氷雪の決意、フリズド王国③/王女に会うために
宿を取り、クレアはハイセの部屋に来るなり、暖炉に火をつけた。
魔石を入れ、火をつけるだけ。薪はいらないし、魔石は小さくても一日燃え続けるので、フリズド王国では一般的な暖炉の燃料である。
ハイセはコートを脱ぎ、椅子に座って本を開く。
外を見ると、もう暗くなり始め、雪も降ってきた。
「フリズド王国は、日が落ちるのすごく早いんです。夕方前には薄暗くなって、夕方にはもう真っ暗で雪も降ってきます。明日の朝には住人たちが雪かきする光景が見れますよ」
「へぇ……ほら、飲め」
「あ、お茶ですね。ほんとは外に行きたかったですー……師匠に案内したいカフェとかいっぱいあるんだけどなあ」
「そんなことより、城にいる『クレア』に会う方法、考えろ」
「それなんですよねぇ」
クレアは、ハイセの淹れた紅茶を飲みながら考える。
一般的に、王族への謁見はできるが……基本的には『国王』のみだ。王女殿下に謁見したいと言っても、謁見の申請で跳ねのけられる。
それに、今の王族である『クレア』に会いたいと申請して通ったとしても、問題がある。
今、クレアは変装しているが……王族に謁見する場合、武器やアイテムボックスなどは全て預けなくてはならない。身体検査もあるし、クレアがカツラを被っているのもすぐばれる。
本物のクレア、偽物のクレア。もしだましていることがバレたら、クレアは連れ戻され、偽のクレアは処刑される可能性だってある。
「呼び出し……は、無理。手紙……出しても、王族の目に入る手紙は全て検閲されるから無理」
「八方塞がりだな」
「うう……ダフネがこっそり町に出て、偶然出会う……なーんて、無理だしぃ」
「……やれやれ。フリズド王国に付き合うとは言ったが、長期になるようだったら帰るからな」
「ああ!! そ、そんなあ……」
さすがに、ハイセもそこまでお人よしじゃない。
紅茶を飲みながら外を眺め、ハイセは呟いた。
「……雪、まだまだ降りそうだ」
◇◇◇◇◇◇
翌日。
目を覚ましたハイセは、眼帯を付ける。そして窓を開けると……冷たい風が一気に入り込み、身体を震わせた。
「さむっ……」
外はカラッと晴れていた。
そして、路上では多くの住人が雪かきをしており、大きな馬車に雪を積んで、スノウドッグが運んでいた。初めて見る光景を眺めていると。
「あれは『雪捨て場』まで雪を運ぶスノウドッグですねー……ふああ、師匠おはようございます~」
「お前、俺のベッドで寝たことまず謝れ」
「ふぁぁ、すみません~……」
昨夜、考え事をしているうちに、クレアはハイセのベッドで寝てしまった。
仕方なく、ハイセはソファで寝た。
いい加減、寒いので窓を閉め、廊下にいた宿の使用人にお湯を持ってきてもらう。
湯桶を貰い、顔を洗い、ハイセはようやく目が覚めた。
相変わらず、クレアは寝ぼけている。
「さっさと顔洗って着替えてこい。俺は先にメシ食ってるぞ」
「あぁ!! わ、私も行きますっ!!」
バシャバシャとお湯で顔を洗い、クレアはアイテムボックスから服を出し、ハイセの前で着替え始めた……見られてもいいのか、ハイセだから気にしないのか、クレアは下着姿を豪快に晒す。
ハイセはその様子を見ないようにし、部屋を出た。
宿の一階にある食堂に向かい、テーブルに座ると、朝食が出てきた。
「お客さん、冒険者かい? うちのシチューは温まるよ。お仕事前にたくさん食べな」
「ああ、ありがとう。そうだ……新聞あるか?」
「あるよ。銅貨二枚だけどいいかい?」
「じゃあ頼む。それと、紅茶も頼む」
手間賃合わせて銀貨を一枚渡すと、使用人が喜んで新聞を持ってきた。
シチューを食べていると、クレアがバタバタと階段から降りてきた。
「もう!! 師匠、待っててもいいのにぃ!!」
「うるさい」
クレアは座り、シチューが運ばれてくる。
具だくさんのシチューを食べ、パンを浸して食べていると、ハイセはすでに紅茶を飲んでいた。
新聞を読んでいるハイセをジッと見ていると……クレアは気付いた。
「……あれっ?」
「?」
クレアが見ていたのはハイセ……ではなく、ハイセが読んでいた新聞の裏面記事。
凝視しているのにハイセが気付き、裏面を見た。
「……『ツンドラ山脈での魔獣狩り、今年も始まる』……これがどうかしたか?」
「……そういえば」
クレアは少し考え、手をポンと叩いた。
「こ、これだ!! 師匠、思いつきました!!」
「……まず、静かにしろ。それと、デカい声出すな」
「あ」
朝食を終え、再びハイセの部屋に戻る二人。
クレアは咳払いし、ハイセの読んでいた新聞を手に言う。
「ツンドラ山脈。フリズド王国領内にある大きな山脈で、氷山なんですけど、一年に一回、ここに住みつく『ダイナリザード』っていう魔獣を、フリズド王国冒険者ギルドが主導で狩るんです」
「へえ、そんなイベントあるのか」
「ええ。毎年狩るんですけど、なぜかすごく増えちゃうんですって。洞窟から溢れる前に駆り尽くすんですって」
「それと、お前の閃きの関係は?」
「実は、狩りが始まる前に、フリズド王国の第一王女が激励するんです。私も何度かやりましたし、ここに『クレア王女』が来るのは間違いないと思います……そこで、私と師匠が冒険者として参加して、こっそりダフネに近づいて接触する……っていう作戦です」
「なるほどな……」
「長くはお話できないと思うので、後日どこかでお話できるよう話してみます」
ハイセは記事を読む。
「……主導は『フリズド王国冒険者ギルド』で、討伐部隊のリーダーはS級冒険者序列七位『空の支配者』エアロ・スミス……序列七位か。どんな奴だろうな」
「毎年、S級冒険者が主導で行ってますけど、七大冒険者は初めてかもですっ」
「とりあえず、作戦は固まったな……じゃあ、参加の意思を冒険者ギルドに伝えるか」
「はい!!」
二人は宿を出て、冒険者ギルドに向かった。
◇◇◇◇◇◇
フリズド王国冒険者ギルド。
ハイベルク王国とは違い、分厚く着込んでいる冒険者が多い。
武器も、大剣や大斧などの重量級の武器が多く、体格のいい者が多かった。
なので、この中では小柄で、しかも見慣れない冒険者であるハイセとクレアは少し目立つ。
ギルドに入ると同時にいくつもの視線が刺さるが、ハイセは全て無視。クレアも後に続いた。
ハイセは、冒険者カードを出して受付へ。
「ギルドマスターに会いたい。取り次いでくれ」
「し、師匠。別にギルマスじゃなくても、受付で参加表明すれば」
すると、ギルドカードを見た受付嬢が仰天する。
「え、S級冒険者序列一位『闇の化身』!? しょ、少々お待ちください~!!」
そう叫び、受付嬢はダッシュで裏へ消える。
その声はよく響き、ギルド内からの視線が背中に突き刺さった。
ハイセは言う。
「参加表明だけなら受付でいいが、俺はS級冒険者だ。しかも序列一位とかいう面倒くさい位置づけ……一応、こういうイベントに参加するなら、事前にギルドマスターに話を通しておいた方がいい。そう云う理由だ」
「な、なるほど……すみません、勉強不足でした」
すると、受付嬢が戻って来た。
「あ、あの。ギルドマスターが会われるそうです。部屋にご案内します」
「行くぞ」
「は、はい」
こうして、ハイセとクレアはギルドマスターと面会するのだった。





