ガイストのお願い①
遅くなり申し訳ございません。
修羅場抜けたので更新再開します!
「……で、オレにその会合に参加しろって?」
ある日。
七大冒険者序列五位『月夜の荒鷲』ウル・フッドの経営するバーに現れたガイストは、ハイベルグ王国に七大冒険者が揃うことを説明。
せっかくなので顔合わせしないか、という案を話すと、ウルは微妙な顔をした。
「オレは群れるのが嫌いな荒野の荒鷲……それくらい知ってるだろ、旦那」
「まあな。だが、こんな機会は滅多に……いや、これから先もないだろう。冒険者たちの未来を担う一人として、ぜひ参加してほしい」
「未来ねえ……ちょっと強いだけの冒険者が顔合わせするってだけで、未来もクソもねぇだろ?」
ウルはブランデーを飲み、グラスを揺らして氷をカラカラ鳴らす。
ガイストも同じようにブランデーを飲み、マスターにおかわりを注文した。
「ハイセもだが、お前も自分の評判を気にしないタイプだな」
「まあな」
「七大冒険者は、新人には憧れ、熟練には敬意の視線が向けられている。先日も冒険者になったばかりの子供たちがいたが、皆、サーシャやヒジリの強さに憧れを抱いていたぞ」
「へえ……」
「ハイセはまあ……恐れられていたがな。だが、そんな七大冒険者たちがハイベルグ王国に集い、顔合わせをするというだけで冒険者たちにとっては刺激になる」
「そうかねぇ……」
ウルは気乗りしないようだ。
ガイストもそんな気はしていたのか、グラスを置く。
「交換条件だ」
「交換条件?」
「ああ。会合に参加するなら、お前の望みを叶えてやろう」
「ははっ、なんだそれ? なんでもか?」
「ああ。何か望みはあるか?」
ウルは少し考え───……ガイストに向かって指を向けた。
「そうだな、三十年ほど前に伝説となった『毒王』との戦いで最強の冒険者と呼ばれた『武の極』ガイスト……あんたの全力を見たいと言ったら?」
「いいだろう」
「……えっ」
「だが、見ての通り歳でな……全盛期の半分以下ほどの力しかないが、相手になろう」
五十代後半、まもなく初老を迎える男。
ギルドマスターとしての貫禄はもちろん、熟練冒険者たちの間では『最強はハイセではなくガイスト』と言われるほどの男が、ウルに向かって微笑んだ。
それだけで、ウルは背中に冷たい汗が流れた。
ハイセの師であり、かつての最強……そんな男の『全力』が見たいと言った自分。全力をぶつける相手は? ガイストが見ているのはウル。
ウルの鼓動が高鳴る。
アイテムボックスから『超接近戦用』の弓を出し、矢を番え、心臓を狙って射るのに一瞬。
「やめておけ。ワシなら十二回は殺している」
「ッ」
だが、『どうすべきか』を思考しただけで読まれ、止められた。
汗が流れ落ち、ウルのグラスにぽちゃんと落ちる。
「すまないな。遊びが過ぎた。で……望みはあるか?」
「……ははっ、何が全盛期の半分以下だ。とんだ狸だな」
「ふむ、意味がわからんが」
「いいぜ。負けだ負け……その会合、参加する」
「感謝する。ならせめて、今度はワシの奢りで、ワシの行きつけに行こうか」
「ああ」
「では、詳細が決まり次第連絡する……馳走になった」
そう言い、ガイストは店を出た。
震えて呼吸すら忘れかけていたマスターにウルは言う。
「きついのくれ。っぷは……あのバケモノ。荒鷲を捕食するバケモノタヌキじゃねぇか」
ウルは濃度の高いブランデーを一気に飲み欲し、ガイストに対して愚痴るのだった。
◇◇◇◇◇◇
ガイストに呼び出されたサーシャは、ウルと同じ話を聞いた。
「七大冒険者の会合、ですか」
「ああ。どうだ?」
「わかりました。参加させていただきます」
ウルのようにゴネることなく即答。
ガイストは苦笑する。
「七大冒険者の中で、お前が一番素直だろうな……」
「え?」
「いや。ところで、クランの方はどうだ?」
「順調です。狂乱磁空大森林の件ではみんなに迷惑をかけましたが……でも、今はクラン運営と合わせて、チーム『セイクリッド』として依頼を受けたり、ソロで依頼を受けてみることも増えました」
「そうか。ふふ……チームがクランとなり、クラン運営だけにかまけて冒険者活動を終える若者を多く見てきたが、お前にその心配はなさそうだ」
「……ハイセのおかげです」
「……ハイセ?」
意外な名前に、ガイストは驚いた。
「狂乱磁空大森林で、ハイセと話す機会があって……『たまにはソロで冒険者やってみろ』って。それで、ソロで依頼を受けたり、仲間と依頼を受けたりして、やっぱり『セイクリッド』はチームで活動するのが一番ということになりました」
「ははは。そうか……ハイセが」
「はい。あ、でもクランをおざなりにするというわけじゃなくて」
「わかっている。肝心なのは両立だ。お前なら心配あるまい」
サーシャは基本的に不器用だ。一方、タイクーンやレイノルドは器用であり、レイノルドは盾士としてハイベルグ王国では五指に入る実力だ……しかしガイストはレイノルドの管理能力や経営者としての手腕こそ評価をしていた。
人望も厚く、カリスマもあり、下の者から慕われている。
サーシャが『憧れ』だとしたらレイノルドは『頼れる兄貴』だ。それも、トップクラスの。
ピアソラ、ロビンもそれは感じているだろう。
「よし。ではサーシャ、チーム『セイクリッド』に指名依頼を出す。ハイセに任せようと思っていたが……今の『セイクリッド』を見たくなった」
ガイストは机の引き出しから一枚の依頼書を出し、サーシャに渡す。
「討伐レートSS、『ブラッドオレンジ・ドラゴン』の討伐依頼だ。ハイベルグ王国から北にあるティルダ山脈で目撃され、討伐に出たS級冒険者チームが犠牲になった……やれるか?」
サーシャは依頼書を確認、力強い笑みを浮かべて頷いた。
「お任せください。チーム『セイクリッド』で倒します!!」
「ああ。ワシも同行するから、護衛は頼むぞ」
「はい!!」
サーシャは仲間たちに説明すべく、ギルマス部屋を出た。
ガイストは椅子にもたれかかり、ポツリと言う。
「さて、あとは……ハイセとヒジリ、シグムントにエアリア、エクリプスに会合の説明をしなくてはな」
話はしたが、正式な願いはしていない。
シグムントはともかく、残りの四人は話を聞いてくれるのか……やや不安になるガイストだった。





