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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第十五章 神の箱庭

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こじれた二人

「師匠、どうしたんです?」


 宿に戻ると、クレアがシムーンの作ったクッキーをイーサンと二人で食べていた。

 シムーンは紅茶のポットを手に、イーサンは両手にクッキーを持ち、モグモグと咀嚼。宿屋の主人はハイセを見るなり怪訝そうな目をした。


「……別に」

「む……嘘ですね。絶対何かあった顔してますー……あ、サーシャさんですか?」


 ピクリと、眉が反応してしまった。

 クレアも察したのか、追及してくる。


「喧嘩でもしたんですかー?」

「……」

「あ、あれ? 師匠、どこ行くんですか? 師匠?」


 このままここにいると、怒鳴り散らしてしまいそうだった。なのでハイセは無言で宿を出る。

 クレアは首を傾げ、イーサンとシムーンは顔を見合わせる……すると。


「……放っておきなさい」

「え?」

「……今は、何も言わん方がいい」


 宿屋の主人がそう言い、新聞をパサッと広げた。

 奇しくも、この中で一番ハイセを理解しているのは、宿屋の主人だった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ハイセは宿を出て街を歩く。

 すっかり夜。冒険を終えた冒険者たちが大衆食堂で武勇伝を語ったり、静かなバーでカップル同士が酒を飲み、娼館ではひと稼ぎした冒険者たちが快楽を求め歩みを進めている。

 だが、ハイセは何もする気になれなかった。

 腹も減っていない。だが、思わず口に出た。


「……晩飯。シムーンに悪いことしたな」


 ぽつりとつぶやき、立ち止まる。

 夜の王都は、昼間と違う顔を見せる……立ち止まったせいか、誰かと肩がぶつかった。


「いってぇ……なんだお前、ぼーっとしてんじゃねぇよ」


 ハイセより少し年下の冒険者だ。

 男三人、女二人のチームだ。まだ新人だろう、ハイセがS級冒険者序列一位『闇の化身(ダークストーカー)』と気付いていない。

 ハイセは無視。すると、頭に来た冒険者がハイセの肩を掴んだ。


「おい!! 無視すんじゃねぇ、謝れよ!!」

「…………」

「んだこいつ、眼帯なんかしやがって……ぶちのめされてぇのか?」


 ハイセは、かれらに何の感情も湧き上がってこなかった。

 だが心の中は、ぐちゃぐちゃしていた。

 サーシャたちとの間にできた新しい『絆』を否定し、再び一人で歩き出そうとした……だが、サーシャに『絆』を失いたくないと涙され、迷ってしまった。

 そして、気付いてしまったのだ。ハイセの中にも僅かだが……『サーシャたちとの絆を失いたくない』と思う自分がいることに。

 

「おらっ!!」

「っ」


 殴られた……が、それでも何の感情も湧き上がってこない。

 大したダメージはない。倒れも、よろけもしない。

 

「…………」


 サーシャは、弱かった。

 S級冒険者序列四位『銀の戦乙女(ブリュンヒルデ)』……強く、高潔で、輝く闘気を纏い、数多くの冒険者を率いる若き女傑。

 幼馴染であり、自分を陥れ、チームから追放された恨みはある。だが同時に、その在り方を尊敬した。

 でも……駄々をこねて泣く弱い少女も、サーシャの中にいた。

 そのことに失望……いろいろな感情が混ざり合い、無気力になっていた。


「なんだこいつ、やり返さねぇぞ。おい、やっちまおうぜ」

「おい、金持ってるか?」

「ちょっと、やめなさいよー」


 ハイセに群がる新人たち。女も「やめろ」と口で言うが、どう見ても笑っていた。

 そんな時だった。


「……ったく、無知ってのは時に、愚かを通り越して憐れに見えるぜ」


 キザったらしい声。

 帽子を押さえ、ボロボロのマントをなびかせ、咥え煙草をする男が近づいて来た。

 新人の一人が無視し、ハイセを殴ろうとするが……その拳をパシッと受け止める。


「おいおい、何してるんだ? ぼーっとしちまってよ」

「…………お前」

「よ、久しぶり……と、言いたいが、この状況は何よ?」

「…………」

「んだおっさん、放せよ!!」


 おっさんこと、ウルは手をぱっと放す。

 そして、クックと笑い、新人たちに忠告した。


「あのなぁ、新人用の簡単な依頼をクリアしてハイになる気持ちはわかる。お前ら、元チンピラだろ? 話し方と動きを見ればよーくわかる……で、お前らに質問。お前らは、誰に手ぇ出したかわかるか?」

「あぁ?」

「はー……こうして生きてるのだって奇跡みたいなもんだ。なあ、S級冒険者序列一位さんよ」


 ウルがそう言うと、新人たちは意味不明と顔を歪める。

 そして、新人たちの後ろから、指導係の冒険者たちが近づいて来た。


「おいお前ら、こんな往来で何やってんだ!!」

「あ、ボッスさん!! こいつらが調子乗ってて……」


 と───ボッスと呼ばれた冒険者がハイセ、そしてウルを見て顔を青くした。

 そして、光の速さでハイセとウルの前で土下座する。


「もももも、申し訳ございません!! その、こいつら何も知らないガキでして!!」

「ぼ、ボッスさん……?」

「こんの、大馬鹿野郎!!」


 ボッスは立ち上がり、新人を殴り飛ばした。


「この方は、冒険者の頂点に立つ七大冒険者の一人、ハイセさん、ウルさんだ!! お前ら、誰に喧嘩売ったかわかってんのか!? おら、土下座しろ!!」

「「「「「ひっ……」」」」」


 五人は一斉に土下座……だが、ハイセはどうでもいいのか、歩き出した。

 ウルはボッスに、「次はねぇぞ」とだけ言い、ハイセの隣に並ぶ。


「ああ。おせっかいだったな……ちょっと迷ったが、何か様子がな……、あのままだと新人たちが可哀想だったしな……いろいろ言いたいこともあるだろうが」

「どうでもいい」

「……お悩みか。おれはてっきり、顔見せたら殺されるぐらいの覚悟もしてたんだがな」


 ウルは、エクリプスの命令で一時的にハイセを狙った。

 そのことを指摘されると思ったが、ハイセはどうでもいいのか歩き出す。

 その様子が気になり、ウルは提案する。


「な……この近くに、オレの店があるんだ。何かあったんだろ? こういう時は、無関係のオレに全部吐き出してスッキリするのもアリだと思うぜ」

「…………」


 ハイセはウルを見た。

 妙な気分だった。なぜか、この男には話してもいい……そう思った。

 

 ◇◇◇◇◇◇


「で、何かあったのか?」

「…………」


 ハイセは、ウルの店の二階にある個室にいた。

 店はバー、一階は狭く、二階に貸し切りの個室が一つあるだけ。店のマスターはウルの古い知り合いらしいが、ハイセはどうでもよかった。

 ウルは、ハイセにボトルを差し出す。


「『ワイルドキート』……穀物酒、けっこうキツイ酒だが。こいつを飲んで、溜まったモン全部吐き出しな」

「…………」


 ハイセは穀物酒を飲む……言った通り、かなりキツイ酒だった。

 ハイセは何も語らない。なので、ウルが言う。


「あー……一つ謝罪させてくれ。プルメリア王国のパーティーでお前を弓で狙ったが、当然当てるつもりはなかった。『銀の明星シルヴァー・ヴェスペリア』と手を切る前、最後の頼みってことで聞いたんだ……あの依頼が終わって、オレはそのままハイベルグ王国に来た。また、孤独な風として吹かれるためにな」

「…………」

「なんだよ、覇気の欠片も感じねぇ……ふん、何かに絶望したか? それとも、大事なモンを失ったか? 酒の誘いに乗ったってことは、少しはオレに話す気になったか? 誰にも言わねぇし、秘密は墓までもっていく……話してみろよ」

「…………はあ」


 ハイセはようやく、ウルを見た。


「…………くだらない話だ」

「酒の席での話は、大抵くだらねぇ話さ」


 ハイセは、先ほどあった話をした……自分の心情も含めて。

 サーシャとの絆を捨て、もう一度一人で歩む覚悟をしたこと。サーシャが涙ながらに否定したこと……そして、今の気持ちを。

 全て話終えると、穀物酒を一気に飲み干した。


「ガキだな」

「……あ?」


 ウルは「ははっ」と笑い、ハイセのグラスに穀物酒を注ぎながら言う。


「お前さんは昔と変わることを恐れて、変わらない道を選んだ。サーシャは、今と変わらないことを望み、変わろうとするお前を引き留めたかった……まあ、どっちも正しい選択だと思うぜ」

「…………」

「まあ、お互いその決断を受け入れられないくらいは、子供ってわけだ」

「……はっ、そうかもな」

「まあ、根っこにあるモンが深い。お前さんの追放……そして、その右目を失った『事故』……なあハイセ、お前さんは未だに、追放や右目の件を許していないのか?」

「……二つ、ある」

「あ?」

「一つは、過去の俺。決して許すなと叫ぶ俺。もう一つは、全てを許し、もう一度サーシャたちと歩めと叫ぶ、今の『絆』を許容している俺だ。どっちもいるから、俺には決断できない……ははっ、本当にガキだな」

「……かもなあ。まあ、それは大事だと思うぜ。必ずしもどちらかにしなくちゃいけない、そんな決まりはないからな。だったら、二つを交互に使え」

「……あ?」

「状況に応じて、二つのお前を上手く使えって話だ。過去のお前、今のお前……どっちかである必要なんてない。どっちもお前なんだ」

「……どっちも、俺」

「そうだ。許さないなら、許さないままで、サーシャたちとうまく付き合え。いつか本当にサーシャたちを許せる日が来るかもしれないしな。それに……過去を忘れることなんてできない。それは、サーシャたちだって同じだ。あいつらだって、お前を追放し、怪我を負わせた罪は永遠に消えない。あいつらも、それを抱えてお前に接してるんだ」

「……!!」


 そういうことだった。

 ハイセだけじゃない。サーシャたちもなのだ。

 ハイセを追放し、右目を失うほどの怪我をさせたという事実は、永遠に残る。


「まあ、どう考えてるかは、わからんけどな……サーシャはお前との『絆』を失いたくないって思ってるのは、お前に対する負い目を含めての意味かもしれん。そういうのを含めて、あいつらはガキなのか……それとも、大人なのかもな」

「…………」

「あー、自分でも何言ってるのかわからなくなってきたぜ‥俺もまだガキかもな。ほれ、飲め」

「…………あ、あぁ」


 ハイセは穀物酒を飲み、考えた。

 どちらも自分。そして、抱えているのは自分だけではない。

 

「…………サーシャと、話してみるしかないな」

「ああ、そうだな」

「……ウル」

「お? お、おう」


 初めて名前を呼ばれ、ウルは戸惑った。


「……ありがとよ」

「…………ど、どういたしまして」


 思わず、丁寧な言葉でウルは返してしまうのだった。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
この話とは関係ないけど、厨2としては右目に魔眼とか来るの待ってるんですケード!
[気になる点] ウルが緩衝材になろうとするのは別に良いんやけど、かなり的はずれな助言してるし それでハイセが納得しかけてるのが意味わからん
[良い点] ウルが良い仕事をしたなぁ ソロで世渡りしてきた先輩なわけですが、年下なハイセに最後敬語になってちょっとビビッてるとこがまた。 [気になる点] こんな時サーシャはあそこに行くんじゃ…決闘は飲…
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