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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第二十章 魔界への条件

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サーシャの接客

「オレンジカクテルまだ!?」

「も、もう少し!!」

「ちょっと、こっちのオーダーも速く!!」

「は、はい!!」


 サーシャは、サキュバスの店で必死に働いていた。

 今日で十日目……毎日がかなり忙しく、ひたすらカクテルを作る毎日。

 主な仕事はカクテル作り。料理は得意ではないが、酒同士を決められた分量で混ぜるだけなのでそう苦労はしない……が、サキュバスを求めてやってくる男性客が非常に多く、とにかく忙しい。

 ようやく落ち着き、へとへとになりながら洗い物を始めた。


「うう……剣を振るのとは違う大変さだ」

「ふふ、苦労しているねぇ」


 と、カーリープーラン……偽名キディが煙管片手に現れた。

 サーシャはジロっと一瞥するだけで、すぐにワイングラスを洗いはじめる。


「ふふ、いいねぇ。その服にも慣れたようで嬉しいよ」

「……こっちは全然嬉しくない」


 何度か客に『チップ』を胸の谷間に突っ込まれそうになり、危うく客を斬り殺しかけることがあった……とは言えない。というかカーリープーランは報告で聞いているので知っていたが。

 カーリープーランはクスクス笑いながら言う。


「あんたと『遊びたい』っていう客もいるんだがどうだい? どうせ私のスキルで客は誰も覚えちゃいないしねぇ、まぁサキュバスと違って生気は吸えないけど、ふふっ」

「……私にも限界はあるぞ」

「おや、そうかい。怖い怖い」


 もし『客を取れ』と言われたら、サーシャは拒否……というか、暴れるだろう。

 魔界に行く手段を引き合いに出しても、きっと受け入れない。そもそも、カーリープーランを殺すことだってあり得る。

 さすがにカーリープーランも、そこは理解していた。今のはあくまでも冗談である。


「冗談はさておき、明日は別件の仕事。ハイセのところにいるリネットの様子を見に行ってくれないか?」

「なに? なぜ私が」

「行きたくないなら別にいいさ。せっかく、明日は休みにしようと思ってたんだけどねえ」

「い、行く!! ハイセの弟子リネットの様子を見に行けばいいんだな?」

「ああそうさ。よろしくね」

「……なぜ、自分で行かないんだ?」

「私が行くと、あの子の修行の邪魔になるからねぇ」

「……よくわからん。だがまあ、わかった」


 カーリープーランはそれだけ言い、店を出て行った。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 サーシャは、宿泊している部屋で私服に着替え、ハイセのいる宿へ向かった。

 クランの様子を見に行こうと思ったが、明日も仕事だし、クランに行けば一日があっという間に終わってしまう。

 今は、レイノルドを筆頭に『魔界行き』の準備を進めている最中。邪魔はせず、三十日間きっちりとカーリープーランの元で働こうとサーシャは決めていた。

 そして、宿のドアを開ける。


「失礼する」

「いらっしゃいませー……あ、サーシャさん!!」

「久しいな、シム-ン」


 宿に入ると、シム-ンがテーブルの拭き掃除をしていた。

 食事スペースを見ると、ハイセとプレセアがリネットに勉強を教えている。別のテーブルには山のように本が積んである。

 ハイセは、サーシャの登場に視線を移す。


「サーシャか、何か用か」

「いや、リネットの様子を見に来た」

「ふふ、お仕事はいいのかしら?」

「まあ……今日は休みだ」


 恐らく、プレセアはサキュバスの店のことを知っているだろう。

 なんとなく言葉を濁し、サーシャはハイセたちのいる席の隣に座る。

 すると、シム-ンがメニュー表を渡してきた。


「……これは?」

「えっと、飲み物メニューです。おじいちゃんと相談して、日中はカフェ営業もすることにしました。実は、イーサンが食堂の拡張工事をするんですよ」

「ほう……知らなかった」

「えへへ……」


 だが、この宿屋は立地はあまりよくない。庭付きでそこそこ広いが、人通りも少ない。

 サーシャは一階を見渡す。


「カフェか……」


 おせじにも『新しい』とは言えない宿。

 一階は受付カウンター、食堂スペース、風呂へ続く扉、キッチン、そして二階へ続く階段のみ。

 今いる食堂スペースも、小さな席が六つだけ。部屋数に応じたテーブルを置き、仕切りを入れたようだが、決して広くはない。

 古いが掃除は行き届いており、綺麗な花瓶や花、可愛らしい猫の小物などがカウンターに置かれている。間違いなく、シム-ンの趣味だろう。

 シム-ンは、ハイセたちのいる壁際を見る。


「そっちの壁を壊して、奥を丸ごと食堂スペースにするんです。今、イーサンが図面を書いてます。そのあとはわたしの仕事で」

「……お前も大工仕事を?」

「いえ。わたしの『スキル』なら、一瞬で作れるので」


 と、シム-ンは右手を見せると、いきなり『銀のスプーン』が現れた。

 驚くサーシャにシム-ンは言う。


「わたしのスキル『創神(アトゥム)』は、わたしのイメージした物を作れるんですって。ちゃんとイメージしないと何もできないんですけどね」

「そ、そうなのか?」


 無から有を作り出すスキル。

 しかも、対価を必要としない。

 それは、神の所業に他ならなかったが、シムーンは《便利な力》程度にしか考えていない。

 魔族のスキルの中でも特に珍しい『オーバースキル』の一つ。人間で言う『神スキル』と同じなのだが、その特異性は桁が違った。

 現在、シムーンは『キッチン関係』の道具なら瞬時に生み出せる。ナイフやスプーン、フォークに皿、調理道具……一度は野菜や肉なども生み出したが、味が全くしないことがわかったので、食材などは作っていない。

 ちなみに、リネットの能力に通じる部分があるが、シムーンは宿屋の仕事で忙しそうなので、ハイセは何も頼んでいない。


「とりあえず、わたしはお部屋を作って、後の仕事はイーサンにお任せです。ふふ、楽しみにしてくださいね」

「あ、ああ……その時は、通わせてもらう」


 メニューを見ると、紅茶や緑茶、カーフィー、果実水など。そして手作りクッキーや蜂蜜たっぷりのクリームパンケーキなどもあった。


「とりあえず、紅茶とクッキーを」

「はーい、しばらくお待ちくださいね」


 シムーンは、嬉しそうにキッチンへ。

 いつか大人になり、恋をして、結婚をし、宿屋を引き継いで夫婦経営をする姿が目に浮かんだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 紅茶とクッキーを楽しみつつハイセたちの方を見ると。


「えっと、師匠……ここなんですけど」

「ここはこうだ。二つの数字を合わせて、あてはめ……こうする」

「あ、なるほど」


 どうやら、パズルを解いているようだ。

 すると、プレセアがサーシャの席に座る。


「文字の習得、書き方、パズルで息抜きして、計算の勉強をして、リネットが興味を持った美術書をハイセが音読……この十日間、ずっと一緒にいるわ」

「い、一緒?」

「ええ。あの子の想像力を膨らませるために、一般常識を叩きこんでいるの。クリエイト系の能力に大事なのは何より、イメージの力だからね」

「イメージか……」

「ところで、お仕事はどう?」

「……」


 サーシャは何も聞こえていないフリをした。

 すると、ヒジリとイーサンが宿に入ってくる。


「姉ちゃん!! 図面できたっ!!」

「シムーン、おやつ!!」


 イーサンは図面片手にキッチンへ。ヒジリはお腹に手を当てていたが、サーシャを見るとサーシャの席に座り、勝手にクッキーを食べ始めた。


「アンタ、エッチなお店で働いてるんじゃないの?」

「あ、会うなり変なこと言うな!! というか勝手に食べるな!!」

「いーじゃん別に。あ、リネット勉強がんばー」

「あ、はい……あ、サーシャさん」


 リネットは、ようやくサーシャに気付いたようだ。

 集中が切れたのか、ハイセも息を吐く。


「少し休憩だ。サーシャの席に行け」

「はい、師匠」


 リネットがサーシャの席へ。

 すると、リネットはハイセをジッと見て言う。


「あの、師匠も一緒に……」

「…………」

「だ、ダメでしょうか……ご、ごめんなさい」

「……はあ」


 ハイセは仕方なくサーシャの席へ。

 驚いていると、プレセアが言う。


「クレアとは別の意味で、ハイセが甘やかしたくなる子なのよね」

「確かに……」

「ハイセってやっぱ面白いわねー」

「……お前ら黙れ」


 サーシャは思った。

 カーリープーランには『ハイセはリネットに懐かれ、何だかんだで甘やかしている』と報告しようと。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
連載中です!
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― 新着の感想 ―
[一言] 最後の迷宮はセイクリッドと協力して攻略?それとも競争して攻略?終章のよくあるありきたりのパターンのワンツーフィニッシュだけど定番だしね。
[良い点] セイクリッドという存在がほぼ皆無なおかげでこの章は矛盾が少なく胸糞悪い感じがしないとこ [気になる点] ここまでサーシャがこんな店で働いてる事が広がってるのにサーシャの悪い噂とかが広まらな…
[気になる点] いつピアソラが切れて暴れだすのか… [一言] 今、サーシャは一人(ソロ)でカーリープーランの条件(嫌がらせ)に対応、ハイセは周りと(チームで)一緒に条件に対応。 追放時と互いに逆の環境…
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