七大冒険者会合③
七大冒険者会合が始まった……が、ハイセはいまいち何をするのかわからない。
ただ、目の前にいる七大冒険者たちは、間違いなくこの世界の冒険者代表ともいえる七人だ。特に、ハイセとサーシャは、禁忌六迷宮を五つ踏破した『生きる伝説』ともいえる。
ガイストは立ち上がる。
「それではこれより会合を始める。さて……七大冒険者の諸君。事前に何をするか聞いていないと思うのでわからないことだらけだと思うが、それは先入観や摸擬回答などなく、聞かれたことを答えて欲しいということだ。今回は会合というより、質疑応答がメインとなるだろうな」
ガイストは、ハイセを見ながら言う。
なんとなくハイセは「やられた……」と思った。質疑応答がメインとなれば、聞かれたことに答えなくてはならない。面倒くささアップである。
「ある程度の質問はある」とガイストに言われていたが、少し騙された気分のハイセだった。
すると、国王バルバロスが挙手。
「はっはっは。若い冒険者たちはきみたちに質問したいことが山ほどある。確か、ここにいる者たちは、将来有望なクランを率いる者と、同じく有望な若者たちと聞いた。彼ら彼女らに、きみたち七大冒険者からアドバイスをしてほしい」
冒険者の数は、年々増えている。
それでも、魔獣の数は一向に減らず、魔獣による被害は増えている。
国を守るのが騎士や兵士なら、それ以外を守るのが冒険者ともいえる。
ガイストは言う。
「最近の調査で、『能力』を持って生まれる者が増加傾向にあると報告もあった。これまでは全人口の四割の人間が能力を持つと言われていたが……今では五割と増えている。冒険者を志す者も増えるというわけだ」
サーシャは「なるほど……」と思った。
現在、クラン『セイクリッド』の加入チームはかなり減った。
クランを脱退し、新たにクランを立ち上げる冒険者チームが増えたから。
それと同時に、冒険者チームも増えているようだ。新たに立ち上げたクランに加入する新人冒険者チームが増えているからである。
(恐らく、これからはクラン設立と新人チームの加入が主流になるだろう)
これまでは、古参のクランに新人チームが加入し、そこで成長して冒険者等級を上げ、クランを脱退して新たなクランを立ち上げる……という方法だった。
これからは、クラン発足と同時に新人チームを加入させ、一緒に成長していくことになるだろう。
ガイストはさらに続ける。
「まだ検討中ではあるが……クラン設立はS級冒険者のみという決まりだったが、これをA級冒険者も可能にするという案も出ている。もちろん、厳重な審査が必要になるがな」
これには、傍聴していたA級冒険者たちも驚いていた。
プレセア、クレアをチラッと見るハイセ。だが二人はあまり興味がなさそうだ。
「今回の会合で、七大冒険者たちの経験、気になることを聞き、皆の経験にするといい。では……まずは七大冒険者諸君、それぞれ気になることがあれば、質問をしてくれ」
そう言い、さっそくヒジリが挙手。
「はいはーい!! ふっふっふ……ハイセに質問!! アンタの武器、どーいう原理なの? ちっちゃな鉄の塊飛ぶってことしかわかんないんだけど!!」
「アホか。自分の手札晒すわけねぇだろ」
「むー、ちょっとくらいいいじゃん!! ここにいるみんなも気になってるし!!」
確かに……と、この場にいる半数以上が心の中で思った。
ハイセはため息を吐き、腰の自動拳銃を抜いてクルクル回転させる。マガジンから弾丸を取出しテーブルに置いて見せた。
「これが本体の自動式拳銃。そしてこの弾丸を発射する武器だ。威力はそこそこ、反動も少ないからメインで使ってる。まあ、近~中距離なら魔法の障壁も軽く貫通する」
「……むー、すっごい威力じゃんそれ。ちっちゃい鉄の塊なのにさー」
ムスッとするヒジリ。
ハイセはマガジンを装着すると続ける。
「不思議だよな。人間の身体って、数センチの穴が空いただけで、命の危機だ。こいつはそういう武器……どんな相手だろうと、命に穴を開ける」
ゾッとするような声だった。
ハイセとしては普通に話しているのだが、ハイセはS級冒険者序列一位『闇の化身』……言葉の重みが違う。
ハイセは自動拳銃をホルスターに戻すと、今度はエアリアが言う。
「はいはーい!! あたいからサーシャに質問っ!!」
「私か?」
「うん!! サーシャってば川の水で髪洗ってもサラサラしてる。あたいは川の水で洗うとゴワゴワになるけど、なんか秘密あるのかー?」
「それは冒険者と関係ないだろう……」
「さっき思いついたのだ。ねえ、なんで?」
「……いや、意識したことはないが。髪質……うーん」
真面目に考えてしまうのがサーシャだった。
ウルがクックと笑い、会議室はやや柔らかい雰囲気になる。
サーシャの答えは「髪質」ということになった。そして、エクリプスが挙手。
不思議と、空気が張り詰める……ハイセとは別の意味で、エクリプスは存在感があった。
「序列六位さん、あなたに質問……」
「ん? オレか?」
意外も意外……なんとエクリプスは、シグムントに質問した。
「あなた、結婚するって本当?」
「おお、もちろんだ!! はっはっは、恥ずかしいな!!」
「……祝福させてちょうだい」
「ああ、ありがとう!!」
……質問終了。
全く意図が理解できず、傍聴していたS級冒険者たちが首を傾げていた。
S級冒険者序列二位『聖典魔卿』エクリプス・ゾロアスター。ハイベルグ王国ではほとんど情報がない、未知の存在。
最近、ハイベルグ王国に来た。そしてその姿はまさに『姫』のような、『窓際の令嬢』のような、儚さもあり高貴さも感じられる容姿。
王族であるミュアネは、エクリプスを見て頬を染めていた……憧れているのだろうか。
次に質問をしたのは、サーシャだった。
「私から、ウル殿に質問をしたい」
「オレかい? へへ、ディナーのお誘いなら喜んで」
「ふ、私は高いぞ?」
「おお、そりゃ怖い」
冒険者らしい『返し』に、ウルは苦笑……サーシャも強かになっていた。
「あなたはなぜ、冒険者に? 何を目標としている?」
「……ああ、理解できないと思うぜ? オレはただ、自由になりたくて冒険者になっただけさ」
「……自由」
「ああ」
ウルの視線が一瞬、傍聴席にいるロビンに向いた。
ロビンは知っているのか、少しだけ悲しそうにしている。
「狭い後戻りのできない道を進むネズミには、大空を舞う荒鷲の気持ちはわからねぇ。オレは荒鷲になるために、過去の自分を捨てて生まれ変わったのさ……そして、自由の翼を手に入れた」
「…………」
「わりーなサーシャちゃん。こっからは有料だ」
「……そうか」
満足したのか、サーシャは頷いた。
関係ない話も混ざっているが、七大冒険者たちの会話は絵になった。
そして、シグムントが挙手。
「ハイセくん。質問ではないがいいかな?」
「……何」
「以前、軽く手合わせをしたことがあったが……どうすればキミを本気にさせることができる? 叔父上の修行を乗り越えたキミと、能力なしで戦ってみたいのだが!!」
「……パス。俺の強さはそんな高潔なものじゃない。俺の強さは、武器あっての強さだ。能力なしの戦いじゃ、あんたには勝てないよ」
「オレはそう思わない。少なくとも……オレは五分五分と思っている」
「そう思うならそれでいい」
ハイセはそれ以上答えるつもりがないのか、シグムントはやや不満そうだった。
しばらく沈黙が続く……そして、ガイストが言う。
「さて。そろそろ、S級冒険者、A級冒険者たちの質問に入ろうか」
そう言うと、どこかワクワクしたようなクレアとハイセの目が合うのだった。





