氷雪の決意、フリズド王国①/雪国へ
ハイセ、クレアの二人は、乗合馬車でフリズド王国の国境にある大きな町へ向かった。
乗合馬車の客はハイセたちだけ。クレアはハイセの隣で嬉しそうに言う。
「ラッキーですね。私たちだけですっ」
「ああ。混雑するなら徒歩のがマシだ」
「えへへー、師匠」
クレアはニコニコしながらハイセの腕を取り甘えてくる。
最近、クレアが懐いた家ネコのように甘えてくる。ハイセはその近さに違和感を覚えつつ、クレアから腕を外して言う。
「お前、なんでそんなに擦り寄ってくるんだ。ネコじゃあるまいし」
「師匠の隣、すっごく安心するし、あったかいからですよー」
「意味わからん。とにかく、くっつくな」
「えー」
クレアから距離を取るが、乗合馬車には二人しかいないのですぐ距離を詰めてくる。
ハイセは諦め、クレアが腕にくっついたまま聞いてみた。
「とりあえず、フリズド王国でどうするつもりだ」
「……ダフネに会いたいです。でも、王女は普通謁見しませんし、謁見の申請をするには顔を見せないといけないし、私の顔だとすぐに王女だってバレちゃいます。なので……考えます」
「考える、って……お前、無策でここまで来たのかよ」
「えへへ。昔はよく、城を抜け出して遊びに行ってたんで。けど……今のダフネはきっと、一人じゃ脱走とかしないはず。脱走するのは基本的に、私の意志だったので」
「で? どうするんだ?」
「え、えーと……か、考えさせてくださいっ」
今の『クレア王女』に会うには、何か策を考えねばならなかった。
乗合馬車は国境の町に到着。馬車から降りると、気温がかなり低い。
ハイセは白い息を吐いた。
「……寒いな」
「フリズド王国領地はもっと寒いですよ。この国境の町で、あったかい上着とか下着、買った方がいいです。毛糸のパンツがおススメです。私も履いてますし」
「……そーいうのは言うな」
「あ」
クレアはスカートを押さえ頬を染めた。
もう夕方なので、今日は宿で一泊。翌日に町で準備をして、二日後にフリズド王国に向かうことにした。
宿は防寒対策をしたレンガ造りの宿。ロビーは暖炉で魔石が燃えており温かい。
部屋を二つ取ると、クレアが速攻でハイセの部屋に来た。
「師匠、ご飯行きましょっ!! 宿屋のおばさんに聞いたんですけど、ここの食堂で出す『フリズベア』のお肉は絶品だそうですっ!!」
「わかったわかった。ったく、子供かお前は」
食堂でフリズベアのステーキを注文したが、確かに絶品だった。
食事を終え部屋に戻ると、外は雪が降っていた。
「わぁ……どうりで寒いわけですね」
「だな。その割にはお前、寒がってないな」
「そりゃ、雪国出身ですから。このくらいの寒さなら慣れたモンです!!」
胸を張るクレア。そして、ポンと手を叩く。
「あの~……この宿、サウナがあるんですけど、一緒にどうですか?」
「……一緒?」
「はい。フリズド王国では、混浴が当たり前なんです。サウナやお風呂も、少ない燃料を使うので……え、えっと、タオルはちゃんと巻くので。ダメ、ですか?」
「嫌だ。行くなら、一人で行け」
「うう……」
クレアは一人で、宿屋のサウナへ。
ハイセは一人になり、窓際に椅子を持っていき、アイテムボックスから紅茶を出した。
「雪、か……今更だが、クレアと二人旅か。ただの観光になりそうだし、イーサンやシムーンも連れて来ればよかったぜ」
そう言い、紅茶をカップに注ぎ、雪景色を楽しみながら飲むのだった。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
ハイセとクレアは朝食後、町にある服屋に防寒着を買いに来た。
「防寒着も大事ですけど、もっと大事なのはブーツです。足下、雪でかなり動きにくいですからね。防水で、裏起毛のあるブーツがおススメです!!」
「ふむ……」
アドバイス通り、ハイセは裏起毛のブーツ、そしてコートを買った。
着てみるとかなり温かい。クレアも似たようなデザインのコートを買い、耳当ても買う。
「師匠、似合いますか?」
「ああ」
「むー、適当ですね」
「それより、明日には出発だ。ここから乗合馬車は出ているのか?」
「えーと、馬車は途中まで出ていますね。経由地である村で、ソリに乗り換えます」
「……ソリ?」
「はい。スノウドッグっていうでっかい犬に引いてもらうんです。季節によっては馬車でも行けるんですけど……今回は途中の村までしか行けませんね」
「わかった。案内は任せる。道中、魔獣は出るのか?」
「出ます。ちなみに、フリズドの魔獣はみんな毛深い魔獣が多いので、毛皮は高く売れま……まあ、師匠はお金とかどうでもいいですよね」
「金は大事だろうが」
ハイセは大金持ち。クレアはそう認識していた。
この日は、二人で宿の暖かい料理を食べ、早々に就寝。
翌日、フリズド王国行きの乗合馬車に乗り、出発した。
「さすがに、今回は人が多いですね」
「……はあ」
乗合馬車は、ギュウギュウ詰めとは言わないが、けっこうな人がいた。
国境を超えると雪国。寒さも段違いであるが、コートやブーツが暖かく、寒いことは寒いが凍えることはなさそうである。
クレアは、ハイセの腕を取りギューッとしがみつく。
「あったかいですねぇ~」
「くっつくな。暑い」
「いいじゃないですか。寒いのはイヤです」
「……はあ」
ハイセはもうクレアを無視。外の景色を眺めている。
街道は雪こそ積もっているが、馬車で進めるほどの厚みだ。現に、馬四頭で馬車を引いているが、問題なく進んでいる。
そして、特に魔獣も出現することなく、中継地点の村に到着した。
本来なら、ここでスノウドッグのソリに乗り換えて、フリズド王国まで進むのだが。
「あれ、なんか揉めてますね」
馬車の乗り換え場で、スノウドッグのソリ引きが、御者と揉めていた。
ソリ引きが首を振り、御者が頭を抱えている。
乗合馬車にいる人たちも「まだか」や「何をしているんだ」と、乗り換えの案内がないのでじれ始めていた。
「私、聞いてきますね」
クレアが御者たちの元へ。
それから数分後、戻って来る。
「フリズド王国に向かう街道に、『ホワイトオーク』の群れがいるそうで、今はソリを出せないそうです。冒険者に依頼を出して討伐に当てるみたいですけど……」
「……そもそも、依頼は出せるのか?」
「そっか。この村に冒険者ギルドはないし、近場で冒険者ギルドがあるのは……さっきの国境の街ですね。引き返して、冒険者ギルドに依頼を出して、冒険者を連れてくるとなると、時間かかりますね」
「……はあ、仕方ないな」
「お、まさか師匠!!」
クレアはウキウキしていた。ここまで説明口調だったのも、何かを期待しているからだろう。
ハイセは馬車から降り、スノウドッグのソリ引きの元へ。
「おい、ソリは出せないのか」
「だから、ホワイトオークの群れの足跡が見つかったんだよ。道中、襲われてエサになるわけにいかねぇだろ? あいつら、単体が討伐レートBの魔獣なんだぞ。国境に戻って討伐依頼を出して、討伐終えるまで数日はこの村に待機するしかねぇよ」
「だったら、俺がそのオークを始末してやる。ソリを出せ」
「あ? お前、何を」
と、ハイセは冒険者カードを見せた。
そこに輝く『S級』の文字に、ソリ引きだけじゃなく、乗合馬車の御者も仰天する。
「え、S級冒険者!! おお、こいつはスゲェ!!」
「まず、俺とクレアとソリ引きの三人でオークのいる場所に行き、そこで魔獣を殲滅する。後から乗合馬車の乗客を連れて進め」
「し、しかし……いいのか? 依頼も出してないし、依頼料は」
「いらん。今回はサービスだ。俺たちは、さっさとフリズド王国に行きたいんでな」
「というわけで!! 私と師匠にお任せくださいっ!!」
いきなり現れたクレアが、ソリ引きに向かって拳を突き付けた。
こうして、ハイセとクレアによる、オーク退治が始まった。
 





