七大災厄『白帝樹ガオケレナ』②/空中戦
「「───……!!」」
ヒジリとサーシャは、同時に振り返った。
全く同じ動きだったのでクレアがビックリする。何かを察知した二人は一点を見つめ、動かない。
そして、サーシャがヒジリに言う。
「……これまでにない気配を感じた」
「奇遇ね。アタシも同じ。隠れていたデカい気配が急に出てきたような……くふふ、ゾクゾクする」
「ハイセ、エアリアの二人が向かった方向……そしてこのタイミング。恐らく、二人が中心に到達し、何かをした」
「で……そのデカいのが現れて、バトル開始ってところね!! やっぱずるい!! アタシも参戦するっ!!」
「ああ。嫌な気配だ……さすがに、二人だけでは厳しいだろう」
「よっしゃ!! クレア、走るけど遅れないようにね!!」
ヒジリが走り出す。
そして、サーシャも言う。
「……なるべく配慮するが、ついてこい」
「馬鹿にしないでください!! 私だって体力には自信ありますから!!」
クレアが走り出す。
サーシャはその背中を見つつ、クスっと笑う。
「さて、ようやく本当の闘いになりそうだ。ハイセ、エアリア……すぐに向かう!!」
サーシャは闘気を纏い、走り出した。
◇◇◇◇◇◇
ハイセは、自動拳銃を右手に、左手で鎖を持ち銃を連射。
弾丸を、飛んでくる『種』に命中させ地面に落とす。
「チッ……種と伸びる枝を落とすだけじゃ意味がねぇ!! おいエアリア、大丈夫か!!」
「ふん、問題ない!!」
エアリアは、飛んでくる種、そして伸びる枝を躱しながら飛んでいる。
ハイセは感心していた。エアリアの飛行技術は間違いなくS級冒険者に相応しい実力だ。ハイセの照準がズレないよう、鎖のブレを計算し自ら揺れることで、ハイセの揺れを最小限にしていた。
そして、飛んで来る『種』を蹴り飛ばす。
(こいつ、脚力が尋常じゃない。それに動体視力……俺と同じくらい眼もいい)
現在、エアリアは『白帝樹ガオケレナ』の周囲を回転するように飛んでいる。
伸びる枝、飛んで来る種が主な攻撃方法だ。現在は対処できるが……。
「このままってわけにもいかない。弱点を探す!!」
「ああ!、どこに飛べばいいんだ!!」
「とりあえず───さらに上空だ!! 頭痛いの我慢しろよ!!」
「う……わ、わかった。くふふっ」
エアリアは笑い、一気に上昇。
ハイセ、エアリアは頭痛に顔をしかめるが……ようやく、上空からガオケレナの全貌を見た。
「なんだ、この木……まさか、森全体に細い根を張ってやがるのか」
「木の真ん中、空洞だぞ!! なんか火山の噴火口みたいだ……」
周囲にびっしりと白い根が張られており、木の幹の真ん中は空洞になっていた。
ハイセは頭痛を堪え思考……そして、気付いた。
「ハイセ!! あれ、サーシャたちだぞ!!」
エアリアが指さした先に、サーシャたち三人が走っているのが見えた。
正確に、ガオケレナに向かって走っている。
すると、なんと地面が動き、まっすぐ走っているサーシャたちが急に左方向へ曲がった。
「なるほど。地面そのものを動かして、木に近づかないようにしてたのか……森全体に張った根で大地そのものを動かすとはな……」
「おい、あのままじゃ近づけないぞ!!」
「ああ、だったら……やることは一つ!! エアリア、行くぞ!!」
「おう!! んふふ」
「……なんだお前? さっきもだけど、嬉しそうだな」
ハイセは、エアリアが楽しそうに笑っていることに気付いた。
エアリアは笑ったまま言う。
「だって……こんな『冒険』は初めてだからな!! あたい、すっごく楽しいんだ!!」
「はっ!……だったら、楽しみつつ本気で行くぜ!」
ハイセは自動拳銃をクルクル回転させホルスターにしまい、右手を突き出す。
「来い、『RPG-7』!!」
携帯対戦車擲弾発射器。
ハイセは細長い『筒』を手にし、エアリアに言う。
「こいつは反動が強い。エアリア、しっかり支えて急降下だ!」
「お、おう!! くぅぅ、やっぱり最高だぞ!!」
ハイセがロケットランチャーを構え、エアリアが急降下。
すると、急降下する二人に気付いたガオケレナが地面を動かすのをやめ、二人に枝を伸ばし、種を飛ばしてくる。
エアリアはハイセを支える鎖を揺らさないよう飛び回る。
「あたいだって……!! 『空の支配者』を舐めんなぁぁぁ!!」
エアリアは、飛んで来る巨大な『種』に翼を生やすと、そのまま自分の意思で操作し、なんとガオケレナに向かって大砲のように飛ばす。
種はガオケレナの幹に命中。幹に亀裂が入り、ガオケレナのしなる枝が一瞬だけ停止した。
「やるじゃねぇか!! ───喰らえ!!」
ボシュッ!! と、ロケット弾頭が発射される。
その勢いにエアリアが驚くが、ハイセをしっかり支えた。
そして、種で傷ついた幹に弾頭が命中。爆発した。
幹が大きく削れ、メラメラと炎が上がるが燃え広がることはない。
「っし、この調子で削っていくぞ!!」
「おう!! って……は、ハイセ、あれ」
「……あれは」
削れた幹の中には、大量の人骨が埋まっていた。
ボロボロと、削れた部分から人骨……そして、魔獣の骨がバラバラ落ちる。
これまで森で死んだ人間たち。そして魔獣などの骨を吸収し続けた結果が見えていた。
そして、ツノの生えた頭蓋骨が落下し、地面に転がったのをハイセは見た。
(魔族の骨……過去の魔族か。こいつに食われたようだな)
ハイセは再びロケットランチャーを手にする……次の瞬間。
なんと、ハイセとエアリアの下にある地面から、いくつもの『根』が飛び出してきた。
「何ッ!? エアリア!!」
「───っ!!」
しなる枝だけでなく、根が鋭く伸びてきた。
エアリアは辛うじて回避するが、上空に逃げると再び頭痛……しかも、痛みがこれまでの比ではない。
ハイセも頭を押さえ、痛みに顔をしかめる。
「ぐっ……あの木、何か発してやがる……!!」
「う、うぅ……」
木からバチバチと紫電の光が見えた。
電磁波……エアリアの飛び方がフラつく、足元からは根っこが伸び、しなる枝が二人を叩き落とそうとし、さらに種が飛んで来る。
まだ辛うじてエアリアが回避、ハイセが打ち落とすが……限界が近づいて来た。
「ぐぅ……は、ハイセ」
「頑張れ!! こんなところで……もう少しだ!!」
「もう、少し……?」
「ああ、もう少し」
そして───ついに、根の一本がハイセの足に絡みついた。
強力な力で一気に地面に引きずられそうになるが、エアリアが耐える。
「ぬぎぎっ……は、はいせ」
「そのまま耐えろ!! ───来たぞ!!」
次の瞬間、ハイセの足に絡みついた根が切断された。
そして、地面に落ちていた『種』が吹っ飛び幹に命中する。
そして、飛ぶ斬撃がしなる枝をまとめて吹き飛ばした。
「遅くなった」
「何コレ木? すっごいじゃん!!」
「よーっし、反撃開始です!!」
クレアがハイセに絡みついた根を斬り、ヒジリが落ちていた種を蹴り飛ばして飛び道具の代わりにし、サーシャが闘気を飛ばし枝をまとめて薙ぎ払った。
ハイセ、エアリアが地上に降り、サーシャたちの傍へ。
「ふう……間一髪だぜ」
「すまなかった。急に大きな気配を感じてな……お前とエアリアが戦闘を開始したと判断し、追って来た。危ないところだったな」
「ああ。でも助かった、ありがとよ」
「気にするな。それでハイセ……敵はこの『木』だな?」
「ああ。間違いなくこいつが七大災厄の一体だ。こいつを倒して、禁忌六迷宮を踏破するぞ」
ハイセは自動拳銃を二丁抜き、片方をガオケレナに向ける。
サーシャは、ハイセに合わせるように剣を向けた。
「ふ……ハイセ、援護は任せるぞ」
「おう。任せておけ」
「ちょっと、勝手に盛り上がるの禁止!! アタシだっているわよ!!」
「私もです!!」
「あたいだっているぞ!! まだまだいけるし!!」
S級冒険者たちと、七大災厄の一体『白帝樹ガオケレナ』の、最後の戦いが始まった。





