会合が終わって
会合は、無事に終わった。
バルバロスは満足したのか、ガイストと共に笑いながら退室していく。
他の冒険者たちも満足したのか、やや浮足立って帰って行った。その様子をハイセは見ていたが「たかが話し合いの何が面白いんだ」と、最後まで会合をやる意味があったのか理解できない。
すると、エクリプスの元に、王女ミュアネが近づいていた。
「あ、あの!!」
「何か?」
完全に緊張しているミュアネ。そして、完璧なまでの外面のエクリプスだ。
ミュアネはエクリプスをチラチラ見ている……王女と貴族令嬢なのだが、何も知らない者が見ればどちらが王女なのか悩むところだろう。
「あの……え、エクリプス様。わたし、ミュアネって言います。その……」
「ミュアネ王女殿下ですね。もちろん存じておりますわ」
「は、はい!! その、わたし……あなたに憧れてまして。その~……ぜひ、お友達に」
「もちろん構いませんわ。ふふ、しばらくはハイベルグ王国に滞在しますので、機会があればお茶会でも開きましょう。私、こちらではまだご友人が少ないので、お相手してくださるとうれしいですわ」
「ぜ、ぜひ!! 最高級のお茶を用意して待ってます!!」
ミュアネは嬉しいのか、お付きのメイドを置き去りにして走り去った。
なんとなく眺めていると、サーシャがハイセの元へ。
「エクリプス……ああして見ると、完成された貴族令嬢のようだな」
「確かにな。王女相手には外面で誤魔化すんだろ」
「ふ……さて、会合は終わった。私はレイノルドたちと食事に行く。お前は?」
「帰る」
「そうか。それと……近いうち、お前に話がある」
「…………」
「そう警戒するな。禁忌六迷宮、最後の一つと言えばわかってくれるか?」
「……ああ」
「ふ、ではまた」
サーシャは微笑むと、レイノルドたちの元へ。
その背中を見送ると、プレセアとクレアがハイセの元へ。
「師匠、お疲れ様です!! もう、私の質問ちゃんと答えてくださいよー」
「うるさい。ったく」
「ハイセ。お疲れ様……ね、ご飯に行かない? サンドイッチのお店知ってるんだけど」
「……ああ。そろそろメシだしな」
「ヒジリも誘ったのだけど、あの序列六位の格闘家と肉を食べに行ったわ。エアリアも一緒よ」
「絶対一緒になりたくない面子だな……まあいい。メシ行くなら案内してくれ」
「ええ。ふふ、ミートサンドイッチもあるから安心してね」
「…………」
「あ、師匠にプレセアさん、私も行きますー!!」
こうして、七大冒険者会合は幕を閉じた。
会合の意味は何だったのか? 質問をすることが目的だったのか? ハイセにはよくわからない。
サーシャは、この会合が『冒険者たちのトップである七人の戦う理由を、他の冒険者にも知ってもらうため』と推測した。
答えはわからない。だが……きっと、質問を聞いた冒険者たちや、自分の戦う意味を改めて理解できたことは、決して無駄ではないだろう。
◇◇◇◇◇◇
サーシャたちは、レイノルドの行きつけである食堂へ向かい、久しぶりに五人で食事をしていた。
「なんか、五人でご飯って久しぶりだよね~」
ロビンがニコニコしながら言うと、ピアソラも笑顔になる。
「ええ。うふふ、サーシャと一緒!! ね、サーシャ」
「ああ。クラン運営も落ち着いてきたし、こういう機会は増えるさ」
そう言うと、タイクーンが眼鏡をクイッと上げる。
「確かに……今は所属チームを四百まで減らした。減らしたというか独立のために後押しした形だが……業務も楽になり、ボクら『セイクリッド』も依頼を受けることが増えた。前は八百以上のチームを抱えていたが、やはり無理があったようだ」
「ってか、オレらは無理だったけど、おめーは普通に仕事してたよな」
「それはボクが優秀だからだ」
レイノルドのツッコみに、当たり前のように返すタイクーン。ぶっちゃけその通りなのだからレイノルドも苦笑するだけ。
サーシャは言う。
「五大クラン、か……チーム加入の申請は多いが、やはり今ほどの規模が私たちにはちょうどいい」
「同感だ。年に一度、加入申請の選抜でもすればいいだろう。今残っているチームはクラン立ち上げの予定がないS級冒険者たちと、初期から加入しているA級チームばかりだ。依頼の成功率も高く、我々が依頼を受けている間にクランを任せても何の問題もない」
「その通り。つまり……私たちも、最後の禁忌六迷宮に挑むことができるというわけだ」
サーシャがそう言うと、レイノルドたちの空気が変わる。
最後の禁忌六迷宮『ネクロファンタジア・マウンテン』だ。
「魔界にある山、だっけか」
「ああ。情報が全くないからどういう場所なのか未定。そもそも、魔界に行くことすらできないからお手上げ状態だ」
レイノルドが肩をすくめ、タイクーンも悔しそうに言う。
すると、ロビンが挙手。
「はいはーい。あのさ、魔界だっけ……あの子たち、ハイセのところにいる二人なら、なんか知ってるんじゃないの? ね、サーシャ」
「私も考えた。だが……魔界での生活は、あの二人には耐え難いものだったはず。今が幸せの最中である二人に、あまりつらい過去の話をして欲しいとは思わん……」
「サーシャらしいね。じゃあ、どうするの?」
「……ハイセに、話を聞く」
「むむむ……またあの男ですの?」
ムスッとするピアソラ。するとタイクーンが察した。
「そういうことか。サーシャ」
「ああ。タイクーンは詳しく知っていると思うが、私たちは以前、魔族のカーリープーランと取引をした。私は何度か会話したくらいだが、ハイセはそれ以上に深く関係を結んでいた……もしかしたら、カーリープーランを通じ、魔界の情報を得ることができるかもしれん」
「それだけじゃない。もしかしたら……ハイセとカーリープーランを通じて、魔界へ行くことも可能になるかもしれないな」
タイクーンが言うと、サーシャが「その通り」と言う。
「ハイセも、『ネクロファンタジア・マウンテン』を攻略することを見越して、カーリープーランとのつながりを作ったのかもしれん。一度、ハイセに詳しく話を聞いてみるべきだ」
サーシャがそこまで言うと、一時的に会話が途絶えた。
そして、ようやくサーシャたちのテーブルに、大皿料理がいくつも並ぶ。
レイノルドが軽く手をパンと叩く。
「よし!! 話はここまで、メシにするか。ここは大皿料理専門で、量も多くて味付けも濃いのが特徴でな、腹いっぱいにまるまで食えるぜ!!」
「塩分過多……やれやれ、ボクは少しでいい。って、人の皿に勝手に盛るな!! なんだこの量は!?」
「つべこべ言うなって。ほれロビン、おめーも」
「やったー!! しょっぱいの好きかも~」
「私は自分でよそいますわ。塩分の取り過ぎはお肌に……ってサーシャ!! そんなにいっぱい食べるんですの!?」
「だ、だめか? お腹空いたし……」
こうして、久しぶりに『セイクリッド』の五人は、楽しくも騒がしい食事をすることになるのだった。





