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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第十五章 神の箱庭

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九つの試練『神の箱庭』⑪/大好きなおばあちゃん

「が、っは……」


 ヒジリは、もう何度目かわからない嘔吐。

 胃液しか出るものがなく、その胃液には血が混じっていた。

 ヒジリの前には、育ての親であり師のミカガミがいる。全くの無傷で、どこかつまらなそうにしていた。


「ヒジリ、立ちな」

「うっぐ……」

「立ちな!!」


 怒声が響き、ヒジリは立ち上がる。

 ミカガミは、大きなため息を吐いた。


「……お前、なぜ『剛拳』しか使わないんだい? お前にもウィングー流『柔拳』を骨の髄まで叩きこんだはずだがねぇ?」

「だって……柔拳、アタシに合わないんだもん」

「馬鹿モンが。合う合わないの問題じゃないだろう? 剛と柔は表裏一体と、口を酸っぱくして教えたはずだがねぇ」

「うぅ……」

「はあ……どうせ、これまでの戦いも剛拳だけでやってきたんだろう? 全く、嘆かわしい」

「……むぅぅ」

「ほら、立ったならかかって来な。剛だけじゃなく、柔も使うんだ」

「わかった。だったら、使ってやる!!」


 ヒジリは呼吸を整え、ミカガミに向かって突っ込んできた。

 が、緩急を付けた高速移動により、ヒジリが分身したように見える。


「ウィングー流柔拳法、『揺歩(ゆらほ)』」

「ほう、いい足さばきだ」

「か~ら~の~……」


 ヒジリがミカガミの真正面に立ち、右手を開いて伸ばしてくる。

 が、ミカガミはその手をパシッと払う。

 その瞬間、ミカガミの背後に回ったヒジリが、ミカガミの腕を掴み、足払いをして叩き付けた。


「『霞払い』!! ───……あれっ!?」


 だが、腕を掴んで投げた瞬間、ミカガミが空中で加速し、その勢いで一回転。

 掴んでいたヒジリが加速の勢いに負け態勢を崩し、ミカガミが逆にヒジリの手を掴んで投げを打ち、地面に叩き付けた。


「『旋風流し』……うんうん、柔の腕も錆びついていないねぇ」

「……おばあちゃん、マジ強すぎ」

「あったり前だよ。こちとら、これに人生捧げたんだ。お前に全て叩きこんだつもりだけど、まだまだ負ける気なんてしないさ」

「うー……じゃあ勝ち目ないじゃん」

「……あるさ」


 ミカガミは、ヒジリの腕を掴んで無理やり立たせ、その胸をポンと叩く。


「お前は、あたしにない力があるだろう?」

「……能力のこと?」

「そうだ。ウィングー流、そして能力。二つを組み合わせてこそ、お前の最強なんだ」

「でも……」

「迷うんじゃない。でっかい気持ちで向かってきな」

「おばあちゃん……」

「さあ、もう一度だ……ふふ、わかるよヒジリ、お前の気持ちは。でもね……お前には、外で待っている人、仲間、友人がいるんだろう? こんな死んだババア相手に、無駄な時間使ってる場合じゃないよ」

「…………」


 本当は───……わかっていた。

 柔を使わないのも、能力を使わないのも……使えば、終わってしまうから。

 もう二度と会えないと思っていた、大好きな師との時間が終わってしまうから。


「ヒジリ……お前はいい子だ。あたしはお前の記憶から生み出された模造品に過ぎないんだ。遠慮なく」

「できるわけないじゃん!!」


 と───ヒジリは、涙を流しながら叫んだ。

 戦うと決意した……だが、やはりだめだった。

 それくらい、ミカガミが大好きだったから。


「……ごめんおばあちゃん。情けないよね、馬鹿だよね……でもやっぱり、嬉しいの。おばあちゃんにあえて、稽古してもらって……うれしいの」

「……ああ、あたしもだよ。でもヒジリ」

「わかってる。アタシ……でなくちゃいけない。泣いてる暇なんてない。でも、でも」

「…………」


 ミカガミはヒジリに近づき、そっと頭を撫でた。

 そして、優しく抱きしめ、何度も何度も撫でる。


「忘れるんじゃないよ。ヒジリ」

「…………」

「あたしは死んだ。でも、心はお前と共にある。死んでも、お前のことを愛してる」

「……おばあちゃん」

「さあ、ばあちゃんに見せておくれ。お前の……本当の強さを」

「……」


 ヒジリはミカガミから離れ、涙を拭い……両手を広げた。

 すると、金剛に輝く両腕がヒジリの腕に装着。背後に無数の腕を持つ神仏像が現れた。


「金剛拳・終式───……『金剛観音千手神像ヴィシュヌ・アヴァターラ』」


 サーシャとの戦いですら使わなかった、ヒジリ最後の切り札。

 現在ヒジリが生み出せる最強最高最硬度の金属で生み出した、ヒジリが想像する『最強の神』の化身が、ヒジリの動きと合わせ、千以上ある腕を動かし、拳を握る。

 ミカガミは笑った。そして、言う。


「感謝するよ。あたしの人生最後(・・・・・・・・・)、最強の敵と戦える!!」


 その言葉は、ヒジリを弟子でも、娘でも、孫でもない、一人の敵として送る言葉だった。

 それはヒジリにとって、胸を打ち心に染みる言葉。

 ヒジリも笑った。


「いくよ」

「ああ!!」


 ヒジリとミカガミは全力で衝突───……決着は、四十秒後だった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ヒジリは、倒れたミカガミを起こし、壁際に寄りかからせた。

 そして、自分も隣に座る。


「おばあちゃん……アタシ、強かった?」

「ああ。最高だった……ふふ、あたしの人生で、最も強い敵だったよ」

「そっか……えへへ」

「……ヒジリ。一つ、アドバイスをしよう。もっともっと強くなりたいだろう?」

「え?」


 ヒジリがミカガミに顔を向けると、ミカガミがヒジリの胸に触れた。


「でっかくなったねぇ……」

「邪魔なのよ。あたし、おばあちゃんみたいにペッタンコがよかったなあ」

「……別の意味でも負けた気がするね」

「で、もっと強くなるのはどうしたらいいの?」


 ミカガミは、ヒジリの胸に触れ、ポンと叩いた。


「恋をしな」

「……こい?」

「ああ。あたしは生涯独身だったけど、恋をしなかったわけじゃない。大好きな男と一緒に戦った時は、今までの何倍も強くなれた。ふふ、その人がいたら、今のお前にも負けなかったかもねぇ」

「……それ、ほんとなの?」

「ああ。ヒジリ、胸に手を当てて目を閉じな。そして、自分が最も会いたいと思う男を思い浮かべるんだ」


 言われた通りすると、ヒジリの目に浮かんだのは。


「……ハイセ」

「ハイセ……そいつに、恋をしているかい?」

「わかんない。でも、ブッ倒したいとは思ってる。この禁忌六迷宮をクリアしたら、戦うつもり」

「そうかい。まだ恋じゃなくてもいい。いずれ、自分の恋を見つけて、愛を知りな。きっとその愛が、お前をどこまでも強くしてくれる」

「……愛」

「ふふ、さあそろそろ時間だ」


 すると、部屋の奥に扉が現れた。

 同時に……ミカガミの身体が、消えていく。


「おばあちゃん……」

「もう泣くんじゃないよ。あたしとお前は、十分語り合った……行きな。振り返るんじゃないよ」

「うん……」


 ヒジリは立ち上がり、歩き出す。

 ミカガミも立ち上がり、ヒジリの背中を見た。

 ヒジリは扉に向かって歩く……その身体が、震えていた。

 そして、ドアノブに手をかけ……涙をボロボロ流しながら振り返り、頭を下げた。


「押忍!! ありがとうございましたぁ!!」


 頭を下げ、ミカガミの顔を見ないように叫び……ドアを開け、先に進んだ。

 残されたミカガミは。


「……馬鹿たれ。振り返るなと言ったのに」


 ミカガミは、ボロボロと涙を流していた。

 そして……その身体が透き通り、完全に消えていった。


『───……じゃあね、ヒジリ』


 別れの言葉はきっと、ヒジリには聞こえなかった。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
この作品読んで唯一、ヒジリ編で泣いた。 おれ、家族モノとか弱いんだよなぁ。
ヒジリの中に絶対にないと言い切れる異性への在り方が出てきたあたりタダの記憶じゃないよね? トレースしたのは本当かもしれんけど、それに合わせて魂の召喚とかしてそう
[良い点] また、このエピソードは素晴らしく、10点中10点の評価に値します。 ハイセとヒジリの戦いがとても楽しみです、きっととてもかっこいいと思います。
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