七大冒険者会合④
七大冒険者たちの会話が一息つくと、バルバロスが挙手。
「では、ワシから七大冒険者たちに質問だ。きみたち、将来の自分について語ってくれないか。まずはハイセ、頼む」
「……将来」
明確な『将来』について、ハイセに答えはない。
だが、ぼんやりと考えていることはある。
「俺はまあ……禁忌六迷宮を攻略した後も、普通に冒険者やってると思う。まだまだ弱っちい弟子も育てなきゃいけないし、持ち込まれるヤバそうな依頼もあるし……まあ、死ぬまでなんて言うつもりはないが。…俺の人生は冒険者と共にあるし…」
「なるほどな。お前らしいというか……」
バルバロスは笑った。
「だが忘れるなよハイセ。お前はハイベルグ天爵だ。引退後にお前に与える土地はもう見繕っているんだからな? ああ、やりたいことがあるなら今のうちに考えておけ。農場をやるのもいい、家畜を育てるのもいい。どんな我儘を言っても許される功績がお前にはあるのだからな」
「……ど、どうも」
「もちろん。嫁さんも一緒にな。はっはっは!!」
国王という肩書はあるが、仮になくても勝てそうにない人間……ハイセはそう思った。
そして、バルバロスはエクリプスを見る。
「きみは将来をどう考えている?」
「…………」
エクリプスはハイセをチラッと見て、少しだけ目を閉じ……静かに開く。
「クランは信用できる後継に任せて、私は引退ね。何かをしたいわけじゃないし、平穏に、静かに暮らすと思うわ。まあ……私が生きていればだけど」
冒険者は、命の危機が常に隣にある。
それが例え序列二位のエクリプスでも同じ。ある日突然、ゴブリンの棍棒で殴られて死ぬことだってあるのだから。
ヒジリはつまらなそうに椅子にもたれ、頭の上で腕を組んだ。
「アタシは戦いの人生だし……まあ、考えてることはあるけどね。まあそれは内緒」
サーシャはヒジリをチラッと見た。
以前、ハイセと結婚と言っていたが、この場で言うとハイセに迷惑をかけるから言わないのだろう。そのくらいの配慮はできるようだ。
サーシャは言う。
「私もエクリプスと同じだ。信用できる者にクランを任せた後は……私の人生を歩む。まあ、具体的なことは何も考えていないというのが現状だがな」
将来───……サーシャにとって実感のわかない、いわば未知の領域だ。
女であるなら結婚、そして自分の子供を持つという考えもある。
でも、まだそこまで具体的に考えるほど、大人ではない。
ウルは軽い感じで言う。
「オレは稼いだ金でバーのマスターにでもなろうかね。経営はしてるが、店は任せっきりだしな……オレの考えたオリジナルカクテルのレシピも大量にあるし、いずれは……なんてな」
どこまで本気なのかわからない言い方だ。
その話を聞き、シグムントが「はっはっは!!」と笑う。
「オレは幸せな家庭を築くぞ!! 息子が生まれたら技を伝授したい。ああ、道場を開くのもいいな。クラン運営もあるし、これからの人生は楽しいことばかりだな!!」
底抜けに明るい。シグムントのいいところだろう。
すると、エアリアも笑った。
「あっはっは。兄ちゃんなんか明るいな。あたい気に入ったぞ!!」
「はっはっは!! ありがとう、少女よ」
「エアリア!! じゃなくて『空の支配者』エアロ・スミス!!」
「はっはっは!! すまんな、エアリア殿。その名、『カッコいいと思い冒険者登録するときに考えた名前』だな?」
「な、なぜそれを……!?」
「オレも同じことをして、母上に殴られたからだ。カッコいい名だと思うぞ!!」
「兄ちゃん、さっすがわかってる!!」
「うむうむ。さてエアリア殿、きみは将来どうしたい?」
「ふふん。あたいは『空の支配者』だ。飛べる限りはずっと空を飛ぶぞ!!」
「おお、素晴らしいな!!」
エアリア、シグムントは何故か盛り上がり、バルバロスですら口を挟めなかった。意外……でもなく、この二人は相性がよかった。
それぞれの話を聞き満足したのか、バルバロスは言う。
「七大冒険者でも、それぞれ将来を考えている。若き冒険者たち、今の栄光に手を伸ばすのもいいが、将来を見据えて冒険するということも大切ということだ」
そして、S級冒険者やA級冒険者に向けて、バルバロスは言った。
将来……戦い、依頼をこなし、金を稼ぐだけが冒険者ではない。
冒険に終わりは来る。バルバロスはそのことを伝えたかったのだろう。
ガイストが補足する。
「冒険者の数は増えていると先ほど言ったが、冒険者協会として、引退した冒険者を講師として雇い、能力の使い方や戦い方を学ぶ場を作ることも考えている。聖アドラメルク神国にある冒険者専用の学園みたいにな」
それはハイセも初耳だった。
以前、ガイストもアドラメルク神国に行ったが、学園の下見をすることも理由だったのかもしれない。
バルバロスの質問が終わり、傍聴している冒険者たちの質問となった。
質問に、それぞれ指名されたS級冒険者が答えるのだが。
「あの、エクリプス様……その、あなたのクランに加入するにはどうすれば」
「プルメリア王国に行ってちょうだい」
「あの、クラン『セイクリッド』に加入するには……」
「すまない。今はクラン加入の受付はしていない」
メインは二人、サーシャとエクリプスに質問が殺到する。
特に、クランに加入するにはどうすればいいのか? という当たり前のことばかり。どうやら、ここで発言して名前を憶えてもらうという算段らしい。
そんな質問ばかりが続き、ハイセが飽き飽きし始めたころ。
「A級冒険者プレセア。ハイセに質問……」
「……」
そういえばこいつがいた、とハイセは思った。
視線だけを送ると、プレセアが立ち上がる。
「……ハイセ。あなたの好きな食べ物、教えてくれないかしら」
「……は?」
「あるでしょ。一つくらい」
「…………」
「決まってんじゃん。パンケーキでしょパンケーキ。蜂蜜とクリームたっぷりの!!」
「お前黙ってろ。あと違う」
茶化すヒジリ。プレセアも真に受けてはいないようだ。
特に知られても困らないのでハイセは言う。
「……ミートサンドイッチは好きだな」
「ミートサンドイッチ……わかったわ」
「おい、何考えてる」
「別に? 質問は以上よ」
プレセアは座った。
この場にいた勘のいい『女子』は『作る気だな』と思っていた。
プレセアがハイセのことを特別視しているのは、そこそこ有名な話だった。
そして、クレアが挙手。
「はい!! 師匠に質問です!!」
「…………」
どうも嫌な予感がするハイセ。
クレアはどこかワクワクしながら言う。
「師匠の好きな女の子のタイプを教えてください!!」
「却下」
「そんな!? もう、真面目に答えてくださいよー」
「生涯独身で生きる。はい終わり」
「ひどい!!」
ハイセは適当に答えた。案の定、クレアは関係のない質問をブッ込んできた。
普段では、まともに質問しても答えてくれないと思ったらしく、国王やガイストもいる場でなら言うかも……と考えての発言だが、誰の前だろうとハイセは変わらないだろう。
どこか不満そうなクレアだが、プレセアが指を鳴らすと口がピタッと閉じてしまう。
「むむむー!!」
「あなた、静かになさい」
「むぅぅ!!」
この時ばかり、ハイセはプレセアに感謝するのだった。





