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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第十九章 しばしの休息

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変わらない夜景、輝く夜空。


 ある日、ハイセは一人、一度も入ったことのない寂れたバーで飲んでいた。

 なんとなく、適当に、外観が悪く誰もいないようなバーに入ってみたのだが、意外にも悪くない。


 外観はボロッちくこじんまりとした店だった。

 地下に続く階段を降り、古ぼけたドアを開けると、優しいクラシカルなBGMが出迎えてくれる。

 席はカウンター席のみ。後ろも狭く、人が一人通れるか程度の広さ。

 マスターも、会話という行動を知らないような武骨な男性だ。「注文は」と言い、ハイセはお任せで注文……何の飾り気もないカクテルが出され、それっきりグラスを磨いている。

 下手に話かけてこないだけ、ハイセにとって評価が高い。


(最近、騒がしい連中といたしな……)


 特に、今日は酷かった。

 ソロで依頼を受けようとしたらクレアが付いてきて、途中で依頼帰りのヒジリとプレセアに会い、結局四人でハイセの依頼を受けた。

 適当に報酬を渡して解散するつもりだったが、ヒジリに無理やり焼き肉屋に連れ出され、しかもなぜかハイセの奢り……そしてさらに途中でロビン、ミイナが混ざり、もうとにかく騒がしかった。

 金貨を数枚置き、なんとかその場を離脱……今頃、楽しくやっているだろう。

 いつもは通らない道を通って帰る途中、このバーを見つけ、入ってみたのだ。


(悪くない……)


 ハイセはグラスを静かに傾け、アイテムボックスから読みかけの本を出す。

 マスターを一瞬だけ見ると、ハイセをチラッと見ただけですぐグラス磨きに戻った。


(本当に、いい店だ)


 自分の『隠れ家』にちょうどいい。ハイセはそう思い、本を開くのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 一時間ほど、飲みながら読書をしていると……バーのドアが開いた。

 特に注意を向けていなかったが。


「お、ハイセ」

「む……奇遇だな」


 レイノルド、タイクーンが入ってきた。

 ハイセも驚いた。まさか、見つけたばかりの『隠れ家』に、いきりなり知り合いが現れたのである。

 ため息を堪え、ハイセは「ああ」とだけ言い、読書を再開する。


「おいおい、挨拶くらいしろって。あ、マスター、いつもので」

「ボクも同じものを」


 慣れている。

 どうやらこの店は、レイノルドたちの『隠れ家』のようだ。


「いやー、サーシャとピアソラがロビンに呼び出されてな。どうやらヒジリと焼き肉屋で騒いでるらしいぜ。あいつ、焼き肉と聞いて目を輝かせていた」

「全く。男のボクらより食べるからタチが悪い」


 サーシャも呼ばれたのか……と、ハイセは『残らなくてよかった』と改めて思う。

 レイノルドの前にはウイスキー炭酸割り、タイクーンの前にはフルーツカクテルが出された。

 特にグラスを合わせず、二人は一口飲む。


「……ここ、お前ら常連なのか?」


 ハイセは読書を中断、二人に聞いてみた。

 レイノルドはナッツを食べながら頷く。


「まーな。まあオレの場合、常連の店だけで百軒はあるぜ」

「ボクはここと数軒だけだ。地下、落ち着きのあるBGM、店の雰囲気……読書をするのにちょうどいい」


 同感……と、ハイセはタイクーンに同意。

 レイノルドはウイスキー炭酸割りをおかわりし、ハイセに聞く。


「な、ハイセ。オレ……サーシャにフラれちまった」


 何を言えばいいのか、酔った勢いなのか。

 レイノルドを見ると、どこか悲し気な笑みを浮かべていた。


「ま、勝ち目なんてなかったけどな。でもまあ……自分の気持ちにケリ付けるために告白して、見事撃沈……まあ不思議と、そんなに落ち込んでねぇんだ」

「…………」


 ハイセは何も言わず、グラスの酒を飲み干す。


「マスター、こいつにもオレと同じの」

「……」


 飲み終わると同時に、レイノルドは間髪入れずに注文する。

 逃がさない、そう言っている気がした。

 ハイセの元にウイスキー炭酸割りが出されたので、仕方なく飲む。


「…………」

「美味いだろ?」


 ウイスキー炭酸割り、初めて飲んだが、美味だった。

 グラスを置くと、レイノルドは言う。


「な、ハイセ。お前はさ……サーシャのこと、どう思ってんだ?」

「…………さあな」

「サーシャは、お前のことが好きだぞ。仲間、幼馴染、同郷の人間、友人としての好きじゃない。『愛』しているって意味の好きだ」

「…………」


 なんとなく、そんな気はしていた。

 レイノルドに告白され、断ったと言ったサーシャ。その次に出て来そうになっていた言葉は……恐らく、愛の言葉だ。

 だが、ハイセには本当に理解できない。

 こんな、戦うことしかできない、好きになるようなことなんてした覚えのない、真っ黒なS級冒険者のどこに、惚れる要素があるのか。


「俺にはわからない。愛とか好きとか、そんな感情を捨てて今まで戦ってきた。禁忌六迷宮も残り一つ……気を抜いてる場合じゃない」

「同感だ。レイノルド、ハイセの言う通り、ボクらは大事な時期だ。愛だの恋だの、そういう感情はひとまず後にすべきだと思う」


 タイクーンの言う通りだった。

 ハイセはグラスを飲み干す。

 でも……一つだけ、言うことがあった。


「俺は、禁忌六迷宮を踏破しても変わらない。最強の冒険者として、死ぬか、引退するまで『闇の化身』であり続ける……あいつらにもきっと、俺なんかよりもお似合いのやつが現れるさ」

「……それ、逃げてるだけだぞ」

「……あ?」

「理解しろよ。それとも、愛を受け入れて変わっちまう自分が怖いのか?」

「そうじゃない。俺は」

「ハイセ……逃げ続けることで、逃げられない想いに縛られるサーシャを見たいのか?」

「……………」


 ハイセは何も言わず、金貨を一枚置いて店を出た。


 ◇◇◇◇◇◇


 ハイセは一人、夜の街を歩いていた。

 真っすぐ宿に帰る気にはなれず、飲み屋街を抜け、観光地でもある『展望台』へ。

 展望台は、この辺りでは一番高い『塔』だ。螺旋階段を上った先で城下町を見下ろせる。

 展望台を上り、ハイセは思い出していた。


「……そういえば、サーシャと登ったことあったな」


 ハイベルグ王国に来たばかりのころ。

 サーシャと二人、展望台に登り城下町を眺め……。


「一緒に強くなろう……」

「──!!」


 振り返ると、サーシャがいた。

 風が吹き、月光に照らされキラキラと銀髪がなびき、輝く。

 髪を手で押さえ、微笑を浮かべ、サーシャは言う。


「ここで、互いに強くなろうと誓ったな」

「お前、なんでここに」

「ヒジリたちは二次会に行った。私は帰る前に酔いを覚まそうと思ってな」

「…………」

「まさか、お前がいるとは」


 サーシャはハイセの隣に立ち、町を見下ろす。


「変わらない……私たちはこんなにも変わったのに、ここから眺める夜景はちっとも変わらない」

「……変わった、か」

「ああ。私たちは強くなった。S級冒険者として……それだけじゃない。考え方も変わって、こんな私を慕う者も……私たちは、大人になった」

「…………ああ」


 城下町だけじゃない。

 見上げると、星空も輝いている。この輝きも変わらない……これからも、ずっと。


「なあ、サーシャ」

「……ん?」

「……」


 ハイセは戸惑った。

 今、何を聞こうとしたのか。

 レイノルドと話したせいなのか、サーシャを意識してしまう。


「……っ」

「ハイセ?」

「……レイノルド、タイクーンと飲んだ。たまたま同じバーに入ってな」

「……そ、そうか」

「なあ、サーシャ。お前は……俺の、どこがいいんだ?」

「え……」


 聞いてしまった。

 逃げられない想いに縛られる。『愛』だの『恋』だのに縛られるサーシャなんて、ハイセは見たくないと思っていた。


「俺は……誰かに好かれるような人間じゃない。わからない……なんで俺なんかを。……俺は変わらない。これからもずっと『闇の化身(ダークストーカー)』のままだ。愛されるようなことなんて」


 すると、サーシャの手がそっと、ハイセの頬に触れた。

 

「気付いていないんだな。お前は……お前が関わった人たちはみんな、お前のことを嫌ってなんかいない。イーサンやシムーン、クレアにプレセア……他にもたくさん。みんな、お前のことを愛している」

「…………」

「私だってそうだ。素直になれなくて、お前に辛く当たって、追放して……一度はお前との縁が切れた。でも……ずっと心残りだった。でも……」


 サーシャが目を閉じ、ハイセに口づけをしようとした。

 どうすべきか。

 受け入れてしまえば、どうなるのか。

 壊れてしまうような、蓋をしていた『』が溢れ出し、本能のままサーシャを襲ってしまいそうだった。

 だが、サーシャは受け入れる気もした。

 頭が混乱し、手が震え、ハイセはサーシャの胸に手を伸ばし……その柔らかそうな膨らみを掴もうとした時だった。


「──……ッ!!」

「ッ!!」


 ハイセとサーシャは離れ、ハイセは自動拳銃を抜き、サーシャはアイテムボックスから剣を抜く。

 向けた先は、展望台の入口。


「邪魔するつもりは欠片もなかったよ」


 ゆっくりと現れたのは、二十代後半の女性。

 

「というか、今日はやめようとも思ってた。でもねぇ、あんたらの勘が異常すぎるんだ」


 ツノが生え、肌が褐色になり、顔立ちが変わる。

 現れたのは、魔族。

 ハイセはすでに冷静さを取り戻し、自動拳銃を突きつけたまま言う。


「久しぶりだな、カーリープーラン」

「ああ。久しいねえ……『闇の化身(ダークストーカー)』」


 それは、『大魔盗賊(アリババ)』の頭領にして魔族。かつてシムーンを誘拐し、魔法王国プルメリアを手に入れようとした女だった。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
すっごい違和感がすごい。 めちゃくちゃ楽しく読ませて頂いてるがこの章の恋に発展しそうな描写の急展開感がすごくて違和感が半端じゃないです。 本来なら喜ばしいシーンなんでしょうが、あまりの違和感に物語が胸…
逃げてるだけと言われましてもね、レイノルドさん…… そこまで分かった上でチーム追放決定に流れになったのに、追放の提案主の心情察して答えてやれはチームメイトととしてどうなんよ……。
We could assume that whatever hatred Haise has for sasha. it is gone. otherwise you wouldnt be makin…
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