氷雪の決意、フリズド王国④/魔獣討伐への参加
フリズド王国冒険者ギルド。
ギルドマスターの部屋に入ると、山のような書類に囲まれた顔色の悪い男がニコッと笑う。
そして、フラフラしながら歩き、ハイセたちの前に座った。
「やあ……初めましてだね。S級冒険者序列一位の、ハイセくん」
「どうも」
「そして、キミは?」
「あ、師匠の弟子の……ダフネです」
「そっか。うん……ボクは、フリズド王国冒険者ギルドのギルドマスター、サイラスだ。ははは、こう見えてもS級冒険者でね……今は、書類に追われる毎日さ」
サイラスは笑っていたが、今にも死にそうだった。
ハイセは特に興味を示さずに言う。
「早速だが、ツンドラ山脈の魔獣狩りに参加させてくれ。そっちの主導に従うから、俺は個人のS級冒険者として扱ってくれ」
「……お、驚きだね。もちろん、参加は自由だが……でも、S級冒険者序列一位が、何故?」
「ダイナリザード、そいつに興味がある」
もちろん噓。正確には、用事があるのはクレアで、ハイセはただ付いて行くだけだ。
サイラスは「うーん」と唸る。
「ボクはいいけど、エアが何て言うかなあ」
「エア?」
「ああ、エアロ・スミスって言った方がわかりやすいかな? S級冒険者序列七位の子さ。いい子なんだけど、ちょっと問題児でね……ああ、ハイセくん」
「そいつのお守りをしろってのはお断りだ」
「だ、だよね……歳も近い者同士で、仲良くなれると思ったんだが」
「狩りはいつだ?」
「三日後。現在、百七十名ほどが参加表明している。ダイナリザードはBレートで、決して低くない等級の魔獣だからね」
「……数は?」
「正確には不明だ。でも、去年はツンドラ山脈に七百匹のダイナリザードがいたよ。全く、どこで繁殖して、どこに潜んでいるのか……」
ちなみに、ツンドラ山脈はフリズド王国で最も気温の低い場所。一年に一度だけ、気温が通常の冬気温まで上がる日があり、その日に魔獣討伐をするのだ。
「あの!! ギルマスさん、その日にクレア王女は来ますか?」
「うん。冒険者の激励に来ることになっているよ。エアが迎えに行くことになっている」
「───!!」
クレアはハッとなり、ハイセを見た。
「師匠……あの、お願いしたいことが」
「……はあ」
ハイセはため息を吐き、サイラスに言う。
「サイラスさん。序列七位のお守り……引き受けてもいいぞ」
「ほ、本当かい? よかった……実は、あの子だけじゃ不安でね。本当はボクが同行したいんだが、タイミング悪く王家へ提出する書類が山のようになっててね」
「わかった。じゃあ、そいつに会いに行く……どこにいる?」
「この時間なら、ギルドの訓練場にいると思うけど」
「よし……じゃあ、一筆頼む」
ハイセはサイラスに一筆頼み、その書状を持ってクレアと部屋を出た。
◇◇◇◇◇◇
「はーっはっはっは!! さぁさぁ、このあたいに触れることができたら、褒美をやろう!!」
訓練場に行くと、背中から『光翼』を生やした少女が空を飛んでいた。
すると、少女を追いかけていた少年、少女が叫ぶ。
「エアリアー!! いい加減降りて来いよーっ!!」
「そうよ!! お昼ご飯行きましょうよーっ!!」
「むー!! お前たち、根性が足りないぞ!! それとあたいはS級冒険者序列七位エアロ・スミス!! エアリアは偽名なのだっ!! ちゃんと呼べっ!!」
歳は十六歳くらいだろうか。
長い赤毛を振り回し、足には鉤爪のような具足を履いている。エアリアと呼ばれた少女はハイセたちを見ると、一気に急降下して着地した。
「レイオス、ハルカ!! 客人のようだぞ!!」
「客人? お……おい!? あれってS級冒険者序列一位、ハイセさんじゃん!! すっげー初めて見た、かっけぇぇ!!」
「きゃぁ!! 素敵なお方じゃない!! ね、ね、サインもらおっ!!」
「お前らうるさい!! ってかS級冒険者ならあたいもだぞ!! というかお前らそれでもA級冒険者か!! あたいのチームならもっとこう、威厳を出せっ!!」
ハイセは、近づくのを正直悩んだ……かなり、めんどくさそうな子供である。
だが、仕方なく近づき、サイラスから貰った書状を見せる。
「S級冒険者序列一位『闇の化身』ハイセだ。今回、ツンドラ山脈のダイナリザード討伐で、お前の補佐をすることになった。確認を頼む、S級冒険者序列七位『空の支配者』エアロ・スミス」
「何ぃ? お前が、あたいの補佐ぁ?」
近づいて分かったが、エアロ・スミスはかなり小柄だ。
クレアよりも小さく、ロビンと同じ程度の身長だろうか。
仲間は二人。こちらは十八歳ほどで、ハイセとそう変わらない男女だ。
「フン!! ギルマスめっ、あたいの腕を信じてないのか!! まさか、永遠のライバル『闇の化身』を補佐に付けるとはなっ!!」
「え、師匠のライバルなんですか?」
「ちが「その通りだ!! ふふん、今は序列七位だが、いずれあたいは一位になる!!」
「わぁ~!! ちっこくて可愛いのに、すごいですねっ!!」
「あぁん!? あたいはもうすぐ十八歳のレディだぞっ!! バカにすんなお前っ!!」
ヒジリよりやかましい。
ピアソラ、ヒジリを合わせて二で割ったような奴。それがハイセの感想だった。
すると、クレアは首を傾げて質問する。
「あの~……エアロ・スミスさんって、本名ですか?」
「そうだ!!」
「あー、違う違う。それ、冒険者登録する時に決めた偽名なんだ。大空を翔る翼人とか、鳥の化身とか、あることないこと言いまくってね。実際はこんな感じのチンチクリンだよ」
「う、うるさいぞレイオス!!」
「あはは、本名はエアリアっていうの。あ、わたしはハルカ、こっちはレイオス。エアリアと一緒に、チーム『ウイングス』で活動してるの」
「へえ~……あ、あたしはクレ……だ、ダフネです」
「ダフネね。あなた、『闇の化身』ハイセさんのお弟子さんなの?」
「はい!! 今回、ダイナリザードの討伐に参加しますので、よろしくお願いします!!」
「頼む。正直、今回の件オレとハルカだけじゃ、エアリアの暴走を止められないと思ってたからね。『闇の化身』さんがいるなら安心だ」
エアリア、レイオス、ハルカ。
チーム『ウイングス』という冒険者チーム。
ハイセは思う。
「……クランじゃないんだな」
「そう、クランだ!! あたいはクラン作りたいのに、二人がいいって言わないんだ!!」
ハイセにしがみつき抗議するエアリア。
すると、ハルカが言う。
「あのねー……クラン運営なんて、わたしたち三人でできるワケないでしょ。チームの応募したって、まともに運営できるとは思えないし」
「そうそう。オレらは三人でチームやるのが一番ってことだ」
どうやら、ハルカ、レイオスはかなりまともらしい。
見た感じ、エアリアという怪物を上手く飼いならしているようだ。
S級冒険者序列七位。決して、弱いわけではない。
「とにかく、ダイナリザード討伐の補佐をする。レイオス、ハルカだったか……早速、情報を共有したい。どこか別室で話をさせてくれ」
「わかりました。レイオス、会議室借りれるよね?」
「ああ、ギルマスに頼んでみる」
「待った待った!! その前にごーはーんーっ!! ハイセ、ご飯食うから待ってろ!!」
「あはは、師匠、私もお腹空きました。せっかくだし、みんなでご飯にしませんか?」
「……まあ、いいぞ」
こうして、S級冒険者序列七位『空の支配者』エアロ・スミスと、チーム『ウイングス』たちと共に、食事をすることになるのだった。





