踏破完了
禁忌六迷宮『狂乱磁空大森林』の踏破。
そのニュースは五大クラン『神聖大樹』のクランマスター、アイビスからの報告により、ハイベルグ王国を中心に一気に広まった。
何千年も表舞台に現れることがなく、存在自体が怪しまれていた森の存在。
現在、『玄武王アクパーラ』はユグドラ王国の森で手足を引っ込めた状態で眠りについている。アイビス曰く『怖がって顔を出そうとしない』らしい。
そして、こんなことも言っていた。
「まあ、時間はいくらでもある。わしがゆっくり、可愛い亀ちゃんの心を開いてみようかの。ふふふ、老後の趣味ができたわ」
と、嬉しそうに語ったそうだ。
ユグドラ王国は手足を引っ込めた『玄武王アクパーラ』の背中にある森を『アクパーラの森』と名付け、管理をアイビスに一任。アイビスは高レートの魔獣がユグドラ王国の森に出ないよう管理をしている。
新たな危険地帯となったアクパーラの森だが、そこには図鑑登録されていない何百種類以上の魔獣や薬草の宝庫であり、クラン『神聖大樹』に加入希望する冒険者やクランが増えたという。
さらに驚かれたのは、踏破者たち。
七大冒険者序列一位『闇の化身』ハイセ、序列三位『金剛の拳』ヒジリ、序列四位『銀の戦乙女』サーシャ、序列七位『空の支配者』エアロ・スミスことエアリア。そしてハイセの弟子(公認)のクレアというメンツだ。
一時、ツンドラ山脈で行方不明になったハイセとクレアだが、何とかツンドラ山脈を脱出したところで、アクパーラの森に踏み込んでしまったという報告がフリズド冒険者ギルドにも届き、冒険者一同を安堵させたという。
そして、同じように偶然、休暇中だったサーシャと暇をしていたヒジリが巻き込まれ、ハイセたちを捜索していたエアリアも巻き込まれ、五人での挑戦となり、踏破したことになった。
ハイセは踏破後、フリズド冒険者ギルドに「心配かけた、もうハイベルグ王国に戻る」とだけ手紙を送り、クレアは『ダフネ』の偽名で同じような手紙を送った。ただ、『クレア王女殿下へ』と書かれた分厚い手紙も添え、中を見ないようにフリズド冒険者ギルドのマスターへ送ったそうだ。きっと手紙は王女殿下の元へ届くだろう。
サーシャは休暇中だったので『行方不明』にはならなかったが、ヒジリと一緒にいたところで『狂乱磁空大森林』に巻き込まれたことを仲間に報告。
こればかりはどうしようもない事故なので特に咎められなかったが、禁忌六迷宮を仲間たちと攻略できなかったことを悔やみ、逆にレイノルドたちを心配させた。
プレセアは、ひと月ほど『アクパーラの森』を調査するため、クラン『神聖大樹』に協力するためにユグドラ王国に残った。アイビス曰く『この仕事が終わったらS級冒険者に推薦する』とのことらしい。
すでに二つ名は『草麗の妖精』とアイビスが決め、プレセアは「別にどうでもいいわ」と興味なさげだとか。
ハイセたちは宿に戻り、いつも通りの生活に戻った。
今まで留守だった分、エクリプスがハイセに甘えるよう近づいて来たり、ハイセはそれを無視したり、シムーンの料理の腕が上がっていたり、クレアに差を付けられたイーサンがヒジリに厳しい指導をお願いしたりと、騒がしい毎日だった。
こうして、禁忌六迷宮『狂乱磁空大森林』を踏破したのだった。
◇◇◇◇◇◇
「───……まあ、こんな感じです」
「なるほどな」
狂乱磁空大森林の踏破から一週間後、ハイセはようやくユグドラ王国から戻り、ガイストに報告。
ハイセはハイベルグ冒険者ギルドで、狂乱磁空大森林に巻き込まれた経緯、そしてその後のことを説明……話終えると紅茶を飲みのどを潤した。
ガイストはソファに深く腰掛け苦笑する。
「波乱万丈……お前のためにあるような言葉だな」
「勘弁してください……」
「ところで……これからどうするんだ?」
ガイストがそう言うと、ギルマス部屋のドアが開きミイナが入ってきた。
「ハイセさん!! おかえりなさい!!」
「お前、ノックくらいしろ」
「まあまあ。久しぶりのギルドですし、いいじゃないですか。それと……」
すると、ミイナを押しのけエアリアが入ってきた。
「よ、ハイセ!! 遊びにきたぞー!!」
「お前な、なんでいるんだよ。フリズドに帰れ」
「えー、手紙送ったし、しばらくハイベルグ王国を観光するぞ!! それと、クレアから聞いたぞ。お前の宿、まだ部屋空いてるんだろ!! あたい、今日からそっち行くぞ!!」
「…………本気で勘弁してくれ」
宿の部屋は六部屋ある。二つはハイセ、二つはエクリプス、一つはクレアが使っているので、残りは確かに一部屋ある。
ちなみにハイセ、シムーンが『ほかにお客様来ないかな』とボヤいていたのを聞き、今使っている部屋の道具を全て収納し、部屋を開けようと考えていたところだった。
「むふふ。クレアが言ってたぞ、お前の宿のメシうまいって。それにお風呂もあるって!! あたい、お風呂とか年に一回くらいしか入れないし、楽しみだぞ!!」
「…………」
「じゃ!! しばらくこっちにいるから。あ、おっさんギルマス? あたいは『空の支配者』エアロ・スミス!! よろしく!!」
そう叫び、エアリアは行ってしまった。
ハイセは本気で頭を抱え、静かだった宿がさらに騒がしくなることに頭を痛めた。
すると、ガイストが考え込む。
「ふむ……」
「……ガイストさん?」
「いや。ちょうどいい機会だと思ってな」
「え?」
「近々、ワシの甥っ子……シグムントがハイベルグ王国武道団の指導員として来ることになっている」
「武道団?」
「武器を持たぬ王族の護衛だ。場所によっては武器を持ち込めず、他国とやり取りをすることもある。そういう時に徒手空拳で戦える人が必要なんだ。昔、ワシも陛下の護衛をしたことがある」
「へえ……」
「と、話が逸れた。シグムント。つまり、S級冒険者序列六位『技巧の繰手』がハイベルグ王国に来る。そして、序列二位『聖典魔卿』に序列七位『空の支配者』、お前、サーシャ、ヒジリ。序列五位『月夜の荒鷲』は例の酒場に行けばいるだろう……つまり、七大冒険者がハイベルグ王国に揃ったということだ」
「…………まさか」
ガイストは頷き、ニコッと微笑んだ。
「一度、全員で顔合わせするのもいいだろう……どうだ、興味出てきたか?」
「いえ別に」
ハイセは即答したが、ガイストはどこか楽しそうに笑うのだった。
 





