九つの試練『神の箱庭』③/八人目、九人目
ハイセ、ヒジリ、プレセア、エクリプス。そしてクレアの五人は、クラン『セイクリッド』のハイベルグ支部へ向かい、待っていたサーシャたちの案内で地下会議室へ。
クランの重要な話をする、専用会議室内。
チーム『セイクリッド』の五人、そしてハイセたち五人の十名が会議室に揃い、始まった。
進行はタイクーン。
「ではこれより『神の箱庭』攻略会議を始める。最初に、攻略に挑む九名のうち、確定したメンバーからだ」
ハイセ、サーシャ、タイクーン、プレセア、ヒジリ、エクリプス、クレア。
現在、七名まで確定。レイノルドは口笛を吹く。
「改めて聞くと、すげえメンバーだな。今ならこのメンバーだけで、スタンピードも食い止められそうだぜ」
「だよねだよね。みんなすっごいし。もちろん、あたしたちもだけどっ!!」
ロビンが笑い、なぜかハイセの隣に移動した。
「ね、ね、ハイセ。クレアも連れてくの?」
「ああ。昨日、実力を確認したが、こいつはもうA級上位レベルはある。まだ甘いが、起用する価値はあるな」
「そうなんだ。いいな~」
「気になるなら、挑んでみたらどうだ?」
「う~ん。あたし、そういうのはちょっとなー」
「……話を戻そう。ロビン、私語は慎め」
「はーい」
タイクーンに言われ、ロビンはハイセの腕を取りムスッとした。
今は会議中。あまりベタベタされるのは嫌なハイセ。
「おい、くっつくな」
「いいじゃん別に」
「……ったく」
それ以上言わず、ハイセは無視することにした。
タイクーンが咳払いする。
「この中で、メンバーに不安を感じる者はいるか? 恐らく、九つの扉の先は完全な個人戦となる……チームの連携が期待できない以上、ソロでも戦えるメンバーだとボクは思う」
「ま、そうだな。オレの場合、守りは自信あるが、攻めはイマイチ。ガキの喧嘩と変わらねぇし……現状、クレアがベストだと思うぜ」
「ふん。個人ね……なら、そちらのエルフさんはどうなのかしら? 薬草採取ばかりで、戦闘が得意とは思えませんけど」
ピアソラが、プレセアをチラ見しながら言う。
その視線に気づいたプレセアが言う。
「『風よお願い』」
「───っ、っく、っけ……」
「ピアソラ? おい、ピアソラ!?」
ピアソラが、喉を押さえ口をパクパクさせた。
プレセアが指を鳴らすと、ピアソラは涙目で思い切り深呼吸、顔を真っ赤にした。
いきなりのことに、サーシャがプレセアを睨む。
「何をした!!」
「私の実力を疑ってるみたいだから、わかりやすく実演しただけ。その子の口と鼻に精霊をくっつけて、ちょっと呼吸できないようにしただけよ」
「ぷぁーっ!! っぜっぴぁ……ぐぇっほ、げっほ!!」
「それで、どうかしら? 私の実力……合格?」
「テメェ……!!」
ピアソラが額に青筋を浮かべて睨む。再び指を鳴らそうとしたが、プレセアの隣に座っていたハイセがその指を掴んだ。
「やめとけ。話が進まねぇ……やるなら、会議終わってからにしろ」
「そうね。で、何だったかしら。残りのメンバーをどうするか、ね」
タイクーンを見ると、ため息を吐きつつ「そうだ」と言う。
「残り二名をどうするか。いくつかボクも案を考えてきたが……まずは、全員の意見を聞きたい。まずはハイセ、キミの考えを教えてくれ」
「二人、アテはある。一人は確定、もう一人は……わからん」
「ほう、誰だ?」
ハイセは、その『二人』の名前を言った。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
会議が終わり、サーシャはピアソラを連れ、とある場所に向かっていた。
「グギギ……あのエルフ、絶対泣かしますわ」
「やめておけ。煽ったお前も悪いぞ」
「むぅ……サーシャが言うなら」
ピアソラは、久しぶりにサーシャと二人きりなので、プレセアのことで頭を沸騰させるのはもったいないと考え、すぐに思考を切り替えた。
これからサーシャと『八人目』を迎えに行くところだ。
ピアソラは嬉しそうにサーシャの腕を取り、自分の胸に押し付ける。
「おい、くっつき過ぎだ。歩きにくいぞ」
「だって、私はしばらくお留守番ですし、サーシャと一緒にこうして歩くことがしばらくできませんもの……ちょっとくらい、甘えていいでしょ?」
「……まあ、いいが」
「やった!! んふふ、サーシャぁ~」
サーシャにべったりくっつき、髪をクンクン嗅ぎ、腕に頬ずり……さすがに気分が悪くなったのか、サーシャは腕を外す。
「調子に乗りすぎだ」
「あん、サーシャのいけず」
「それに、もう到着だ」
到着したのは、ハイセがオーナーを務め『セイクリッド』が管理する劇場。
その名も、『白銀の踊り子劇場』だ。
サーシャは共同責任者の特権として、劇場内に自由に出入り可能。さらにVIP席、超VIP席の二つが常に確保してある状態だ。
「んふふ、サーシャと劇場デートですわ」
「違う。もうわかっているだろう? 今日は八人目……ヴァイスに事情を説明しに来たんだ」
「でもでも、劇が終わってからでもいいでしょう? ね、一緒に観劇しましょう」
「む……まあ、確かに」
仕方なく、サーシャはピアソラと一緒に超VIP席へ。
べったりくっつくピアソラを甘やかしながら劇を鑑賞し、全ての演目が終わり閉場となったところで、ヴァイスのいる楽屋へ。
楽屋はかなり広く、手入れの行き届いたドレスが綺麗にクローゼットにかけてあり、サーシャがよく知らない劇で使う小道具なども大量にあった。
そして、巨大な檻の中にある豪華な椅子に座るヴァイス。サーシャに反応し、眼を開けると、瞳が緑色に輝いた。
『マダム。ようこそいらっしゃいました。申し訳ございません。本日の演目は終了となりました』
「観客席で見ていた。やはり、お前の踊りは美しい……魅入ってしまったよ」
『ありがとうございます』
陶磁器のような顔には亀裂のような筋が入っており、この亀裂が表情を生んでいる。今は笑顔を浮かべ、綺麗なお辞儀をした。
サーシャが理解できない技術で動く人形、ヴァイス。
背中にある時計がカチカチと音を立てて動いており、ほんのわずかに首を傾げた。
『マダム。何か御用でしょうか?』
「ああ。お前に頼みがあってきた」
サーシャは、禁忌六迷宮『神の箱庭』について説明する。
ヴァイスは無言で説明を聞き、当然のように言う。
『畏まりました。お役に立てるよう、努力します』
こうして、八人目……『機械人形』のヴァイスが参加することになった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
一方ハイセは。
ヒジリでも。プレセアでも、クレアでもない少女を連れ、城下町を歩いていた。
「ねーねーハイセ、九人目にお兄ちゃんってさ...もしかして~なんかあった?」
ロビン。
ハイセの腕に飛びつき、やや強く抱きしめる。
最近、ロビンはハイセに甘える。年下とはいえ、ロビンも女だ。あまりベタベタされるのはハイセとしても落ち着かない。
「……お前の兄、ウルはソロのS級冒険者だ。それに……いろいろあったから俺とお前で頼めば、了承するだろ」
「なーるほどねっ、それであたしと一緒にお兄ちゃんのお店行くんだ。ねーねー、行く前にカフェでお茶しない? デートしよっ」
「するか。全く……」
「っていうか、お兄ちゃんの店なんてあったんだ……知らなかったよー」
表情をコロコロ変えながらロビンは言う。
そして、ロビンのくだらない話に適当に相槌を打ちつつ、ウルの店に到着した。
店に入り、マスターに言う。
「ウル・フッドに用がある。取り次いでくれ」
「……何の御用で?」
「お前に関係ない。いいから会わせろ」
「……お引き取りを」
マスターがハイセを無視。
ハイセの眉がぴくっと反応したところで、ロビンがカウンター席を叩いた。
「ちょっと!! あたしが来たってお兄ちゃんに伝えて!! ロビン・フッドが来たって、かわいい妹が来たってね!! 伝えないなら別にいいよ。お兄ちゃんのこと、大嫌いになるから!!」
「待て待てマテ!! 大嫌いは勘弁してくれ!!」
と───……カウンター裏のドアが開き、ウルが飛び込んできた。
「やっほ、お兄ちゃん」
「あー……」
「……いたのか、お前」
「いや、まあな……あーもう、わーったよ、二階で話すぞ」
ハイセたちは二階個室に移動。座るなり茶も出さずにウルは言う。
「で、何か用か」
「用があるから来たんだし。ってかお兄ちゃん、こんな店やってたんだ」
「隠れ家の一つな。で、用事は?」
「仕事を頼みに来た」
「……は? お前が、オレに?」
ウルは驚いていた。まさかハイセが仕事を頼みに来るとは考えてもいなかったようだ。
ハイセは頷き、禁忌六迷宮『神の箱庭』について説明する。
「───……というわけで、お前に『扉』の一つを任せたい」
「……マジか」
「ああ。報酬は払う」
「あー……禁忌六迷宮か。まさか、オレに手伝えとはね。想定外だった」
「S級冒険者序列五位。お前なら任せられる。手ぇ貸せ」
「……んん-」
「お兄ちゃん、お願い。可愛い妹のお願い、聞いてちょうだい♪」
ロビンが可愛らしくお願いすると、ウルは苦笑した。
「まあ、お前には迷惑かけた借りもあるしな。一応オレもS級冒険者だし、一つくらい偉業残してもいいか……わかった、その依頼受けてやる」
「よし。詳細は追って連絡する。準備をしておいてくれ」
「おう。あ、ロビン、久しぶりにメシでもどうだ?」
「奢りならね。あ、ハイセも!!」
「……まあ、いいけど」
こうして、九人目が決まった。
S級冒険者序列五位『月夜の荒鷲』ウル・フッド。
九人の挑戦者が揃い、禁忌六迷宮『神の箱庭』の攻略が、今始まる。





