九つの試練『神の箱庭』⑭/白い闘気
サーシャはボロボロの状態で倒れていた。
「ぅ……」
『おい、どうした?』
サーシャの傍にハイセがしゃがみ込み、サーシャの頭を掴んで無理やり起こす。
『ちょっと図星突かれた程度で、こうも情けなくなっちまうのか……つまんねぇな』
「……」
『何も言い返せねぇか。終わってるな……フン』
そう言い、サーシャを仰向けにして、跨った。
そして、サーシャの鎧をはぎ取り、胸に手を這わせる。
『滅茶苦茶にして、最後は殺してやる……それで、許してやるよ』
「……っ!!」
『なんだ? 文句あるのか?』
「───……どけ」
『あ?』
「どけ!!」
ボッ!! と、サーシャの闘気が爆発。ハイセは弾き飛ばされたが、空中で態勢を変え着地。
そして、腰のホルスターから自動拳銃を抜き、サーシャに向けて発砲した。
が……剣を拾ったサーシャ。軽く剣を薙ぐと、銃弾が綺麗に真っ二つになり弾かれる。
『なんだ、まだやる気あったのか』
「……お前は、ハイセじゃない」
『あ?』
「お前は、私の罪悪感……何も言えなかった。何も言い返せなかった。でも、でも……ハイセは、ハイセは私を許すなんて、絶対に言わない!! お前は、私の弱い心が……ハイセに許してもらいたい気持ちが生み出した偽物!!」
ようやく、自覚できた。
それくらい、サーシャは打ちのめされた。
『チッ、くっだらねぇ』
「お前は、消えろ……!!」
黄金の闘気が純白に輝き、サーシャの髪も真っ白になる。
『なっ……』
「白帝剣!! 『白帝神話真槍』!!」
サーシャが突きを放つと同時に、純白に輝く闘気が一気に伸びる。
そして、ハイセの腹部を貫通……ハイセは崩れ落ち、存在が揺らぎ始めた。
サーシャの闘気が消え、肩で息をし……ゆっくり、ハイセに近づいた。
『お前の勝ちだ。そして……出口だ』
ハイセの後ろに、扉が現れた。
『お前が最も嫌がる、心の奥で一番恐れている者が敵として現れる試練。かつて、この試練に挑んだ大半の連中はビビッて死んだが……お前は乗り越えたな』
「……乗り越えていない。ただ、許せなかっただけだ」
『ふぅん。まあ、お前は俺を倒したんだ。先に進む権利がある』
「……この先に、何がある?」
『真の扉さ。ただし……扉に挑んだ者たちが揃わないと、先に進めない。ククク……何となく察してるだろ? そう、神の箱庭は、九人が揃わない時点で挑むことができない……つまり、九人が扉の先を攻略しないと、九人全員が脱出も、先に進むこともできないのさ』
「…………」
サーシャはようやく剣を納め、呼吸を整えた。
そして、落ちていた自分の鎧を装備し、消えかけているハイセに言う。
「それなら問題ない。私たちは全員、扉を攻略するからな」
『はっ、時間の流れも違う、試練もそれぞれ違うんだぜ? 一人くらい死んじまってるかもなあ? そうなれば、お前が俺を倒しても意味がねぇってことだ』
「ずいぶんとおしゃべりな奴だ。やはり、お前はハイセと似てもいない」
サーシャはくだらなそうに言い、聞いてみた。
「せっかくだ。お前の知っていることを全て教えろ……この禁忌六迷宮『神の箱庭』とは、なんだ?」
『ほう、俺とお喋りね。そういうことをするのは、お前で三人目だ。せっかくだし答えてやる』
「……ここは、なんだ?」
『お前らが神の箱庭って呼ぶ空間……正確には、古の魔族が、戯れにスキルで生み出した空間だ。スキル『迷宮生成』……その名の通り、ダンジョンを作り出すスキル」
「古の、魔族……?」
『ああ。そいつが魔力で作り出した空間だ。試練は、ダンジョンに設けられたトラップみたいなモンだ。そこに、『七大災厄』の一体を無理やり封じ込め、檻にしたのさ』
「そう、なのか? ふむ……災厄は、そして魔族は……どれだけ昔から存在したのだ?」
『さあな。だが、ここは歴史上最も古いダンジョンだ。しかも、まだ踏破されたことのないダンジョン……つまり、ダンジョンの最奥には宝がある。その宝、なんだかわかるか?』
「知るわけがない……正直、あまり興味もない」
『はっ……じゃあ、楽しみにしてればいい。きっと、面白れぇことになる』
「……話は終わりだ」
サーシャは扉の元に向かおうとした、が。
『おい、いいのか? 消えかけちゃぁいるが、俺はまだ存在できるぜ』
「扉は現れた。もう、お前に用はない」
『それはそうだ。が……お前が最初に扉を潜った時、俺はこの姿になった。つまり……お前の心を覗いたからこの姿になった』
「……何が言いたい」
『お前はこいつを恐れている。だが同時に、恐れ以上に深く愛───……」
そこまで言った瞬間、サーシャの剣がハイセに突きつけられた。
ハイセは驚いた。サーシャの顔が真っ赤になっていたから。
そして、その顔を見てニヤリと笑う。
『お前が望むなら、まだ消えない。どうする? 何でも聞いてやるぜ?抱きしめてやってもいい、さっきの続きをしてもいい……ああ、ベッドはないがな。この身体にしたいこと、あるんだろ?』
「だ、黙れ!! ええい偽物!ハイセの顔と声で、それ以上不埒なことを言うな!!」
『堅物、生真面目。だが実は興味津々……か。お年頃だもんなぁ?』
「き、きき、貴様っ!!」
『おっと怖い。ハハハ!!』
「~~~っ!! もう行く!!」
サーシャはハイセを無視し、扉を開けるのだった。
◇◇◇◇◇◇
扉を開けた先にいたのは───……。
「……んっ、まぶしい」
扉の先には、真っ白な空間があった。
そして───聞こえたのは、ドアが同時に開く音。
サーシャがドアを開けるのと同時に、残り八つのドアも開いたのだ。
 





