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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第十五章 神の箱庭

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九つの試練『神の箱庭』⑥/紫、灰、青

 紫の扉を進んだヒジリ。

 扉の先は広い部屋だ。天井は高く、四方は壁、窓も何もない部屋だ。

 ヒジリは自分を確認する。

 身体に変化はない。ドアを潜る前と同じで、軽く身体を動かしてみる。


「調子はいいわ。能力も使えるし……で、ここ何かな」


 壁、天井、床しかない。

 ヒジリは指をパキパキ鳴らした。


「壁をブチ壊すのかな。そういうのは大得意だけど~……ハズレ引いたかなぁ」

「大馬鹿モン。もう少し頭を働かせんか、この単細胞め」


 と───いきなり声が聞こえてきた。

 ギョッとして裏拳を放つが、声の主は床すれすれまで屈み、ヒジリの足をパシッと掴んで払う。

 態勢を崩し舌打ちするが、襲撃者はヒジリの手首を掴んで回転させ、そのまま壁に叩き付けた。


「うぎっ……!?」

「ほほ、相変わらず受け身は下手ねえ」

「誰っ……え」


 立ち上がり、距離を取り、構え……ようやく、襲撃者を正面から見た。

 そこにいたのは、老婆だった。

 やせ細り、眼鏡を掛け、白髪を団子にまとめ簪を刺している。

 シワだらけの顔はにこやかにほほ笑んでいた。

 ヒジリは構えを解き……呟いた。


「お、おばあ……ちゃん」

「久しいねえ、ヒジリ。でっかくなった」

「お……おばあ、おばあちゃん!!」

 

 ヒジリはボロボロ泣き出し、師であり祖母のような、大好きな育ての親に飛びついた。

 ヒジリの師、ミカガミは優しくヒジリを抱きしめ、その頭を撫でる。


「ほら、泣くんじゃないよ。全くこの子はもう……」

「だって、だって……おばあちゃん、勝手に死んで、別れも言えなくて……」

「あんたにはもう全部叩きこんだ。拳でしっかり語っただろう?」

「うぅ……」

「さ、やるよ」

「……え?」


 ミカガミはヒジリを放し、距離を取る。

 両手を開き、ゆっくりと前に向けた。


「お、おばあちゃん……?」

「ヒジリ。あたしゃもう死んでる。ここにいるのは、お前の記憶のあたし」

「……え」

「最も親しき者と戦い乗り越える試練、『苦愛の試練』だ。さあ、最後の稽古を付けてやろう。ウィングー流創始者ミカガミの全力を持ち、お前を叩きのめしてやる」

「……」

「どうした、ヒジリ」


 ヒジリは、本気で迷っていた。

 十七年の人生で、かつてないほど困惑……死んだミカガミに会った喜び、ここが禁忌六迷宮と思い出したこと、そして祖母とも慕った存在と戦う現実。

 禁忌六迷宮の試練。ヒジリは、震える手で拳を握ろうとしたが、うまく握れなかった……そんな時だった。


「───……喝!!!!!!」

「っ!!」

「あたしの跡継ぎが…「孫」が、そんな情けない顔するんじゃないよ!! わかんないのかい!? あんたにできる最高の親孝行のチャンスなんだ!! 気合入れな!!」

「……!!」

「あたしは、あんたに全て教えた!! でも……寿命のせいで、あんたがあたしを超えたと確認することなく死んじまった……だから、いい機会だ。ヒジリ、あたしを超えて見せな!!」

「おばあちゃん……うん、そうね」


 ヒジリは拳を固め、構えを取る。

 ミカガミは頷き、ゆらりと構た。


「いくよ、おばあちゃん」

「ああ……来な、ヒヨッコ!!」

 

 『苦愛の試練』……ヒジリの戦いが始まった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 ヴァイスは歩いていた。

 どこかの大きな町。文明レベルも高く、ハイベルグ王国より発展している。

 だが、おかしいのは……この街が、戦火に包まれているということ。

 人間の死体、壊れた機械人形が多く散乱しており、建物も多くが倒壊、さらに火に包まれている。

 

『…………』


 死体や、同じ機械人形を見てもヴァイスは何も言わない。

 ヴァイスの手には巨大なケースがあり、数々の武器が収納してある。

 いつでも使うことができる。そして、今はその時だろう。


『…………解析不能』


 ヴァイスが到着したのは、噴水広場。

 目の前にいるのは、不格好な人形のような、ヴァイスの二倍以上ある細身の機械人形。

 手には蛇のように蛇行した剣。そして、身を隠すほど大きな四角の盾を持っている。


『質問します。あなたは、何者ですか?』


 ヴァイスが確認をする。

 すると、相手の機械人形は声を出さず、剣をクルクル回転させ、盾を構える。

 そして、細すぎる両足をガチャガチャ動かしながら、恐るべき速度で突進してきた。


『!!』


 ヴァイスは側転して躱す。

 機械人形は急ブレーキを掛け、人間ではあり得ない動きで反転、ヴァイスに剣を向ける。

 どう見ても、友好的には見えない。

 ヴァイスはケースをアイテムボックスに入れ、背中に収納している二対の扇を取り出し、バッと広げた。


『私は、灰の扉を攻略せよと命令されました。邪魔をするなら排除させていただきます』


 ヴァイスは知らない。

 ここは過去。ドレナ・デ・スタールが存在した時代の街。

 『戦火の試練』……過去、最も激しい戦いのあった時代で生き残るという試練。

 敵の機械人形が持つ盾には、『ルールー・セレナイト』と刻まれている。


『では、一曲……お付き合いのほど』


 ヴァイスは、生き残るために戦い始めた。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇

 

「……うそ」


 ドアを通ると、まぶしい光がクレアを包み込む。

 そして、眼を開けるとそこは……クレアにとって、見慣れた場所だった。


「……なんで」


 白いドレス、ティアラを付けていた。

 そして室内。暖炉の火がよく燃えて暖かく、豪華なシャンデリアや天蓋付きベッド、椅子にテーブル、ソファ……あるものすべてが高級品。

 クレアは鏡を見た。そこにいたのは、間違いなくクレア自身。

 そう、美しいドレスを着た自分。もう会うことのないと思っていた自分。

 クレアは窓の外を見た。


「……雪。しかも、この光景……やっぱり、ここ」


 すると、部屋のドアがノックされた。

 そして、ドアが開き、ティーカートを押したメイドが入ってくる。


姫様(・・)、お茶の用意が……どうされました?」


 綺麗な白髪の、クレアと同い年ほどのメイド少女。

 その顔を見て、クレアは息を詰まらせた。


「だ……ダフネ」

「はい。あなたのメイド、ダフネです。どうされたんですか、クレアネージュ王女殿下?」


 クレアネージュ。

 その名は、かつてクレアが捨てた名。


「ここ、ほんとに……フリズド王国」


 クレアネージュ・ビアンカネーヴェ・フリズド。

 フリズド王国第一王女であるクレアは、なぜここにいるのか理解できなかった。

 

「さ、姫様。おいしいお茶の時間ですよ」

「……う、うん」


 クレアは座り、幼馴染で親友で専属メイドであるダフネをジッと見た。

 紅茶を注ぎ、クレアの好きな香草クッキーを三枚添え、にっこり笑顔でクレアの前に置く。クレアの見慣れたダフネの動きに、クレアは冷静になる。

 そして、紅茶を飲み……考えた。


(落ち着け。ここは禁忌六迷宮の中。ダフネがいるわけない。でも……この紅茶、ちゃんと飲める。あれ……私の剣は? 服も……落ち着け落ち着け。脱出、脱出……ううん、禁忌六迷宮なら、ここを攻略しないと)


 紅茶を一気に飲むと、ダフネが言う。二人きりなので、言葉使いが変わった。


「相変わらず、いい飲みっぷりね」

「あ、あはは……ね、ねえダフネ。今日って、何か特別なこと、ある?」

「え? って……クレア、忘れたの? 今日はこれからお忍びで、町に出る日でしょ」

「……あ」

「ふふ、楽しみにしてたじゃない。平民の間で人気のケーキ店に行くって」

「……そう、だったね」


 クレアは思い出した。

 そう、この日はダフネと一緒に、城を抜け出して城下町へ行った日。そして、平民の間で人気のケーキ店でケーキを食べ……。


(ケーキを食べた後、私とダフネは……教会に行ったんだ)


 フリズド王国では、教会で『能力』を確認する。

 些細なきっかけだった。

 たまたま目に入った教会に入り、クレアとダフネは自分に宿っている『能力』のことを知る。

 そう、クレアが『ソードマスター』だとわかる日。

 そして、クレアが名を捨て、ダフネを『生贄』として、冒険者を志すきっかけとなった日だった。


「…………」

「クレア、どうしたの?」

「……あ、その」

「ほら、飲んだら準備。平民の服は用意したからさ、もう少しでキッチンが休憩に入るから、裏口から外に出るよ」

「……うん」


 こうして、クレアにとって冒険者を志す切っ掛けとなる日が始まる。

 『追憶の試練』……ちゃんと過去の通り、進むことができるのか。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
Haise is collecting royalty. Eclipse Daughter of king plummel kingdom Presea Sister of Queen of yggr…
[一言] 今回の3人の試練てヴァイス以外はなんか強化イベみたいな感じに思えるな。ヴァイスも勝てば相手を捕食して強化できるかな? クレアは高位の貴族令嬢かなにかと思ったら王族か~。後で冒険者になった理由…
[一言] なんとなく予想はしてましたがやはりクレアは高貴な身分出身でしたか
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