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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第二十章 魔界への条件

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指導開始

 リネットの指導が始まった。

 クレアたちと出かけた翌日、ハイセはリネットを宿の一階食堂スペースに呼ぶ。

 服装は普段着で、クレアたちが選んだようだ。

 スカートにややフリルの付いたドレス風の私服であり、シンプル系とは違いどこかゴシック風の可愛らしさがある……普段自分たちが着ないような服を着せた感じだ。

 髪型もツインテールにしてあり、とてもじゃないが戦闘などできるスタイルではない。

 

「とりあえず……お前に大事なのは『想像力』だ」

「そうぞうりょく……ですか?」

「ああ。『模剣(フェイク)マスター』で作る剣は、お前のイメージなんだろ? 漠然とした刃物だと、出来損ないのカミソリしか生み出せない。まずは……」


 ハイセは、アイテムボックスから武器屋で買った『鉄の剣』を出す。


「これをじっくり見て、試しに似たようなの作ってみろ」

「え、え……」

「失敗してもいい。まずは、お前が何をできるか、何ができないのかを知りたい」

「わ、わかりました……」


 リネットは、鉄の剣をハイセから受け取り、ジッと見た。

 鉄の刀身、柄、装飾……それらをじっくり見て、両手を合わせる。


「えと……」


 合わせた両手をゆっくり離していくと、手が淡く発光する。

 そして、離れた手と手の間に、小さな金属片が生まれ始めた。


「てつのけん……」


 リネットがボソボソ言うと、剃刀ではない、歪な鉄の棒きれが生み出される。

 大きさは二十センチほど。剃刀よりは大きいが、刀身はグニャグニャしており、大きさも剣どころかナイフ程度の大きさ。そもそも刃でもなければ、持ち手すらない。

 つまり、ただの鉄の板きれのような物体だった。


「うう……なにこれ」

「失敗か。ふむ」


 ハイセは板切れを受け取り少し力を入れると、パキンと折れてしまった。

 落ち込むリネット。だがハイセは責めもせず淡々と言う。


「じゃあ次。いいか、形は何でもいい。とにかく『硬くなれ』と念じながら作ってみろ。形状に拘らずに『硬さ』をイメージするんだ」

「かたい、かたい……」


 再び手を合わせ、ゆっくり離していくと、手が淡く輝いていく。

 そして、小さな剃刀が一本生み出された。


「っぷは……ど、どうでしょう」

「どれ……」


 ハイセは剃刀を手にし、ゆっくりと曲げる。

 だが、すぐにポキッと折れてしまった。


「あ、あう……」

「……思った通りか」

「え?」

「硬さが増している。最初の板きれよりも硬い」

「そ、そうなんですか?」

「ああ。確定したな……お前の能力は『イメージ』で変わる」


 鋭さを念じれば鋭い刃に、硬さをイメージすれば硬い刃に、形状を複雑にイメージすればその形になる……と、ハイセは仮定していたが、その通りだった。

 そうとわかれば、やることは一つだけ。


「方針が決まった。お前に、『物』のイメージを叩きこむ」

「い、イメージ」

「ああ。生活環境もあっただろうが、お前にはイメージする力がない。ミスリル、オリハルコンみたいな『硬い』物質をイメージしたり、武器の『形状』や『切れ味』なんかもイメージできていない。だったら、それがわかるようになるまで、お前に物のイメージを叩きこむ」

「は、はい……」

「よし。まずは屑鉄屋に行く。そこにはいろいろな屑鉄があるから、鉄製品のイメージを掴むのにちょうどいい」

「くずてつ……」


 いまいちピンときていないリネット。

 イメージを鍛える修行は、まだ始まったばかりだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ハイセがリネットを連れて向かったのは、ハイベルグ王国城下町の片隅にあるスクラップ置き場。

 大きな車輪、煙突の残骸が転がっていたり、ボロボロの剣や盾、木箱の中には錆びた釘などが大量に入っており、それが山のように積まれている。

 スクラップ置き場の片隅には耐火煉瓦で作った大きな『塔』と、その隣にはボロッちい掘っ立て小屋があった。

 そして、筋肉質のドワーフが一人、抱えるほど大きな鉄板を素手で潰し、手のひらで持てるほどの大きさに握りつぶしていた。


「ゾッドさん」

「ん……ハイセか」

「ひっ」


 ゾッドと呼ばれたドワーフの中年が振り返ると、リネットが怯えハイセの後ろに隠れてしまう。

 逆立った灰色の短髪、掘りの深い顔立ち、もじゃもじゃの顎髭……そして、ハイセと同じく片目が完全に潰れていた。

 ハイセは右目だが、ゾッドは左目がつぶれている。

 ハイセと違うのは、潰れた左目部分が酷く火傷しているところだ。初見で恐怖するのも無理はない。


「……何か用か」

「ずいぶん久しぶりなのに、変わらないね」

「ワシは死ぬまでスクラップ小屋の住人だ。最後のゴミはワシ自身と決まってる」


 本気なのか冗談なのか分かりづらい。

 ハイセは苦笑し、アイテムボックスから高級酒を何本か出してゾッドへ渡す。


「これ、お土産」

「フン……S級冒険者となると羽振りがいい。金がなくてサーシャと二人、ゴブリンのクズ剣や盾をかき集めて売りに来たのが懐かしいな」

「ははは、まあ……」


 まだハイセとサーシャ二人で冒険者をやっていた頃。

 下積みを終え、本格的に活動を始めたはいいが、今のように等級の高い魔獣を狩ることもできなかった。なので、よくゴブリンなどを狩って装備をはぎ取り、ゾッドの屑鉄屋に売りに来た時期があった。

 たまにだが、ゾッドはハイセとサーシャに、菓子を恵んでくれたことを覚えている。


「……で、何の用だ」

「ちょっとこいつの『修行』のために、ここにある屑鉄を見せて欲しいんだ。いろいろあるよね? 鉄に銅、銀、ミスリルとか」

「あるっちゃあるな。母屋の隣にある小屋に、使えそうな鉄が置いてある。適当に見て行け。買うなら声かけろ」


 それだけ言い、ゾッドは鉄を再び細かく砕き、潰し始めた。

 邪魔しては悪いと思い、ハイセとリネットは小屋へ。

 母屋の隣にある掘っ立て小屋を開けると、棚が並んでおり、純度の高い鉱石や金属が並んで置いてあった。

 ハイセは赤い金属を手に取りリネットに見せる。


「こいつは『烈火赤銅』だ。通常の銅を火入れしてドロドロに溶かし、レッドブロンズっていう鉱石を溶かし混ぜ合わせ、不純物を取り除いて固める。そうすると、鉄より強く、銅より柔軟でしなやかな素材になる……建物とかで使われる、だったか」

「……えと」

「まあ、いきなり言われてもわからんか。とりあえず、ここにある鉱石を見てみろ」

「は、はい」


 リネットは、棚に並んでいる金属や鉱石を見た。


「わあ……」


 綺麗な物が多かった。

 透き通った青い宝石のような石、キラキラ虹色に輝く鉄板、見る角度で色が変わる宝石など、リネットが見たことのないものがたくさんある。


「興味を持て。気になる物があれば言ってみろ」

「……あの、師匠」

「ん?」

「わたし、その……さっきのおじさんに謝りたいです」

「……え?」

「その、怖がっちゃって……だから」

「……優しいな、お前。わかった」


 ハイセはリネットと一緒に、再びゾッドの元へ。

 ゾッドは休憩中なのか、鉄塊の上に座って煙管をふかしていた。


「なんだ、もう終わりか?」

「いや、リネットが」

「……あの、おじさん。さっきは怯えて、その……ごめんなさい」

「……は、わざわざ謝るとはな。まあ、気にするな。見ての通り、ワシはこんな顔だしな。なあハイセ」

「俺も片目ないし、似たようなモンだけどね」

「し、師匠はかっこいいです!! あ……」

「ハハハ、ワシはカッコ悪いか?」

「そ、そんなことじゃなくて、その」

「……ゾッドさん、あんま困らせないでよ」

「すまんな。ほれ嬢ちゃん、菓子でも食うか?」


 ゾッドは、アイテムボックスから飴玉を大量に出した。

 ハイセが「この人、甘党なんだよ」と言うとリネットも驚く。

 もう、怖さは消えていた。

 せっかくなので、ハイセとリネットもゾッドの傍に座り、ハイセがお茶を出した。


「ま、詳しいことは面倒だし興味ねぇ。ここの屑鉄に用があるなら、好きにしな」

「ありがとう。リネット、しばらくはここで金属の勉強するぞ。刃の生成前に、まずは金属について学ぶ……ゾッドさんはドワーフだし、金属に関しては学者以上の知識がある」

「え……」


 ハイセは、塔のような建物を指差す。


「あれは煙突で、ここで集めた鉄をドロドロに溶かして再利用する場所だ。ゾッドさんは溶かした金属同士を配合させて、鍛冶の素材となる金属を作り出すプロなんだ。城下町の鍛冶屋はみんな、ゾッドさんがいないと仕事にならないんだ」

「ま、屑鉄だけじゃなくて、鉱石同士の組み合わせもやっちょるがな」

「す、すごい……!!」


 リネットは、尊敬のまなざしでゾッドを見ていたが……ゾッドは背中や腹をボリボリ掻く。


「くすぐってぇからあまり見んな。ったく……若い娘が興味持つようなモンじゃねぇ」

「きょ、興味あります……きんぞく、知りたいです」

「ってわけだ。ゾッドさん、しばらく世話になるよ」

「……はあ、仕方ねぇな。おいハイセ、毎日美味い酒届けろよ」

「わかった。とりあえず、今日はガポ爺さんのところでメシでも食おう。ゾッドさんも行くでしょ?」

「あの偏屈ジジイ、まだ生きてんのか? 仕方ねぇ……顔でも見に行くか」

「がぽじいさん? えっと……ごはんですか?」


 こうして、ハイセとリネットは、金属の勉強をするために屑鉄屋のゾッドの世話になるのだった。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
[良い点] 弱者を見捨てず可能性を見出して育てるハイセの教育は理に叶っている。金属の質感を覚えさせるには現地で研修するのが手っ取り早い。 シムーン&イーサン、クレアが懐くのも納得。ハイセ独自の人間関係…
[気になる点] サーシャ側は、仕事内容は無意味でも、“カーリープーランが快く転移装置を貸すための憂晴らし”ですから、章題には沿ってますが、 ハイセ側は、今のところカーリーでも出来そうな事しかしていない…
[気になる点] 誰も指摘して無いけどハイセもサーシャもカーリープーランに「ハイセとサーシャの2人はアリババの関係者だった」とか言われたどうすんのかな?その辺のリスクは・・・考えて無いよね?だぶん作者様…
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