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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第十五章 神の箱庭

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九つの試練『神の箱庭』⑤/白、橙、赤

 白の扉を潜ったサーシャ。

 扉の先は真っ白で、足を踏み込むと背後にあった扉が消えた。

 扉があった空間に手を伸ばすが、空を切るだけ。


「戻れない、か……だったら、進むのみだ」


 振り返り、白の先を歩き出す。

 サーシャは、改めて空間内を確認してみた。


「周囲は白。建造物などはナシ。呼吸は可能。足下は……硬いな。だが、この白さはどうも気分が悪い……長時間滞在するべきじゃないな」


 だが、もう後戻りできない。

 この空間で何日も過ごすことになるかもしれないのだ。サーシャは気を引き締め、何が現れようと対応できるよう、周囲を警戒する。


「……みんなは、大丈夫かな」


 九つの扉に入った者たちは、全員が強者だ。

 何が現れても冷静に対処できるだろう。そう思い、サーシャは自分のことを第一に考え、両頬をパンと叩いた。


「よし!! 私はこの『白の扉』を攻略する。さぁ、何でもかかって来い!!」


 自分を鼓舞するため、気合を入れた時だった。


『へえ……何でもだって?』

「!!」


 突如、目の前に黒い球体が現れた。

 モヤのような球体。白い空間で唯一の漆黒……サーシャは剣を抜き、闘気で全身を包み込む。もう油断も隙もない、S級冒険者序列四位『銀の戦乙女(ブリュンヒルデ)』がそこにいた……が。


『お前、誰を相手にするか、わかってんのか?』

「……えっ」


 黒いモヤが、形作られていく。

 漆黒のコート、眼帯、真紅の瞳。

 そして、腰の両側にあるホルスターから自動拳銃を抜き、サーシャに突き付けるのは。


「は……ハイセ? な、なぜお前が」

『はっ……敵を前に理由なんか聞くのか? 俺を追放した女がよ』

「あ……」


 ブルリと、手が震えた。

 次の瞬間───ハイセの拳銃が火を噴いた。

 サーシャは瞬間的に剣を盾のように構えて銃弾を受ける。

 

『仲間は傷付けるのに、自分を守ることだけは必死だな』

「は、ハイセ……わ、私は」

『来いよ。やろうぜ、サーシャ』


 サーシャは気付いていない。

 このハイセが幻影だと。白の扉の試練である『幻影の試練』が始まったことも。そして、ハイセに対する負い目が、サーシャにとって最大の弱点であるということも。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


「……おいおい、マジか」


 ウルは、貴族が着る礼服を着て、見覚えのある部屋にいた。

 意識はしっかりしている。顔や手に触れると実体であり、夢を見ているわけではない。

 鏡を見ると……ウル・フッドがいた。

 だが、若い。


「これは……十五くらいの時か。しかもここ、プルメリア王国フッド侯爵家の屋敷。か~……っ、マジかよ。過去に飛ばされ……いや、これは『神の箱庭』の見せる幻覚か?

 過去に戻る能力なんざ聞いたことねぇし、魔族のスキルでも不可能だろ」


 サーシャよりは冷静だった。

 ウルは、立派な机の上にあった花瓶の花を見る。

 葉を一枚千切り、部屋の隅にある別の花瓶に向けて投げると、葉は勢いよく飛び、花瓶に吸い込まれるように入った。


「能力は使えるな。さて……この『橙の扉』をどう攻略するか、考えねえとな」


 と、襟を緩めようとした時だった。

 ドアがノックされ、小さな女の子が入ってきたのだ。


「おにいちゃん、いる?」

「……ああ、そういうことか」


 ウルは頭を抱えたくなった。

 そして、思い出した。

 現在十五歳。そして、入って来た少女……ロビンは十歳。

 あと一年でウルはフッド侯爵家を追放され、冒険者となる。


「おにいちゃん?」

「……なあロビン」

「なーに?」


 プルメリア王国、フッド侯爵家。

 プルメリア王国は魔法系能力を持つ者を優遇する。だが、ウルの能力は『必中』という、特殊系の能力だ。そして、なんとなく思い出した。

 この日は、ウルが『能力』を確認し、『必中』の能力だとわかり、家族が絶望した日。

 そして、ウルの冷遇が始まることが明らかになり、一年後には家を出ようと思った日。この日からウルは能力を鍛えることになる。

 ロビンも同じ『必中』を持つと知るのは、ロビンが十二歳……ウルが家を出て一年後のことだ。

 ウルは、ロビンに聞いた。


「お前、オレと冒険者になるか?」

「えー? おにいちゃん、冒険者になりたいの?」

「ああ。オレの能力、聞いただろ?」

「うん。おとう様が言ってた……役立たずだって」

「まあな」


 二人には、年の離れた兄と姉がいる。二人とも魔法系能力者であり、兄はプルメリア王国所属の魔法騎士。姉も同じ魔法騎士で、二人とももう間もなく結婚する。

 あと一年……ウルが家を出れば、ロビンは一人になる。そして、自分の能力を知り、家出をして、ウルに出会い、ハイセたちと出会う。

 当時は、まさかロビンが『必中』を持っているとは思っていなかったので、驚いた。


(今はまだロビンは可愛がってもらってるけど……能力を確認したら待っているのは冷遇、そして侯爵家の婚姻道具としての道だ。感謝するぜ……迷宮の試練でも、やり直しできるなら、やり直させてもらう)


 ウルはロビンの頭を撫でる。


「ロビン。『必中』は、役立たずなんかじゃない。鍛え抜けば、どんな能力にだって負けない、とっても強い能力なんだ」

「そーなの?」

「ああ。そしてロビン、お前にもオレと同じ能力がある。今から鍛えて、オレと一緒に冒険者になろう」

「……???」


 ウルが何を言っているのかわからないのか、ロビンが首を傾げた。

 ウルがやろうとしているのは、『自分の手で妹を鍛え、導く』というものだ。このまま未来に進んでも、ハイセやサーシャと出会い、ロビンは成長していく。

 でも……やはりロビンは、ウルの妹なのだ。

 同じ能力を持つ妹を、自分が鍛えてやりたい。S級冒険者序列五位『月夜の荒鷲(ヴェズフルニル)』と呼ばれた経験を、強さを、叩き込んでやりたい。


「ロビン、兄ちゃんと一緒に行かないか?」

「ねーねー、そんなことより、一緒にあそぼっ」


 橙の扉を潜った先にある『後悔の試練』……ウルは無自覚に、正しい攻略手順を踏んでいた。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


「す……素晴らしい!! ああ、素晴らしいぞ!!」


 赤の扉を潜った先にあったのは……とんでもない量の『蔵書』だった。

 ハイベルク王国にある王立大図書館には、約十四万七千冊の蔵書が保管されているが、ここにある蔵書はその比ではない。

 タイクーンはハァハァしながら分析する。


「お、落ち着け……れれ、冷静になれ」


 タイクーンは、近くにある本棚を見上げた。


「ふむ。本棚か……蔵書は見た感じ、一つの本棚に五百といったところ。それが見渡す限り存在する……こうして眺めるだけでも、千、二千以上はある」


 つまり、十万冊以上、ヘタしたらその倍以上の蔵書がある。

 本を手に取り確認する。


「作者、アンドレイ・ニコラウス……知っている著者だ。彼の研究は星の軌道、太陽の軌道についてだったかな。内容も……待て、この内容、ボクは知らないぞ!? そうか、これは未発表作品か!?」


 驚愕するタイクーン。

 そして、その棚には『アンドレイ・ニコラウス』の著書が全て並んでいた。見覚えのある本もあり、タイクーンが知らない本もある。

 本をアイテムボックスに入れようとしたが、弾かれた。


「持ち出しは不可能……む?」


 本を手に取った瞬間、遥か先に『巨大な扉』が現れた。

 タイクーンは本棚に本を戻し、巨大な扉を確認すべく歩き出す。

 ざっと二時間ほど歩き、ようやく到着した。周囲を確認しながら歩いたが、やはりここは本棚しかない。

 さらに妙なことがあった。


「ふむ。二時間、速足で歩いたが……全く疲労がない。それに、喉も乾かない、用も足す必要もない。恐らく食事も、睡眠も必要ない……そして」


 巨大な扉の前に、大量の『人骨』が散らばっていた。

 全て、服を着た人骨だ。

 そして、扉の前には、巨大な羊皮紙があった。羊皮紙にはびっしりと文字が書かれており、その内容を確認する。


「これは、問題用紙か……ああそうか、そういうことか」


 問題の数は、ざっと一万問。

 ペンとインクもあった。そしてタイクーンは理解した。


「ここにある蔵書をヒントに、この一万問の問題を解け、ということか。そして正解すれば扉が開く……その間、食事も睡眠も必要ない。この人骨たちは過去の挑戦者、だが、これだけの問題、書物に耐え切れず、自害したということだな」


 人骨を確認すると、どれも自死した形跡があった。

 食べることも寝ることもできず、ひたすら問題を解くだけの時間に疲れてしまったのだろう……だが、タイクーンは眼鏡をクイッと上げた。


「ずっと、思っていた……食事や睡眠などの時間を、読書や研究に回せれば、と。く、ククク……クハハハハハッ!! 最高、最高じゃないか!! これだけの蔵書を、たった一人で読んで、この一万の問いを解け? ああ、最高だ!! 素晴らしい!! ありがとう禁忌六迷宮『神の箱庭』!! ここはボクの楽園だ!!」


 赤の扉……『知識の試練』を引いたタイクーンは、人生最高とばかりに叫び、さっそく問題に取り掛かった。

 ちなみに『赤』は闘争本能を刺激する色。ここに入った多くの者たちが、読書など無縁の戦士たちばかり。

 そう言う意味でも、タイクーンは大当たりだった。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
タイクーンのところ、ヒジリだったら詰んでたわけねw
[気になる点] 食事や睡眠等が必要ない空間に『死』が存在するのでしょうか。その事に疑問も抱けないような賢者が難問を解ける気がしません。微生物も食事をしないような空間での白骨化もよく分からないし。死体は…
[良い点] この章の和解エピソードが救いになりそうなところ [気になる点] ウル……シスコン? [一言] 幻影や後悔の試練は、挑戦者の記憶が反映されるだろうから…地雷の目視設置やバンカーバスターは知…
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