帰還
サーシャたちは王都に戻って来た。
ギルドに報告し、そのまま王城へ向かって依頼成功を報告する。
サーシャたちは国王の前で跪き、依頼の達成……そして、魔族について説明をした。
「魔族、だと?」
「はい、我々のチームは魔族と交戦し、勝利しました。相手が無能だったこと、クレス殿下、ミュアネ王女殿下のサポートが優秀だったことで勝利することができました」
「陛下。サーシャの言うことは本当です。私も確認しましたので」
「あ、アタシ……じゃなくて、私もです!!」
クレス、ミュアネも言うと、国王は「うむ……」と表情を渋くする。
そして、大きく頷いて言った。
「クレス、ミュアネ。事の詳細はお前たちから聞こう。サーシャよ、依頼達成だ。ご苦労であった」
「ありがとうございます」
「さて、望む物を与えよう。何がいい?」
「では、我々の『ホーム』を所望します」
「ほう、ホームということは、クランホームか。いよいよ、クランを作るのだな?」
「はい」
「わかった。王都にある物件で、好きな物を与える。空き物件については、宰相に任せる。サーシャたちが望む物を与えるように」
「かしこまりました」
「ふふ、ハイセの方は依頼に失敗したが、お前はきっちり成功させたようだの」
「え……?」
ハイセが失敗?
と、サーシャは思わず口に出してしまい、口を押さえた。
国王は笑う。
「万年光月草の採取に失敗したのだがな。くくっ……あいつもお人よしだな。森国ユグドラから上がって来た報告書によると、どうやらハイセは、王妃のために万年光月草を放棄したようだ」
「……???」
「まぁ、気になるなら宰相から聞くといい」
「は、はい」
こうして、謁見は終わり……サーシャたちは、クランホームを手に入れることになった。
◇◇◇◇◇◇
王城の控室で、チームに分かれることにした。
まず、宰相と共にクランホームを選ぶチーム。そして、クリスタルゴーレムの換金をするチームだ。
クランホームはサーシャ、ロビン、タイクーン。
換金はピアソラ、レイノルドになった。
「イヤァァァァァッ!! なんっで私がレイノルドと一緒なの!?」
「あっはっはー、公正なクジの結果だしね。サーシャ、一緒に選ぼうねっ!!」
「キィィィィィィェエェェェェェ!!」
「やかましいな……まったく、換金だって立派な仕事だぞ」
「……おいピアソラ、さすがに傷つくぜ」
「うるセェ!!」
ピアソラは諦めたのか、一人でズンズン歩いて換金所へ。
レイノルドも後を追い、サーシャたちはそのまま部屋で待機。
すると、宰相が部屋に入って来た。大きな羊皮紙の束をいくつも抱えながら。
「ふぅ、あなたたちが満足しそうな物件を選んできました」
「ボネット宰相閣下……ありがとうございます」
タイクーンが立ち上がり深く一礼する。
テーブルに、大量の羊皮紙が置かれた。
さっそく確認作業が始まる。タイクーンが、どこかワクワクしながら羊皮紙を開き、物件の情報を見てブツブツ言う。
ロビンは、「わ、お風呂おっきい」とか「ここいいなー、あたしの部屋!」と言いながら物件の図面を見てニコニコしていた。
サーシャは、羊皮紙を眺めながら、ボネットに聞く。
「あの、ボネット宰相閣下……ハイセが、依頼失敗した、というのは」
「気になりますかな?」
「…………はい」
サーシャは小さく頷く。
ボネットはにっこり微笑んだ。
「ハイセくんは、依頼をほぼ達成していました。万年光月草を手に入れ、あとは王都に戻り納品するだけでしたが……」
「……では、何が?」
「少し、話を戻します。ハイセくんが森国ユグドラへ向かう前、彼に接触したエルフの少女がいました。彼女の名はプレセア。森国ユグドラの王妃アルセラ様の妹君で、エリクシールの素材である万年光月草を探し、西方から中央に来ていたのです。そこで、東方へ向かうハイセくんの話を聞き、同行を持ちかけたそうです」
「え……」
「ハイセに仲間が!?」
驚くサーシャ、ロビン。
ボネットは苦笑していた。
「仲間というか、同行していただけのようです。プレセア様も、報告では『仲間じゃない』と仰っていたようですから」
「信じられないな。あのハイセが、孤独を好むような男が、同行者なんて」
タイクーンは羊皮紙を見ながら言った。
「現在、森国ユグドラにある霊峰ガガジアは、魔獣の繁殖期で入山が制限されています。ハイベルク王国が発行した依頼書があれば入ることが可能でした。ハイセくんは、プレセア様と一緒に霊峰ガガジアへ登り、山頂付近で運悪く、SS+レートの魔獣、『グリーンエレファント・ドラゴン』と遭遇したようです」
「え、えすえすぷらす……く、国の軍隊が総出で戦うような敵、だよね」
「はい。ハイセくんは、プレセア様を守るために単独で戦い勝利……ですが、代償に万年光月草の群生地が犠牲となりました。ハイセくんが見つけたのは、最後の万年光月草でした」
「「「…………」」」
三人は黙って聞いていた。
いつの間にか、クランホームの羊皮紙を見ていない。
「下山し、森国ユグドラの兵士たちがプレセア様を迎えに上がり、ハイセくんとプレセア様は別れました。プレセア様は万年光月草を諦め、涙ながらにアルセラ様の元へ向かったそうなのですが……アイテムボックスの中に、ハイセくんが見つけた万年光月草があったそうです。その万年光月草を使いエリクシールが精製され、アルセラ様は回復……今はもう、元気に執務をこなしているとか」
「……ハイセ」
サーシャは、どこか嬉しそうに笑い、胸を押さえた。
自分のことのように嬉しく、ついつい笑ってしまう。
「ハイセくんの依頼は失敗しましたが、森国ユグドラの王族の命を救ったということで、陛下は望みの物を与えようとしましたが……ハイセくんは拒否したようです」
「……もったいないなー」
ロビンが言うと、タイクーンも「まったくだ」と言った。
サーシャは、自分が同じ立場でも、同じことをできるか自信がない。
依頼を優先するか、命を優先するか。
即断できない自分が情けなく、自由なハイセが少し羨ましかった。
「ねーねー、そのプレセア様? ってエルフはどうなったの?」
「万年光月草を手に入れた功績で褒美を与えられたようですが……ふふ、王族からの除名と婚約破棄をして、ハイベルク王国で冒険者をやるそうですよ。どうやら、ハイセくんのことが気に入ったようですな」
「…………ふぅん」
なんとなく、サーシャは面白くなかった。
◇◇◇◇◇◇
「お」
「……なんであなたがここに」
冒険者ギルド、解体場にて。
レイノルドとピアソラは、ハイセと出くわした。
解体場には、大きな台がいくつも並び、そこで獲物の解体とだいたいの査定を聞き、高額になると専用の部屋で査定を聞き直し、入金するという流れだ。
たまたま隣同士の台になり、ピアソラは思いきり顔をしかめていた……が、どこか馬鹿にしたように笑いながらハイセに言う。
「聞きましたよ? アナタ……依頼失敗だそうねぇ? ふふふっ、王女殿下を拒否して、一人で意気揚々と出かけて、戻ってきたら依頼失敗とか……くふふっ、情けないったらありゃしない。ぶーくすくす!!」
「…………」
「よせよ、ピアソラ」
「あらレイノルド。あなたも思ったんじゃない? 『こいつダッセ』って」
「いやお前、ったく……」
レイノルドはため息を吐き、ハイセに言う。
「ハイセ、悪いこと言わん……仲間、作れ」
「忠告どうも」
ハイセは、アイテムボックスからS+レートの魔獣、『デズモンド・スパイダー』を出して台に置いた。
穴だらけ、ボロボロの死骸に、ギルドの解体員は渋い顔をする。
「ハイセさん、これじゃあんまりっすよ……せっかくの高ランク魔獣なのに、使えるのが骨とか僅かな表皮くらいっすよ」
「悪い。A級ダンジョンの魔獣、なかなか手ごわくてな」
「ふっふっふっふっふ。レイノルド、出しなさい!!」
「へいへい。何対抗心燃やしてんだか……」
レイノルドがクレスから借りたアイテムボックスから出したのは、クリスタルゴーレムの残骸だ。
討伐レートはSSで、ハイセのより上。
解体員たちは「おお~」と唸り、ピアソラが胸を張る。
「さぁ、査定なさい!! お~っほっほっほ!!」
「おま、アホみたいだぞ……とにかく、査定頼むわ」
それぞれの査定が終わり、レイノルドたちは別室へ、ハイセはその場で金額が言い渡された。
別室に呼ばれるということは、それだけ高額で貴重な素材ということだ。冒険者たちにとっては、ひそかな憧れでもある。
「レイノルド、行きましょう。お~っほっほっほ!!」
「あ、ああ。じゃあなハイセ」
レイノルド、ピアソラは行ってしまった。
ハイセは入金し、解体場を出る。
「終わった?」
「お前には関係ない」
「そ。ね、お昼食べた? まだなら付き合うけど」
「…………」
ハイセはプレセアを無視して歩き出したが、プレセアは当たり前のように隣に並び、同じ店、同じ席で食事をした。
こうして、ハイセとサーシャは共に、S級の依頼を終わらせたのだった。





