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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第十九章 しばしの休息

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双子との時間

 七大冒険者の会合が終わって数日後。

 ハイセは日常に戻り、冒険者ギルドで依頼を受けて達成、そのまま宿に戻って来た。

 宿に戻ると、カンカンと金槌の音がする。

 宿の裏に回ると、イーサンがフェンリルに新しい犬小屋を作っていた。


「あ、ハイセさん。おかえりなさい」

「ああ。それ……」

『きゃん!!』


 犬小屋を見ると、フェンリルがハイセの足下で鳴いた。

 イーサンは汗を拭いつつ言う。


「こいつ、少し大きくなったみたいで。小屋が窮屈そうだったんで、おれが新しく作ってるんです」

「へえ……」


 確かに、古い犬小屋は少し小さい。

 フェンリルを抱き上げてみると、成犬ほどの大きさだったフェンリルは、大型犬よりやや小さいくらいの大きさに成長していた。

 フェンリルにも驚いたが、ハイセはイーサンの大工の腕がかなり上がっていることにも驚いた。

 もともと、フェンリルの犬小屋は町で買った物だが、イーサンは小屋を分解し、新しい木材を組み合わせて犬小屋を拡張させている。フェンリルは尻尾を振りながら様子を眺めていた。


「器用だな……」

「初めてやってみたけど、思ったより簡単でよかったです」

「そっか。何か足りない物はあるか?」

「いえ、大丈夫です。おっと、待ってろよ……もうすぐできるから」

『きゅーん』


 フェンリルがイーサンにすり寄り甘えている。

 ハイセは仕事の邪魔をしないようにと、宿に入る。

 すると、甘い匂いがしてきた。


「んまい!! シムーンはすごいなー」

「えへへ、ありがとうございます。でも……本当に大丈夫ですか? 新しいお菓子の試食なんて」

「気にすることはないわ。エアリア、底なしだから」


 テーブルを二つ合わせ、その上には大量の料理が並んでいる。

 そして、エアリアとプレセアが試食をしていた。


「あ、ハイセさん。おかえりなさい」

「ああ」

「帰ったのね」

「ハイセ、お前も食えー!!」


 ハイセは席に座ると、シムーンがおしぼりをどこからともなく出す。

 手を拭くと、目の前に出されたのは大量のクッキー。しかも、様々な模様が描かれ、そのまま売りに出せそうな凝りっぷりだ。


「実は、新しいお菓子に挑戦してまして……プレセアさん、エアリアさんに試食をお願いしたんです。エクリプスさんにもお願いしたんですけど、食べすぎたのか今はお部屋にいます」

「何してんだあいつは……どれ」


 クッキーを口に入れる。

 カラフルな模様だと思ったが、模様の部分で味が違った。どうやら生地を複数練り込み、組み合わせて焼いたようで、かなり手が込んでいる。


「……うまい」

「やった。あ、今お茶を淹れますね」


 シムーンはキッチンへ。

 チラッと受付カウンターを見ると、新聞を読む主人がクッキーをモグモグ食べているのが見えた。ハイセを見てジロっと睨み、新聞で顔を隠してしまう。

 すると、プレセアが言う。


「あの子、すごいわね」

「ああ。確かに」

「お菓子もだけど……あの子、難関と言われるハイベルク薬学医師試験を満点合格したわ。まだ十二歳なのに恐ろしいわね」

「……何の試験だって?」

「薬学医師試験。私、特級薬師の資格を持っているから推薦したんだけど……」


 ハイベルク薬学医師試験。

 その名の通り、薬師と医師の試験。

 怪我や病気を治す『能力』があり、それら能力者が所属する『教会』という組織とは別に、自然の恩恵である薬草や、人が築き上げた技術である医学は『能力』と関係なく今も発達している。

 ハイベルク王国の薬学、医学の試験は世界最大で最難関。プレセアは世界で数人しかいない『特級薬師』であり、ハイベルク王国の試験も合格している。


「まだ早いかと思ったし、試験は四年に一度だから、今年は受けて内容を確認し、四年後に受ければいいと思ってたけど……まさか満点合格なんて」

「……マジか」

「ええ。ハイベルク薬学研究所が、あの子をスカウトしに来たわ。でも『宿のお仕事あるので』ってニコニコしながら遠慮していたわ。少し強引な方法であの子を確保しようとしていたから、私があなたの名前を使って軽く脅したけど……いいわよね?」

「そういうので使うなら『闇の化身(ダークストーカー)』も喜ぶだろうな」

「そうね。でも……これでシムーンは正式な薬師よ。開業もできるけど、あの子はそれを望まないわね」


 ハイセは思う。

 シムーン、イーサン。二人はこれでいいのだろうか、と。


「…………」

「あなた。シムーンとイーサン、このまま宿で働かせていいのか、とか思ってる?」

「…………」

「それ、二人に言わない方がいいわよ。そもそも……あの子たちの居場所はここよ。二人を救って居場所を与えたあなたが、その居場所を奪うつもり?」

「……場所を選ぶ権利はあるだろ」

「それなら、あの子たちが自分から言い出すのを待ちなさい。少なくとも今、あなたが言うのは死刑宣告みたいなものよ」

「…………」


 なんとなく居心地が悪くなるハイセ。

 確かに、プレセアの言う通り身勝手な考えだったかもしれない。

 すると、シムーンがお茶を運んできた。


「ハイセさん、お茶です。甘いのが多いので、少し苦めにしてみました」

「ああ、ありがとう……なあ、シムーン」

「はい?」


 すると、プレセアがハイセの隣に移動し、軽く足を踏んできた。

 ハイセはプレセアをジロっと見るが、プレセアは澄ました顔で無視。


「ハイセさん?」

「あ、いや……こいつから聞いたけど、難しい試験に合格したんだってな」

「難しい? ああ、薬師のですね。でもあれ、当たり前のことばかり書いてあったので簡単でした」

「そ、そうか……とにかくおめでとう。そうだ、何か欲しい物あるか? お祝いに買ってやる」

「え、そんな」

「もらっておきなさい。ハイセがそんなこと言うなんて、殆どないわよ?」


 プレセアが言うと、シムーンは少し悩み、言いにくそうに言う。


「え、えっと……じゃあ、ハイセさんとお出かけしたいです。その、町にお買い物しに行くと、美味しそうなカフェとか、お菓子屋さんがいっぱいあって……新しいお菓子に生かせるかもしれないので、いろいろ見てみたいんです」

「そんなことか。いつでも付き合ってやる」

「あと、プレセアさんも……」

「私も? ふふ、いいわよ」

「あ、イーサンとフェンリルちゃんも。いいですか?」

「いいぞ。フェンリルにはリード付けて、犬の散歩ってことにすればいいか」

「やったあ!! あ、おじいちゃんにも言ってこよっと」


 シムーンは、主人に向かって楽しそうに喋っている。

 主人は「わしは留守番」や「楽しんできなさい」とにこやかだ。シムーンは頷き、外で大工作業をしているイーサンの元へ。

 その様子を、ハイセとプレセアは眺めていた。


「わかる? 今があの子にとって最高の幸せなの。薬師の試験なんて、あの子にとってはご主人に必要だから取っただけ」

「…………」

「きっと、イーサンも同じよ。ね、ハイセ」

「……わかったよ。もう言わない」


 ハイセは諦め、そのままクッキーを一つ掴んで口に入れた。

 そして、今さら気付く。


「そういや、エアリアの奴静かだな」

「……寝てるわね」


 エアリアは、いつの間に満腹になったのか、幸せそうにスヤスヤ眠っていた。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
連載中です!
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― 新着の感想 ―
[良い点] プレセアの諌めによってハイセが誤った方向へ向かうのを阻止した点は良かった。不用意にシムーンやイーサンに発言しようものなら、追放宣言したサーシャの二の舞になるところだった。
そろそろフェンリルちゃんのエピソードも…もふもふでも肉球でも良いんやで!
[一言] 双子にとっては、今が幸せ。 ハイセにとっては、何が幸せなのか。前章とも繋いでくるのかな? 日常編も楽しみです
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