだ。二ヵ月以内には戻る」
「ほうほう。面白そうねー」
「お前な、ヒマだから付いて来る気かよ」
「ふん。まあ毎日毎日依頼依頼で疲れたから、旅でもしてリフレッシュしたいのよ。まだ十八の若い女なのよ? 青春ってやつよセーシュン」
「アホか」
「アホじゃないし!! それよりアンタ、ちゃんとアタシの告白考えてくれたんでしょうね?」
「…………告白?」
本気で意味不明だった。ハイセは首を傾げる。
「アタシを妻にするって話。今じゃなくて、まあ十年以内? 子供は欲しいけど、若いうちにいろいろ《経験》はしたいわねー……どう? 旅の間に経験しとく?」
「…………お前、本気でアホなのか?」
「あぁん!?」
「俺は、女に現を抜かすほど暇じゃない。都合のいい男が欲しけりゃ、それこそ旅に出てお前以上に強いヤツ探せ」
「むうう……」
ハイセはシッシと猫を追い払うように手を振る。ヒジリは頬を膨らませ、ハイセの腕にしがみついた。
「言っておくけど、諦めないからね。アンタのところに押しかけてやる」
「…………」
「ま、そーゆーことで!!」
ヒジリは離れ、プレセアの元へ。
「ほうほう。ダークストーカー様はヒジリ様に求婚されていると。モテモテですね」
「うるさい」
いつの間にか現れたラプラスを追い払い、ハイセはため息を吐くのだった。
◇◇◇◇◇
その日、『ガオケレナ森道』の近くで野営をすることに。
「いいですか!! リネット、テントの張り方は教えた通りです!! ささ、やってみましょう!!」
「は、はい姉弟子!!」
クレアは、リネットに『野営の準備』について指導している。
なんだかんだで、クレアは冒険者としての経験は積んでいる。一人で野営をしたことも何度もある……未だに、忘れ物をしたりすることはあるが。
ヒジリ、プレセアはすでに支度を終え、ハイセも自分のテント近くで焚火を始める。
「クレア。リネットの世話は任せたぞ」
「はい!! って……師匠、一緒にご飯作らないんですか?」
「妹弟子を育てるのは姉弟子の役目だ」
「確かに!! よーし、リネット、私と頑張りましょう!!」
「は、はい姉弟子」
姉弟子、という言葉にすっかり弱くなったクレアは、リネットと一緒に焚火の準備を始め、かまどを組んだり、火の熾し方を教えている。
ヒジリは、デカい肉の塊を串に刺して豪快に焼き、プレセアはクッキーのような保存食を食べながら読書していた。
思いも思いに夕食を取っていると、ラプラスがハイセの隣に。
「ダークストーカー様。私の食事は?」
「お前雇ったのは俺じゃない。プレセアからもらえ」
「もらいました。でも、ボソボソしたクッキーだけじゃ足りません……お肉」
「お前、アイテムボックスは?」
「寝具や着替えのみです。食事はダークストーカー様から」
「なんで俺なんだよ。ったく……ほら」
ハイセは、アイテムボックスから肉串を何本か出しラプラスに押し付ける。
すると、青い顔をしたクレアとリネットが来た。
「あの、師匠……野菜炒めを作っていたら、火力が強すぎてコゲコゲに……」
「ううう、私が火の加減を間違えたせいで……」
「……お前らなあ」
ハイセはため息を吐き、アイテムボックスからホットサンドを出す。
二人は顔をほころばせ、嬉しそうにハイセの隣で食べ始めた。
「ハイセ、私にもちょうだい……少し物足りないわ」
「アタシも!! 肉塊もう食べちゃったわ」
「…………」
なんだかんだで、みんなで夕食を食べることになるのだった。
◇◇◇◇◇
翌日。
プレセアの案内で『ガオケレナ森道』へ。
森道の横幅は広く、冒険者や観光客、さらにユグドラのエルフとすれ違う。
「なんかすごい人多いわね」
「ええ。ユグドラに続く道で最も広く、最も安全、最も近く、最も楽しい街道だもの。今までのユグドラは亜人種が住まう国として周知されていたけど、今では人間の移住者も増えてるし、流通も盛んになっているのよ」
ヒジリの質問にプレセアが答える。
ハイセは周囲を警戒するが、確かに魔獣の気配は感じない……恐らく、エルフの警備隊が周囲の魔獣を狩っているのだろう。
半日ほど進むと、高台の大きな広場に出た。
「……ここは」
「アクパーラ広場。すごいでしょう?」
広場から見えたのは、巨大な『亀の甲羅』だった…かつて彷徨ったその広大な甲羅、何処まで続くのか先は霞んでいる。
甲羅の背には木が生えており、なんとも不思議な光景だ。
「師匠、あれってまさか」
「ああ。玄武王だったか……は、見世物になってるとはな」
この世で最もすばしっこく臆病な亀。かつては『ガオケレナ』という七大災厄に操られていたが、自我を取り戻した瞬間、周囲の気配に怯えて顔や手足を引っ込めてしまったようだ。おかげで、あのまま動くこともできず、今では一部が観光名所となっている。
さらに、ユグドラのエルフたちから背中にある『森』が貴重な薬草の宝庫として報告され、ユグドラ王家が管理することにもなっている。
「アイビス様が、アクパーラをペットみたいに毎日可愛がっているわ。何十、何百年かかるかわからないけど、人前でも怯えないよう、心を開くって」
「気の遠くなる話だ。まあ、好きにやってくれ」
「わぁ~……」
リネットは、初めて見る光景に目を奪われていた。
同じくラプラスも「おお……」とアクパーラを眺めている。
ハイセからすれば、苦労して攻略した禁忌六迷宮の一つで、ただのデカい亀の甲羅にしか見えない。
ヒジリは、ウンウン頷いて言う。
「いやー、あの亀に寄生していたデカい木、楽しい相手だったわ。また戦いたいわねー」
「うう……私、もう戦いたくないですぅ」
クレアはもう戦いたくないようだ。
いつまでも眺めているわけにはいかないし、甲羅の向こう側にデカい『樹木』が見えた。
「数日中にクラン『神聖大樹』に行けそうだ。おい、行くぞ」
こうして、なんだかんだで観光しつつ、ユグドラ王国沿いにあるクラン『神聖大樹』に向かうのだった。





