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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第十五章 神の箱庭

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今と過去

 ハイベルグ王国、王都リュゼンから西に向かうと、小さな沼地がある。

 ここは、『シロツメの草』の群生地。回復薬の素材であり、希少な薬草だ。

 ハイセは一人、沼地にやって来た……そう、ここはかつて、ハイセが右目を失った場所。

 

「…………懐かしいな」


 ここ数年で地形が変わったのか、街道から外れ、人が入った様子もない。

 シロツメの草が自生し、成長し、真っ白な花が咲き誇っていた。そして沼もどういう理屈なのか不明だが浄化され、透き通る湖になっている。

 魔獣の気配もない。隠れた秘境のような場所。

 ハイセは真っ白な花畑に踏み込む。黒いコートを着たハイセは、とても目立っていた。


「……こんな場所があったんだな」


 ふと、よく響く声が聞こえた。

 振り返るとそこには───……銀髪をなびかせ、白い鎧姿に剣を差したサーシャがいた。

 風が吹き、髪が流れ……そっと手で押さえる。そんな姿がとても似合っていた。


「……俺が右目を失い、『能力』に覚醒した場所。俺はここで『闇の化身(ダークストーカー)』になった」


 そう言い、ハイセは湖に目を向けた。

 すると、白い魚がパシャっと跳ね、また潜る。


「お前を呼び出した理由……わかるか?」

「…………」


 二人きり。

 チーム『セイクリッド』もいない。プレセアの精霊もいない。

 誰の邪魔も入らない、完全な二人きり。

 ハイセはサーシャを呼び出し、サーシャは仲間に気付かれないよう一人で来た。


「お前に、いろいろ言いたくてな」

「……ああ」


 風が吹き───……ハイセの髪とコートが揺れる。

 サーシャの髪が揺れ、シロツメの花びらが舞う。


「今更、仲直りなんてできない。それに……改めて気付かされた。俺はやっぱり、お前たち『セイクリッド』を許すことはできない」

「……」

「でも……お前と同じ気持ちもある」

「同じ、気持ち……?」

「ああ。また、お前と話したり、メシ食ったり……一緒に協力して戦ったり。何気ない日常の片隅に、お前たち『セイクリッド』がいてもいい……そう思った」

「ハイセ……」


 サーシャは少し目を見開き、何か言おうとして……口を閉じる。

 今はまだ、ハイセのやさしさに甘えるわけにはいかない。


「サーシャ、お前の気持ちも聞かせろ。噓偽りのない、お前の気持ちを」

「…………」


 サーシャは一歩、二歩と進み……手を伸ばせば届く距離までハイセに近づく。

 そして、顔を上げ、まっすぐハイセを見て言う。


「私は、お前を追放した」


 事実を言う。

 サーシャにとっても、間違いのない、確実なことを。


「私は『ソードマスター』として強くなった。でもお前は一向に『能力』に覚醒せず、その苛立ちをお前にぶつけ……最終的にお前は付いてこれないと確信し、追放した。今でも言える……あの判断は、間違いじゃなかった」

「…………」

「お前のためにと渡した情報でお前は死にかけ、奇しくも強くなった。私たちへの怒り、恨みを糧にして『闇の化身(ダークストーカー)』となり、S級冒険者として最強になった……私は、お前に合わせる顔がなく、ずっと逃げていた」

「…………」

「でも、お前と向き合い……謝罪し……お前との間に、新たな絆が生まれ、育っていくのを感じていた。私が一方的に謝罪しようとして満足しただけで、お前から許すとは一言も聞いていないのにな」

「…………」

「私は、お前に甘えていた。お前がくれる優しさに甘えて……自分が満たされることだけを優先し、新しい絆を否定するお前の気持ちを、踏みにじった……!!」


 サーシャは拳を握り、顔を伏せ、歯を食いしばる。

 ハイセはサーシャから目を逸らさなかった。

 そして、サーシャは顔を上げる……瞳に、涙をためて。


「すまなかった……!! ハイセ、私は……それでも、お前との絆を、失いたくなかった。醜くても、情けなくても……それが私の本心だった」

「……そっか」

「ハイセ、私は……」

「もういい。それがお前の気持ちなら……それでいい」

「……え?」


 ハイセは、人差し指をサーシャに向け、涙を掬う。


「俺はお前たちを許さない。でも、新しい絆も否定しない」

「……あ」


 ハイセはポケットから、小さな鍵を取り出す。


「サーシャ、俺と一緒に……禁忌六迷宮『神の箱庭』を、攻略しよう」

「……っ、ぁ、っぁあ!!」


 サーシャは涙を拭い、頷きながら返事をした。おかげで変な声が出てしまう。

 サーシャはアイテムボックスから古い木箱を取り出す。

 そして、ハイセの鍵が木箱に触れると、木箱が淡く輝いた。

 魔法的な鍵が外れ、箱が開きそうになる。サーシャは蓋を押さえた。


「攻略には九人、必要なんだな?」

「ああ。私たち『セイクリッド』が五人、ハイセ、プレセア、ヒジリ。そしてエクリプスで九人だが……」

「待て。一応、何かあった時のために、『セイクリッド』のメンバーを何人か残しておけ」

「やはりそう言うと思ったぞ、ハイセ」

「そうだな……扉は九つ、一人一つの扉しか入れないなら、単騎でも戦闘ができるメンバーで行くのがベストだ。ピアソラ、援護特化のロビンも残しておくべきか」

「待て。クランをまとめるなら、レイノルドを残す手もある」

「タイクーンは?」

「……うむ。その辺はクランで話し合う。そうなると、他のメンバーをどうするかだな」


 二人が真面目に話し合っていると、風が吹く。

 ふと、会話が止まり……ハイセとサーシャは見つめ合い、サーシャが笑った。


「ふふっ……禁忌六迷宮のことばかりだな」

「四つ目の禁忌六迷宮だ。ここを踏破すればあと二つ……もう少しだ」

「そうだな……なあハイセ、少し息抜きしないか?」


 サーシャは湖際まで向かい、レガースを脱ぎ、チャプチャプと入っていく。

 

「おい、何を」

「ふふ、気持ちいいぞ。この場所……私とお前だけの、秘密の場所にするか?」

「あのな……俺はここで右目失ったんだぞ」

「あ……そ、そうか」

「……まあ、あの頃とは全く違う場所に見えるし、いいけどな」

「そ、そうか!! ふふっ」


 仕方なしとばかりに、ハイセも湖際まで近づく。サーシャのように水に入ることはなく、近くの岩に腰かける。

 魚が跳ねるのを見て、ハイセはおもむろにアイテムボックスから釣竿を取り出した。


「釣竿って……お前、釣りなんてするのか?」

「まあな。というか、野営道具の一つだ。けっこう魚跳ねてるし、今日は仕事休みだしな」

「そうか……じゃあ、私も休憩しようかな」


 サーシャはアイテムボックスから、テーブルや椅子を出す。

 そして、カップを二つ出し、果実水を注いだ。


「さ、いっぱい釣ってくれ。お昼を楽しみにしているぞ」

「……食う気満々だな」


 今、この瞬間……二人は幼馴染に戻り、休日を満喫していた。

 こうして、ハイセとサーシャは和解。

 完璧な和解ではない。ハイセはまだ『セイクリッド』を許していないし、サーシャも許してもらったなんて思っていない。

 でも、こうして新しく生まれた『絆』を否定することは、もうない。

 一緒に笑い、食事し、同じ依頼を受けることもある。

 そんな時間を過ごすくらいは、二人も受け入れた。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
サーシャがハイセを追放した事だけば間違いだとは認めないわけだな。 間違いだらけだと思う。 ハイセの能力が開花せずこのままだとハイセの命の危機になりかねない、と言う理由ならまだわかる。 ただ苛ついて幼馴…
ここまで読むとココから先がなんかね、本当に関係戻る様な内容なのか…かもしれないだからなんとも言えないが、死に瀕しても絆か…ピンと来ない。
[一言] 和解する場所を因縁の場所にしたのは良い。ただ、図らずも右目を失った場所だけにそれ相応の痛み(既成事実)を与えることも必要となるであろう。自ら招いた悲劇から逃げているようでは冒険者としての責務…
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