七大災厄『白帝樹ガオケレナ』③/正体
「白い木……こうして見ると不気味だな」
サーシャがそう言った瞬間、地面が盛り上がり根が飛び出してきた。
クレア、サーシャが横っ飛び。クレアは闘気を全開にして根を切断する。
「けっこう硬いです!! でも、斬れます!!」
「よし……では私は」
サーシャが走る。
走るサーシャを狙い、地面から根が、そして幹から伸びる枝が、枝から産まれ飛んで来る種が向かってくる……が、サーシャは全てを躱し、幹の傍まで一気に到達。
そして、闘気で刀身を強化し、思い切り斬撃を喰らわせた。
すると、幹が傷つき、ばらばらと殻のように剥がれる。
「む?」
サーシャは気付いた。
同時に、幹から無数に棘のような枝が伸び、サーシャを串刺しにしようとする。
だが、サーシャはバックステップをしつつ剣を振り、全ての枝を叩き切った。
そのままバク転で距離を取り、銃を連射していたハイセの傍まで来る。
「ハイセ、一つわかったことがある」
「なんだ?」
ハイセはマガジンを交換しつつ、無数に放たれる『種』を打ち落とす。
上空ではエアリアが、放たれる種を蹴り飛ばし破壊。
ヒジリも種を殴り蹴り、クレアは地面から生える根をとにかく斬りまくっていた。
「幹を斬ってわかった。あれは外殻だ」
「外殻?」
「ああ。本体を覆うように、白い物質……恐らく骨だろう。骨で覆っている。あれを全て剥がせば、本体に辿り着くだろう。全貌はわからんが、アレは『樹』じゃない可能性もある」
「やっぱそうか。よし」
ハイセはベレッタをクルクル回転させてホルスターに収納。右手を掲げると、巨大な『|バレットM82
《アンチマテリアルライフル》』を顕現させる。
本来なら固定して使う対物ライフルだが、ハイセはそのまま構える。
そして、引金を引く。
ズドン!! と、12.7x99mm NATO弾が発射された。
根を、種を、枝を一気に貫通し、木の幹を貫通する。
「っつ……相変わらず、ふざけた反動だ」
「び、びっくりした……な、なんて威力だ」
サーシャが驚愕する。
すると、弾丸が貫通したせいか、ガオケレナの動きが激しくなった。
本体が、自身を傷付ける可能性がある攻撃を受け、本能で暴れ出したのだ。
「わわわ、師匠ぉぉ~!!」
「おわぁぁ!? じ、地震っ!?」
すると───地震が起きた。
周囲に張り巡らされた根が、一気に動き出したのだ。
立っていられないほどの揺れに、ハイセとサーシャが膝を付きかけた時。
「はっはっは、世話の焼ける!!」
エアリアが、鎖を垂らす。
ハイセが掴むと、ヒジリがハイセの腕に飛びつき、クレアが背中に、サーシャが「え、え」と迷いつつ、顔を赤くしながらハイセの胸に飛び込んだ。
四人は一気に上空へ。ハイセはかなりキツそうに言う。
「お、重い……」
「し、師匠!! 女の子に重いとかダメですっ!!」
「アタシは軽いし!!」
「わ、私もだ。エアリア、お前は重くないのか?」
「べつに!。鎖は腰のベルトに付けてるし、この程度の速度ならな!飛んでる時は重いとか感じないぞ」
「俺だけか……おい、支えてるから攻撃は任せるぞ」
ハイセは鎖をしっかり掴み直す。だが、両腕が塞がっているので攻撃できない。
するとクレアがハイセの背中にしがみ付き、剣を一本だけ抜く。
そして、闘気で身体を覆い、切っ先をガオケレナに向ける。
「『青の弾丸』!! 連射っ!!」
切っ先から、青い闘気の弾丸が連射される。
だが、いかにクレアが闘気の放出に優れていても、ハイセの弾丸には遠く及ばない。
種の打ち落としくらいしか効果がない。
エアリアは言う。
「ハイセ、どーすんだ!! あたいでも避け続けるの厳しいぞっ!!」
「……あ!! そうだ、エアリア!! 上空だ、この木の中心、空洞だったよな!!」
「あ!! よーし!!」
エアリアが上昇する。
頭痛に顔をしかめるハイセたちだが、ハイセは言う。
「サーシャ、ヒジリ!! この木を真上から見ると、真ん中が空洞になっている。お前たちで突っ込んで中からブチ壊せ!!」
「な、何だと!?」
「豪快!! アタシそういうの大好き!!」
「し、師匠!! 私は!?」
「お前は俺と援護だ!! エアリア、いけるか!?」
「ああ!! 今、すっごく楽しいぞ!! なあお前ら!!」
エアリアは生き生きしていた。
冒険、そして仲間との命懸けの戦いなのだ。冒険者として燃えないわけがない。
サーシャは苦笑した。
「やれやれ……こうなったら、やるしかないな。ヒジリ、いけるな?」
「あったり前!! くっふ、マジで最高の展開っ!!」
「よーし、私だって!! 師匠、やりましょう!!」
「おう。よしエアリア、行け!!」
ハイセは叫ぶと、エアリアが一気に上昇。
急激な頭痛───だが、エアリアはそれを無視。
ガオケレナの攻撃射程範囲外まで飛び、今度は急降下する。
そして、ハイセは叫ぶ。
「今だ、行け!!」
「『闘気全開』!!」
「鉄塊精製!! 『超鋼盾』!!」
サーシャは全身を白い闘気で包み、ヒジリは身を守るように巨大な『鋼の盾』を出現させる。
上空から落下してくるサーシャたちに気付き、ガオケレナがこれまでにない数の枝を伸ばす。そして、枝の先端から大量の種を飛ばしてくる。
「クレア!!」
「はい!! 私だって……『青の機関銃』!!」
ハイセはエアリアから飛び、ガトリング砲を手に連射。
クレアも双剣から無数に闘気の弾丸を連射し、サーシャたちの道を切り開く。
弾丸を叩き落とし、サーシャは闘気を剣に纏わせた。
ヒジリも、巨大な『金剛の拳』を作り出す。その形状は拳ではなく『手刀』だった。
「白帝剣!! 『白帝神話大剣』!!」
「『金剛拳・手刀』!!」
白銀の闘気剣と金剛の手刀が、ガオケレナの頂上の穴から入り込み、一気に両断した。
真っ白な大木が粉々に砕け散った。
そして、落下するハイセたちを、エアリアが空中で回収……ゆっくり地上に降下し、降り立った。
ハイセはベレッタを抜き、ガオケレナがあった位置に向ける。
そこには……白い木の欠片がクレーターのように積もっていて、大木の陰もない。が、中心に何かがある。
サーシャは闘気を解除し、落ちていた白い木の欠片を見た。
「やはり木ではないか……この軽さ、骨だ」
「……見ろ、本体だろう」
ガオケレナがあった位置、その中心にいたのは……真っ黒な『骸骨』だった。
妙な骸骨だった。柱に括られ焼かれたような状態だ。
確実に骨。生きているわけがない。
だが、ハイセたちはこの黒い骸骨こそが、ガオケレナの正体だと気付いた。
全員でゆっくり近づくと……黒い骸骨の周囲に、大量の金属片が散らばっている。
「これは……鉄?」
「……機械ってやつか」
「きかい? なにそれ? クレア知ってる?」
「い、いえ……」
原型が不明だが、それは機械部品だった。
この部品、そして骸骨が何かをしたおかげで、この『白帝樹ガオケレナ』は生まれたのだろうか。詳しい文献など残っていないし、答えは誰も知らないだろう。
しばし、全員が沈黙する……すると。
『オォォォォォォォォォォォ───……』
突如、獣の叫ぶ声のような音が響いた。
いきなりのことで驚くハイセたち。当然だが、ガオケレナに支配されていた『玄武王アクパーラ』が、ガオケレナが死んだことで意思を取り戻したことによる咆哮だとは気づかない。
サーシャは言う。
「……これで、踏破……ではないのか?」
「あたいは早く帰りたいぞー……お? なんだこれ」
すると、エアリアが落ちていた『本』を拾った。
機械部品の傍に落ちていた本。ハイセは目を見開き、エアリアから奪い取る。
「見せろ!!」
「うっわ!? おい何すんだ!! このやろー!!」
「悪い。ほれケーキでも食ってろ」
「もらう!! ん~疲れた時は甘いのが最高だ!!」
「あ、ずるいアタシも!!」
「師匠、私も欲しいです!!」
ハイセは無視。本をペラペラめくる。
「英語と、ニホン語……日記みたいなモンか? この黒い骸骨の所有物……なのか? 何があったのかわかるかもしれん」
「……とりあえず、少し休もう。ハイセ、私はこの骸骨を埋葬したい……それに、この大量の骨も……祈りを捧げるくらいはいいだろう」
こうして、ガオケレナとの戦いが終わった。
禁忌六迷宮『狂乱磁空大森林』の踏破まで、もう少し。