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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第十五章 神の箱庭

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そのころのサーシャ

「………………………………はぁ」

「ちょっとクソデカため息やめてよ」

「そうね。というか、呼び出したのなら、理由説明してくれる?」


 バー『ブラッドスターク』にて。

 サーシャはプレセア、ヒジリを呼び出し、相談に乗ってもらおうとしていた……が、呼び出して十五分、クソデカため息を吐くだけで一向に話そうとしない。

 ヒジリはすでに三枚目のステーキを注文。サーシャの奢りなので一切の遠慮がない。

 プレセアは、数種類の果実を混ぜて作ったカクテルを飲みながら、仕方ないとばかりに言った。


「ハイセとの仲がこじれて、どうしたらいいかわからないんでしょ」

「!?」

「え、そうなん? ってかそんなのいつも通りじゃん」

「な、プレセア、なぜ知っている!?」

「あなたにくっつけた精霊を介して見ていたから」

「そ、そんなのいつの間に!? お前、今すぐ外せ!!」

「言っておくけど、覗き見したいわけじゃないわ。あなたに精霊をくっつけているのは事実だけど……あなたに付けた精霊が騒ぎ出したから、あなたに何かあったんじゃないかと確認しただけよ」

「え……そうなのか?」

「ええ。さすがに、そこまで失礼なことしないわ。私の知り合いがいつ、どこで行方不明になっても居場所がわかるようにしているだけ。探知魔法みたいなものよ」

「そ、そうなのか……」

「勝手に付けたことは謝るわ」


 そう言い、プレセアは自分と同じ果実酒を注文。サーシャの前に向かってグラスを滑らせた。

 サーシャはグラスを受け取り、一気に飲む。


「……甘い」

「で、無様に泣いて、どうしたらいいかわからない……それで相談、ってことね」

「ちょっと、最初から説明してよー」

「……私も少し落ち着いた。ちゃんと説明する」


 サーシャは、これまでの経緯を二人に説明した。


 ◇◇◇◇◇◇


「あんたが悪いじゃん」


 話を聞くなり、ヒジリが言った。


「そもそも、ハイセを追放したあんたが悪いじゃん。イライラをハイセにぶつけてさ、ハイセのために追放ーとか、そんなのハイセが喜ぶわけないじゃん。で、過去を忘れて、ちょっとだけヨリが戻ってきたからまた仲良くーとか……で、ハイセがそれ拒絶したんでしょ? あんた、泣く資格ないし、ハイセの決意を止める権利ないわ」


 聞いていたプレセアも唖然とするような、どストレートな答えだった。

 これがヒジリ。はっきり言って相談には向いていない。

 恐る恐るサーシャを見ると……案の定、沈んでいた。


「……お前の言う通りだ」

「でしょ。だったら、ハイセと『神の箱庭』を賭けて決闘、受けるべきね」

「……う」


 サーシャは、顔を歪ませて頭を抱えた。

 できない。したくない。でも他に思いつかない……正論を受け、今にも髪を掻き毟りそうな勢いだ。

 プレセアは、何を言おうか迷った……サーシャとハイセ。幼馴染同士。こじれた二人。

 このままいけば、ハイセとサーシャの仲は、決定的になる……もちろん、悪い方向に。

 そう思った時、プレセアは自分の胸を押さえた。


(最悪ね、私……)


 少なくとも、プレセアは……サーシャのことを友人と思っていた。

 同時に、負けたくない相手。

 心の中にある『醜い』部分が、ひょっこりと顔を見せたような気がした。

 そんな時だった。


「サーシャちゃん。はい」

「……え?」

「ハーブティー……心が落ち着くわ」


 バーのマスター、ヘルミネ。

 サーシャの前に、この店には似つかわしくない、こぎれいなティーカップが出された。

 鼻をくすぐる薬草の香り。サーシャはハーブティーを口に付け……ぽろぽろと涙をこぼす。


「……おいしい」

「そうでしょ? ふふ、私が調合したハーブティーなの。新作よ?」

「……マスター」

「ごめんなさいね。お話、聞いちゃった。ね……私からいい?」

「……」


 サーシャは頷く。プレセア、ヒジリは何も言わずに聞いていた。


 ◇◇◇◇◇◇


「私ね、ハイベルグ王国に来る前は……アドラメルクにいたの」

「アドラメルクって、聖十字アドラメルク神国?」


 ヒジリが言うと、ヘルミネは笑顔で頷いた。

 だが、プレセアは難しい顔をする。


「……あそこ、異種族に対してあまりいいところじゃなかったけど」

「ええ。私、父はナーガ、母はサキュバスって珍しい種族。しかも私はハーフだからね……父は高名な冒険者で、母もそのパーティーの一員だったの。おかげで私は毎日、家で一人だったわ。しかも……人間の子供たちに、よくいじめられてたわ」


 いじめ。

 聖十字アドラメルク神国は、元々は『人間至上主義』の国だった。

 亜人、異種族を受け入れず、人こそが神の遣いであり、『混ざりもの』は邪教徒である。そういう教えが普通に浸透し、種族差別は当たり前の国だった。

 だが、それは数百年前の話。


「確か、大昔に伝説の冒険者チームの一人のおかげで、人間至上主義は撤廃されたはずよね」

「そうね。伝説の冒険者チーム『ヒノマルヤマト』……アドラメルクでは英雄であり、悪でもあるわ。父も母も、その人たちに憧れて冒険者になったそうよ」


 ちなみに、その『人間』の名はノブナガ。ハイセと同じ『能力』を持つ『イセカイ』の人間である。


「今では差別も少なくなったけど……やっぱり、完全には消えてないの。私は『混ざりもの』って言われて、ずっといじめられてたわ。でも……一人だけ、私を受け入れてくれる子がいた。私の幼馴染の男の子なの」

「幼馴染……男の子」


 サーシャが反応する。

 ヘルミネは頷き、自分用にシェリー酒を注ぐ。


「その子は、私と仲良くしてくれたわ。すっごく強くて、身体を鍛えるのが大好きで……冒険者になって、私を連れだしてくれるって約束したの」

「「「…………」」」

「でも、無理だった」


 両親が死に、ヘルミネは一人で暮らすことを余儀なくされた。

 働き口は多くない。亜人の子、混ざりものの子と揶揄され、日銭を稼ぐのも大変だった。

 家を売り、なけなしの金を抱え、彷徨う毎日。

 どこに行っても虐げられ、蔑まれた。

 幼馴染の男の子だけが、心配してくれた……だが。


『ほっといて!! こんな惨めな私に、優しくしないで……』

『…………』


 会いたくなかった。

 期待の冒険者として、周りからチヤホヤされている少年。

 ヘルミネは、自分の境遇と重ね、逆恨みし……少年と会うたびに、痛烈な言葉を浴びせた。そして、少年が帰ったあと、毎日後悔して泣いた。

 ヘルミネはシェリー酒を飲む。


「あの子を拒絶した。でも……あの子は何度も、私の元に来てくれた。嬉しかったの……でも、私はあまりにも惨めで、あの子が会いに来るたび、拒絶した。今でも後悔してる。もっともっと、優しい言葉を……あの子の優しさを受け入れたら、って……でも私、最後は彼に拒絶されちゃったの」

「えっ」


 ヘルミネはシェリー酒を飲み干し、グラスの縁をなぞる。


「一度だけ、勇気を出して言ったの。あなたと一緒にいたい、って……でも、その時彼は首を振った。『それ以上言わないでくれ』って……ああ、終わったんだなーって思ったわ。自分が散々拒絶して、後になって手のひら返しで『一緒にいたい』なんて、都合がよすぎるもんね。私、もうアドラメルクにいたくなくて……初めて『異能』を使ったわ」


 異能。

 それは、亜人種族が持つ生まれつきの能力。

 サキュバスなら『魅了』で、ナーガなら『怪力』といったように、種族ならではの力のことだ。


「私は、御者を魅了してハイベルグ王国に向かった。新しい土地で生きていこうと思ってね。アドラメルクでは異能を使うと捕まる可能性があったからね……それに、ハーフである自分のこと、あまり好きじゃなかったから」


 ヘルミネは、グラスを洗い場に置き、サーシャに言う。


「今はもう、遠い人になったわ。でも、私は今でも忘れていない……あの人のこと」

「……マスター」

「サーシャちゃん。私はなんとなくわかる。サーシャちゃんみたいに、幼馴染の男の子を拒絶して、後悔して……でも、ハイセくんみたいに、自分一人になって何でもやって、ハイベルグ王国で酒場を持てるくらいまで頑張ったわ。でもね、心の中には思い出があるの。どんなに拒絶しても、拒絶されても……思い出は消えない。過去は消えない」

「…………」

「何度でもやり直せばいいわ。ううん、やり直す努力をしなきゃ。たとえ、ハイセくんの心に深い傷があっても、その傷の原因がサーシャちゃんだとしても……二人は離れ離れになったわけじゃない。必ず、やり直す機会はある」

「…………やり直す」

「うん。きっとできる、私はそう思うわ」

「……マスター」


 ヘルミネは手を伸ばし、サーシャの目元をハンカチで拭う。


「頑張って、サーシャちゃん」

「…………」


 ヘルミネの笑顔はまぶしく……同時に、少し悲しく見えた。


 ◇◇◇◇◇◇


 閉店。

 ヘルミネは一人、グラスを洗いながら思い出していた。


「……一人で頑張った、か。本当は……助けてくれる人がいたんだけどね」


 店を持つのは、簡単なことではなかった。

 でも……一人だけ、ヘルミネに手を貸してくれる人がいたのだ。

 閉店後のバーのドアがノックされ、ヘルミネはドアを開ける。


「ああ、ガイストさん」

「近くに来たから、顔を出してみた」

「どうぞ、中へ」


 ガイストを中に入れ、軽いお酒を出す。

 そう、ガイスト。彼がヘルミネを助け、手を貸してくれた恩人。


「……最近、どうだ?」

「いつも通りですよ。ああ、サーシャちゃんのお悩みを聞いてあげたわ。どうなるかわからないけど……彼女ならきっと、立ち直れる」

「…………そうか」

 

 父親のような、そんな恩人。

 ヘルミネにとってガイストは、そんな人だった。


「……ヘルミネ」

「はい?」

「……シグムントのことを、覚えているか?」

「え?。ええ、もちろん」


 S級冒険者序列六位『技巧の繰り手(イップマン)』シグムント。

 忘れるわけがない。ヘルミネの大事な思い出……幼馴染の男の子の名前。

 ガイストは、ヘルミネの事情を全て知っている。


「ワシがお前を助けたのは偶然じゃない。シグムントは……ワシの甥なんだ」

「え……」


 バーからあまり外に出ない、世間に疎いヘルミネは知らなかった。

 情報は、バーのお客の会話だけ。買い出しは近所で済ませ、普段は家からあまり出ない。なので、ガイストの家族関係なども知らなかった。


「お前がハイベルグ王国に向かったと知ったシグムントは、ワシに連絡を取った。お前を助けてほしい……そう、涙ながらにな」

「……な、なぜ。彼は私のことなんて」

「誤解なんだ、ヘルミネ」


 ガイストが言うと、バーのドアが開いた。

 そして、そこに立っていたのは、シグムントだった。


「……し、シグムント」

「久しぶり、ヘルミネ」


 シグムントは部屋に入るなり、頭を下げた。

 S級冒険者序列六位が、何の迷いもなく。


「許してほしい……きみに、辛い思いをさせた」

「ど、どういうこと……?」

「オレは、きみを拒絶したんじゃない。その……ちゃんと、自分の口から言いたかったんだ」

「……え?」

「『それ以上言わないでくれ』って言ったけど……あれは、『それ以上言わないでくれ、オレの口から言わせてくれ』って言うつもりだった。きみがいなくなって、めちゃくちゃ落ち込んだ…。オレも大人になって、ようやく覚悟も持てた」

「ど、どういう」

「その……いきなり現れて言うことじゃないし、もっと段階を踏むべきだし、いろいろ言いたいことあるだろうし、馬鹿みたいに聞こえるけど……ヘルミネ、オレと結婚してほしい」

「…………え」

「ずっと好きだった。子供のころから……いやその、えっと」

「……ふふ、なにそれ……あなた、ばか?」


 ヘルミネは涙を流し、クスクスと笑い出す。

 シグムントも、どこか照れつつ顔を赤らめていた。

 すれ違い同士だった幼馴染が、こうして再会した。とびっきりの愛をもって。

 ガイストは完全に気配を消し、ドアの音もさせずにバーを出ていた。


「……ようやく覚悟が決まった、か」


 バーを振り返りながら、そう思う。

 かつて、七大冒険者に任命された時、シグムントはガイストに報告に来た。

 が……本当の目的は、ヘルミネの様子を見に来ることだった。そして、ヘルミネを見て『覚悟』を決めるために、シグムントはこの日のために準備をしてきたのだ。

 

「やり直せる、か。ハイセ、サーシャ……お前たちもきっと」


 そう呟き、ガイストは夜の街に消えるのだった。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒジリがサーシャをバッサリ斬ったのが良かった。セイクリッド在籍時代のハイセをぞんざいに扱ったツケが回ってきた。 [一言] 現在のセイクリッドはハイセ追放以前から仲良しクラブ的な付き合いが…
いや、このふたりがやり直せたのは完全誤解で心以外に実害がなかったからでしょ? 欠損負うレベルの実害受けてて許せるわけねーべ
過去は消えない!!(コラ) いやこの場合コラじゃなくて本家の方かも知らんな。追放してるし。
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